(594913) ꞌAylóꞌchaxnim

小惑星 (594913) ꞌAylóꞌchaxnim

小惑星(594913) ꞌAylóꞌchaxnimは、暫定的に(594913) 2020 AV2という符号で呼ばれ、内部ではZTF09k5という名称で知られていた天体です。2020年1月4日、パロマー天文台のZwicky Transient Facility（ZTF）による観測で発見されました。この小惑星の最も特筆すべき点は、その公転軌道が完全に金星の軌道の内側に収まっているという点です。これは、発見当時知られていた小惑星の中では初めての事例であり、太陽系内の小惑星分布に関する新たな知見をもたらしました。

発見の経緯

(594913) ꞌAylóꞌchaxnimは、天文学者のブライス・ボーリン、フランク・マスキ、クアンツァイ・イェらによって発見されました。ZTFは、地球の公転軌道よりも内側を巡るアティラ群と呼ばれる小惑星を探査するプロジェクトの一環として観測を行っており、今回の発見もその中で成し遂げられました。太陽に近い領域にあるこのような天体は、太陽のまぶしさのため観測が非常に困難です。金星軌道の内側にある小惑星の場合、太陽から離れて見える最大角度（最大離角）は47度を超えることがなく、観測できるのは太陽が地平線の下にある早朝か夕方のみに限られます。

発見当時、(594913) ꞌAylóꞌchaxnimはみずがめ座の方向に見え、その明るさは約18等級でした。発見の報告は2020年1月4日に小惑星センター（MPC）へ行われ、その後、地球近傍天体確認ページ（NEOCP）に掲載されました。これを受けて世界中の様々な天文台で追跡観測が行われ、その詳細な軌道が確定されました。小惑星の発見は、2020年1月8日にMPCが発行した天文回報で正式に発表されました。

興味深いことに、共同発見者の一人であるクアンツァイ・イェらは、この発見に先立つ2019年末には、ZTFが金星軌道内に位置する最初のVatira群小惑星を捉える可能性が高いと予測していました。これは、彼らが以前に2019 AQ3や2019 LF6といった、比較的太陽に近い軌道を持つ小惑星を発見していた経験に基づいています。彼らは、たとえ小さな離角しか持たない天体の検出が難しくても、ZTFの能力であれば少なくとも一つのVatira群小惑星が見つかるだろうと推測していたのです。

名称の由来

発見当初はZTF09k5という内部名称が使われていましたが、軌道が確定したことで2020年1月8日に仮符号2020 AV2が付与されました。さらに追跡観測が進み、軌道が十分に精密になったため、2021年9月20日にMPCから小惑星番号594913が与えられ、正式な命名候補となりました。(594913) 2020 AV2は、新たに提唱された「Vatira群」と呼ばれる小惑星グループの最初の発見例であるため、この天体に付けられる固有名称は、このグループ全体を代表する意味合いを持つことになりました。

2021年11月8日、国際天文学連合（IAU）内の小天体の固有名に関するワーキンググループ（WGSBN）によって、この小惑星に「ꞌAylóꞌchaxnim」という固有名が与えられたことが公表されました。この名称は、発見場所であるパロマー山周辺に古くから住んでいたネイティブアメリカンのルイセーニョ族、パウマ・バンドの人々の言語に由来しており、「金星の少女（Venus Girl）」を意味します。日本語では「アイローチャクニム」と表記されることもあります。

軌道と分類

(594913) ꞌAylóꞌchaxnimの軌道は、遠日点距離が約0.654 auという非常に小さい値を持っており、これは既知のどの小惑星よりも太陽に近い遠日点です。金星の太陽からの平均距離は約0.723 au、近日点距離は0.718 auですから、この小惑星の軌道が完全に金星の軌道の「内側」に収まっていることが分かります。

公式には、その軌道特性から小惑星センターによってアティラ群に分類されています。しかし、典型的なアティラ群小惑星とは異なり、金星の近日点距離よりも遠日点が小さいという特徴を持つことから、金星軌道の内側に完全に閉じ込められた小惑星の新たなサブグループとして提唱されているVatira群に属する最初の天体と位置づけられています。Vatiraという名称は、Venus（金星）とAtira（アティラ）を組み合わせた造語です。

アティラ群に分類されるため、(594913) ꞌAylóꞌchaxnimは地球接近小惑星（NEA）および地球接近天体（NEO）にも該当します。ただし、地球軌道とは離れており、地球との最小交差距離は約0.3469 au（約5190万km）と比較的大規模です。

公転周期は約151日（約0.41年）と短く、軌道長半径は約0.5554 auです。これは、2019年に発見された2019 LF6（軌道長半径約0.5553 au）に次いで、既知の小惑星の中で2番目に小さい軌道長半径です。(594913) ꞌAylóꞌchaxnimの軌道はわずかに楕円形をしており、近日点では太陽から約0.46 auまで接近します。これは水星の遠日点距離（約0.467 au）よりも内側に入り込むことを意味します。また、軌道面は黄道面に対して約15.9度傾いています。水星と金星からの最小交差距離はそれぞれ約0.06557 au（約980万km）および約0.07892 au（約1181万km）となっています。

軌道ダイナミクス

Vatira領域のような金星軌道の内側にある天体の軌道は、金星や水星からの強い重力の影響を頻繁に受けるため、一般的には不安定で一時的なものであると考えられています。長期にわたって比較的安定した軌道を維持できるVatira群小惑星は少ないと予想されています。地球接近天体の軌道分布に関する過去の研究に基づくと、Vatira領域に進入した小惑星の典型的な軌道寿命は、数十万年程度と考えられています。

Vatira領域内では、古在共鳴と呼ばれる軌道共鳴が天体の軌道要素（距離、向き、軌道の偏りなど）を数百万年にわたって周期的に変動させることがあります。この共鳴は、Vatira群小惑星がアティラ群へ、あるいはその逆へと軌道を変える原因となり得ます。また、古在共鳴は、新しくVatira領域に入ってきた小惑星の軌道を混乱させることがある一方で、特定の条件下では一部のVatira小惑星の軌道を長期的に安定させる可能性も指摘されています。力学的に不安定なVatira群小惑星の最終的な運命としては、金星に衝突するか、太陽にごく近くを通過する軌道へと変化するかのどちらかが考えられています。

物理的特徴

(594913) ꞌAylóꞌchaxnimの絶対等級は、おおよそ16.17等と見積もられていますが、この値にはまだ不確かさが残っています。その正確な直径も、表面の反射率であるアルベドがまだ測定されていないため確定していません。しかし、一般的な小惑星のアルベド（0.25～0.05程度）を仮定すると、直径は1キロメートルから3キロメートル程度と予想されており、1kmよりは大きいと考えられています。

2020年6月には、この小惑星の組成に関する研究結果が王立天文学会月報に発表されました。カナリア諸島のラ・パルマ島にある望遠鏡（北欧光学望遠鏡とウィリアム・ハーシェル望遠鏡）を用いた分光観測により、表面がカンラン石（オリビン）に富む組成であることが示されました。この組成は、一般的なS型小惑星とは異なり、原始惑星の内部が分化してできたマントル物質に由来するA型小惑星に近い特徴を示しています。このことから、(594913) ꞌAylóꞌchaxnimはS型とA型の中間的な性質を持つSa型小惑星に分類され、太陽系形成初期に存在した比較的大きな天体（原始惑星）の内部から分離した破片である可能性が示唆されています。

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