霜の巨人

北欧神話の巨人：霜の巨人（ヨトゥン）

北欧神話に登場する霜の巨人（ヨトゥン）は、並外れた力を持つ精霊の集団です。古ノルド語では「jǫtunn」と呼ばれ、英語では「jotun」と表記されることもあります。彼らはアース神族やヴァン神族とは対立する立場にありますが、交流や婚姻関係もあったとされています。

ヨトゥンの住処と起源

ヨトゥンの故郷は、ヨトゥンヘイムです。これは、北欧宇宙論における九つの世界のひとつで、高い山々や深い森によって人間の世界ミズガルズから隔てられています。ニヴルヘイムやウートガルズなどもヨトゥンに関連する地名です。伝承によっては、人間の身長と同じくらいのヨトゥンもいるとされています。

ヨトゥンの起源は、太古の混沌ギンヌンガガップで生まれた巨人ユミルにまで遡ります。ユミルの体から生まれた巨人たちが、霜の巨人の祖先となったとされています。神々は、ユミルの血をニヴルヘイムに流し込み、ほとんどの巨人を滅ぼしましたが、ベルゲルミルとその妻だけは生き残りました。現代のヨトゥンは、ベルゲルミルの末裔とされています。

ヨトゥンの特徴と神々との関係

ヨトゥンは、混沌とした大自然の力を象徴する存在です。一般的に醜悪な容姿で描かれ、鋭い爪や牙、奇形の顔を持つ者もいます。中にはスリヴァルディのように九つの頭を持つ者もいます。また、ロキの子であるヨルムンガンドやフェンリルのように、人間とは異なる姿のヨトゥンも存在します。

しかし、ヨトゥンは必ずしも悪役ではありません。中には、ミーミルやヴァフスルーズニルのように、膨大な知識を持つ者もいます。神々と結婚したヨトゥンも多く、スカジ、ゲルズ、グンロズなどが有名です。トールもヤールンサクサとの間に息子マグニをもうけています。ヨトゥンヘイムのエーギルなどは、神々と特に深い関係を持つとされています。

ラグナロクと炎の巨人

ラグナロクでは、ヨトゥンは神々と対立します。フリュム率いるヨトゥンたちは、神々との最終決戦に臨みます。この戦いで、炎の巨人スルトが世界樹ユグドラシルに火をつけ、世界は滅びるとされています。炎の巨人は、ムスペルヘイムという灼熱と炎の世界に住み、ラグナロクの終末をもたらす役割を担っています。

ヨトゥンとその他の精霊

後の北欧伝承では、「神秘的」を意味する語に由来するトロールと呼ばれる精霊が登場しますが、このトロールは、ヨトゥンの古い概念を受け継いでいるとされています。ノルウェーの山脈は「ヨートゥンヘイメン」と呼ばれ、ヨトゥンの名が地名に残っています。

語源と関連語

「jǫtunn」の語源は、「食う」を意味するゲルマン祖語の*etunazと関係がある可能性があります。「þurs」は「渇き」または「血への渇き」に由来するかもしれません。現代のノルウェー語では「jotun」、スウェーデン語やデンマーク語では「jätte」や「jætte」、アイスランド語では「jötunn」と変化しています。英語の「ettin」や「thurs」も、同じ語源を持つ単語です。フィンランド神話にも、ヨトゥンに似た存在が登場します。ヴァイキングのルーン文字「ᚦ」はThursと呼ばれ、「Þ」へと発展しました。ノルウェー語の「Tusse」は、古ノルド語の「Þurs」に由来する言葉です。

まとめ

北欧神話のヨトゥンは、単なる悪役ではなく、多様な姿と役割を持つ複雑な存在です。彼らの起源、特徴、神々との関係を知ることで、北欧神話の理解が深まります。 ヨトゥンは、大自然の力と混沌を象徴し、神々と対立する一方で、神々と深いつながりを持つ存在でもあります。ラグナロクにおける彼らの役割は、世界の終末を告げる重要な要素となっています。

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