玉縄城

神奈川県鎌倉市の玉縄地域に位置する玉縄城は、旧相模国鎌倉郡玉縄村にあった日本の城郭です。平山城に分類され、甘縄城とも呼ばれます。現在、「玉縄城址」として特別緑地保全地区に指定されており、後世にその歴史を伝えています。城址の最寄り駅はJR大船駅です。

城の歴史

北条氏の時代

玉縄城は、戦国時代の永正9年（1512年）頃、後北条氏の礎を築いた北条早雲（伊勢盛時）によって築城されたと伝えられています。ただし、築城以前から小規模な砦や城郭が存在していた可能性も指摘されています。

築城の大きな理由の一つは、西方へ勢力を広げた北条氏が、東相模国の三浦氏やその本家にあたる武蔵国の扇谷上杉家との間で長期にわたる抗争を繰り広げていたことにあります。三浦半島の付け根にあたるこの地に堅固な城を築くことで、新井城に籠る三浦義同（よしあつ）への扇谷上杉家からの援軍や、北条氏が挟撃される事態に備える必要がありました。

また、玉縄城は外堀が柏尾川と直結しており、河川舟運を通じて相模湾まで舟を出すことが可能でした。この地の利から、水軍を統括する重要な拠点としての役割も担いました。さらに、古都鎌倉に近いことから、鎌倉の防衛という側面も持ち合わせていました。

三浦氏が滅亡した後も、玉縄城はその重要性を失うことなく、安房国の里見氏に対する押さえや、後北条氏の本拠地である小田原城を守るための重要な支城としての機能を果たしました。

北条氏時代には、一門の重鎮が代々城主を務めました。初代は早雲の子・氏時でしたが早世し、氏綱の子・為昌が二代目となりました。為昌がまだ若かったため、父である氏綱が小田原と玉縄を往復しながら政務を執り、里見氏の攻撃で焼失した鶴岡八幡宮の再建なども指揮しました。為昌が急逝すると、氏綱の娘婿で為昌を補佐していた北条綱成が三代城主を継ぎました。綱成は為昌の養子という形で城主になったとされますが、実際の年齢は綱成の方が上であり、異説もあります。その後、城主の地位は綱成の子・氏繁、氏繁の子・氏舜、氏勝へと、北条一門の中で四代にわたって引き継がれました。

玉縄城は堅固な守りを誇る城として知られていました。大永6年（1526年）に足利義明に呼応して鎌倉に攻め入った里見義豊（または里見実堯）の軍勢を撃退した鶴岡八幡宮の戦い（大永鎌倉合戦）をはじめ、里見氏の攻撃を幾度も退けました。関東へ侵攻した上杉謙信や武田信玄といった名将ですら、玉縄城の攻略を断念した（あるいはそのまま通過した）と伝えられるほど、難攻不落の城でした。

天正18年（1590年）、豊臣秀吉による小田原征伐が始まりました。当時の玉縄城主、北条氏勝は山中城の守備についていましたが、山中城が落城寸前となると責任を感じ、自害を考えます。しかし、弟の北条直重らに説得され思い留まり、敗残兵を率いて撤退。小田原城へは向かわず、自身の本拠地である玉縄城へと戻り籠城しました。この行動は、小田原城に籠る当主北条氏政の疑念を招くことになります。玉縄城は徳川家康軍に包囲されましたが、地元の龍寶寺住職による説得を受け入れ、同年4月21日に戦うことなく降伏・開城しました。開城後、城には徳川氏や古田重然、瀬田正忠らが守備に入りました。氏勝はその後、下総地方にある北条方の城の開城交渉に尽力し、戦後は徳川家の家臣となり、下総岩富城一万石を与えられ、岩富藩を立藩しました。

徳川氏の時代と廃城

江戸幕府が開かれてからも、玉縄城は引き続き重要視され、徳川家康の側近である本多正信や水野忠守が城主を務めました。

しかし、元和元年（1615年）に江戸幕府が出した一国一城令の影響を受け、元和5年（1619年）に玉縄城は廃城となりました。

城が廃された後、徳川一門である長沢松平氏の松平正綱が玉縄の地に二万二千石を与えられて入封し、玉縄藩を興しました。正綱は城の南山麓に玉縄陣屋を築き、ここを藩庁としました。しかし、三代藩主の松平正久が元禄16年（1703年）に上総国の大多喜藩へ移封されたため、玉縄藩は廃藩となりました。

