郢曲抄

郢曲抄の概要

『郢曲抄』は、平安時代末期、約12世紀に成立した歌曲集であり、その著者は明らかではありません。この音楽書は、当時の流行歌や音楽についての貴重な記録を提供しており、音楽と文化の交流を理解する上で重要な資料となっています。この作品が成立した時期は、治承年間（1177年 - 1181年）頃とされているものの、具体的な成立日や著者に関しては多くの謎が残っています。

特に、著者が誰かについては諸説あり、一般的には後白河法皇が関与しているのではないかとも言われています。彼は『梁塵秘抄』の編集者としても知られ、当時の流行歌謡である今様を愛し、それに基づいた作品を数多く残しました。『郢曲抄』には、神楽や催馬楽など古代の音楽形式や、それに関連した歌い方、またそれらの起源についても詳しく記されており、平安時代の音楽文化を垣間見ることができます。

郢曲の意味と変遷

本書に注目すると、郢曲という言葉の使い方に注目すべきです。平安時代初期においては、朗詠や催馬楽、神楽歌など、宮廷歌謡全般を指す呼称として使われていました。しかし、時代が進むにつれてその意味は変化し、平安時代中期に入ると今様歌も含むようになり、平安末期には神歌や足柄、片下、古柳、沙羅林などの雑芸も含まれるようになりました。このことから、郢曲という言葉は当初の狭い意味から、やがて広い範囲の歌謡を指す用語へと発展したことがわかります。

さらに、鎌倉時代の卜部兼好の随筆『徒然草』には、「梁塵秘抄の郢曲の詞」とあり、ここでは郢曲の中でも特に雑芸の部分を指していると考えられています。この引証は、『郢曲抄』の別名が『梁塵秘抄巻十一』と呼ばれていたことに由来しているとされています。

郢曲抄が持つ文化的意義

『郢曲抄』は、音楽理論や技術を具体的に示すものだけでなく、当時の人々がどのように音楽を理解し、楽しんでいたかをも反映しています。この音楽書は、平安時代の文化や社会状況への貴重な洞察を与えてくれるものであり、その後の世代に受け継がれることによって、日本の音楽文化の発展にも影響を与えたと考えられます。

このように、『郢曲抄』は単なる音楽書ではなく、当時の日本の文化、風習、思想を理解するための重要な資料となっていることがわかります。今後もその解釈や研究が進むことで、さらなる知見が得られることでしょう。

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