楊素

楊素（よう そ）

楊素（よう そ、? - 606年）は、北周から隋にかけての政治家・軍人であり、隋の上柱国・司徒・楚景武公に上りつめた人物です。字は処道。父は楊旉、弟には楊約・楊詢・楊慎・楊岳・楊戻・楊操らがおり、子には楊玄感・楊玄奨・楊玄縦・楊仁行・楊万石・楊積善らがいます。

生涯

楊素は弘農郡華陰県を本貫としますが、隋の帝室である楊氏とは異なる系統です。

父の楊旉は北周の汾州刺史でしたが、北斉の攻撃により捕らえられ、北斉に仕えることを拒んで憤死しました。楊素は、北周の大冢宰であった宇文護に引き立てられて中外記室となり、礼曹に転じて大都督を加えられました。北周の武帝が親政を始めると、楊素は父の追封を訴え続けましたが、武帝の怒りを買い処刑寸前まで追い詰められます。しかし、その堂々とした態度が武帝に認められ、楊旉に持節・大将軍・淮魯復三州刺史の位が追贈されました。楊素自身も車騎大将軍・儀同三司に任ぜられ、厚遇されます。

北斉との戦いでは先鋒を務め、宇文憲に従って河陰で戦い、清河県子に封ぜられ、司城大夫に任ぜられました。北斉平定後には上開府の位を加えられ、成安県伯に改封されています。

楊堅（後の隋の文帝）が北周の丞相となると、楊素はこれと親交を結び、汴州刺史に任ぜられます。尉遅迥の乱が起こると、北周の大将軍に上り、宇文冑を撃破。徐州総管、柱国、清河郡公と、着実に地位を上げていきました。

隋が建国されると、上柱国・御史大夫に上ります。しかし、妻の鄭祁耶の嫉妬深さに怒り、「もし私が天子となったとしても、お前を皇后にはしない」と言ったことが文帝の耳に入り、免官されるという事件も起こりました。

文帝が江南を奪う計画を立て始めると、楊素は南朝陳を平定する策を献策し、信州総管に任ぜられます。永安で大艦を建造し、晋王楊広（後の煬帝）を補佐して行軍元帥となり、水軍を率いて長江を下り、陳を滅ぼしました。楊素は捕虜にした陳の兵を労って解放し、その公正な態度から陳の人々は彼を「江神」と称え恐れ敬ったといいます。陳討伐の功績で越国公に封ぜられ、納言、内史令と昇進し、陳滅亡後に江南で頻発した反乱を鎮圧しました。

「破鏡重円」の故事に登場するように、陳の宣帝の娘である楽昌公主を賜り側室としますが、彼女が以前の夫を探していることを知り、復縁を助けたという逸話も残されています。

592年には蘇威に代わって尚書右僕射となり、張衡、高熲と共に朝政を分掌しました。598年には突厥の侵入に対し、霊州道行軍総管として出征し、これを撃破しています。

600年、晋王楊広が霊朔道行軍元帥となると、楊素はその下で長史となり、楊広との親交を深めます。601年には高熲に代わって尚書左僕射となりました。楊素の一族は多くが隋の高官に任命され、楊素自身の邸宅も宮殿のように贅を凝らした造りであったと伝えられています。

文帝の晩年には、太子楊勇と晋王楊広との間で皇位継承を巡る暗闘が繰り広げられていました。楊素は表向きは中立を保ちながらも、裏では楊広の立太子に協力しました。文帝は独孤皇后の言葉を受け入れ、楊勇を廃嫡して楊広を太子に定めます。

604年、文帝が崩御し煬帝が即位します。文帝は、楊広の非行に怒り楊勇を呼び戻そうとしましたが、楊素はこれを察知して楊広に報告し、楊広が父を殺害させたという説も存在します。

煬帝の弟である漢王楊諒が反乱を起こすと、楊素はこれを討伐し鎮圧しました。605年には尚書令、太子太師に任ぜられ、606年には司徒に上り、楚国公に封ぜられます。しかし、煬帝の猜疑を受け、失意のうちに亡くなりました。

楊素は、その才能と功績によって隋の建国と発展に大きく貢献した一方で、皇位継承を巡る暗闘や煬帝の猜疑心に翻弄された、波乱万丈な生涯を送った人物と言えるでしょう。

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