その後、寛政4年（1792年）には老中松平定信が海岸防備を目的として玉縄城の再興を計画しましたが、これは残念ながら実現には至りませんでした。

遺構の現状と保存活動

かつて玉縄城は、周辺に点在する砦群を含め、広大な城域を有していました。昭和30年代（1955年頃）までは比較的多くの遺構が残っていたようですが、昭和35年（1960年）以降の東急不動産による開発などにより、その多くが失われてしまいました。特に昭和38年（1963年）には、城の中心部である主郭跡や諏訪壇といった場所に清泉女学院中学高等学校が誘致され、城跡の景観は大きく変わりました。

近年も宅地化は進んでおり、周囲には多くのマンションが建設されています。かつて見られた土塁や竪堀なども、開発によって痕跡程度の高まりが見られるだけになったり、完全に破壊されてしまったりしています。しかし、「早雲台」「城山」「城廻」「関谷」「植木」といった周辺の地名に城の記憶が残っています。また、龍寶寺から玉縄城大手口へ至る七曲坂や、久成寺からのふわん坂、陣屋坂など、一部の坂道が残っていますが、かつての城の状況を詳しく知ることは困難です。

城内で最も高い場所とされる「諏訪壇」は、学校敷地内にあります。その下には土塁や土橋、三角形の曲輪などが残ります。諏訪壇と「けまり場」と呼ばれる曲輪の間には堀切があり、けまり場にも土塁が残存しています。さらに、けまり場と「月見堂」と呼ばれる曲輪の間にも堀切があり、その先には小規模な堀切が二条残っていますが、これらは立ち入りができません。主郭跡（現在の学校のテニスコート付近）の切岸であった辺りには、土塁の痕跡と思われる低い土盛りが確認できます。

整備された「太鼓櫓」と呼ばれる郭があり、その真下にはかつて通路としても利用された堀切が残っています。その先にも堀切がありますが、立ち入りはできません（この堀切は陣屋坂からマンション越しに見ることができます）。七曲坂を上り詰めた地点は、太鼓櫓下の堀切を兼ねた道と七曲坂からの道が合流する、虎口（出入口）の跡と考えられています。相模陣稲荷一帯には、「おんまや曲輪」跡の一部が残っています。清泉女学院の校門前に置かれている大きな石は、玉縄城の遺構の一部ではないかと言われています。

立ち入りはできませんが、主郭の外周を囲む大土塁や帯曲輪は城壁の役割を果たしており、現在も残されています。また、細尾根には岩を砕いて造られた堀切や、「くいちがい」と呼ばれる曲輪跡に土塁と空堀らしき地形が残っています（これらの遺構も通常は立ち入りできません）。

近年、玉縄城跡の保存・顕彰の動きが活発化しています。平成18年（2006年）に設立された任意団体「玉縄城址まちづくり会議」が中心となり、龍寶寺境内の玉縄歴史館などを拠点に保存活動を推進しています。市への働きかけにより、太鼓櫓跡は「市民緑地制度」を活用した「植木1号市民緑地」として公園化されました。さらに、鎌倉市による玉縄城跡の史跡指定の方針も決定しており、今後の遺構保護や歴史の継承に向けた取り組みが進められています。

周辺の関連史跡・施設

玉縄城の周辺には、城を守るための多くの砦が配置されていました。これらは『鎌倉市史』などで「玉縄城砦群」として言及されており、南西の藤沢市渡内にある二伝寺砦、藤沢市村岡の村岡城（高谷砦）、藤沢市藤が岡の御幣山城（御幣山砦）などが知られています。また、北東の横浜市栄区には長尾城（長尾砦）跡があり、城域内には龍寶寺砦も存在したと考えられています。

龍寶寺は、玉縄城の城主たちの供養塔がある寺院で、かつては龍寶寺砦であったという説もあります。境内には、民間団体「玉縄城址まちづくり会議」が運営する玉縄歴史館があり、玉縄城に関する復元図、ジオラマ、発掘されたかわらけや石つぶてなどが展示されており、玉縄城の歴史を学ぶことができます（有料）。

玉縄首塚（甘縄首塚とも）は、大永6年（1526年）の鶴岡八幡宮の戦い（大永鎌倉合戦）で戦死した北条方の将兵を供養するために建てられた塚です。柏尾川沿いにあり、毎年8月19日には供養祭を兼ねた「玉縄史跡まつり」が開催されています。

その他、玉縄城に関連する場所として、玉縄藩や玉縄陣屋の跡、また城の名前を由来とする「玉縄桜」なども挙げられます。

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