うぐいす芸者歌手

鶯芸者歌手（うぐいすげいしゃかしゅ）

鶯芸者歌手は、昭和の戦前から戦後にかけて、流行歌の世界で活躍した芸者、あるいは芸者出身の女性歌手である。「うぐいす芸者」とも呼ばれた彼女たちは、単に歌を歌うだけでなく、日本の伝統的な芸も身につけており、その独自性が多くの人々を魅了した。

歴史的背景と隆盛

昭和初期には「鶯芸者ブーム」と呼ばれるほどの隆盛を見せた。第二次世界大戦後も新たな才能が登場し、引き続き人気を維持した。なぜ芸者出身の歌手が歓迎されたのか、その背景には当時の社会状況がある。戦前は職業としての歌手の地位がまだ低く、女性が社会で活躍する場も限られていた。また、現代のようなオーディション番組や一般人が歌手になるための明確なルートが少なかった時代において、既に公の場で歌い、踊り、楽器を演奏する訓練を受けた芸者は、プロの歌手となるための素養を持つ存在として自然に受け入れられたのである。特に、戦前期からの代表的な芸者歌手である小唄勝太郎、赤坂小梅、市丸らは、その歌声と共に、洗練された芸で聴衆を惹きつけた。

活動と特徴

彼女たちの活動の場は、当時の主要メディアであるレコード、ラジオを中心に、戦前期には映画、戦後にはテレビへと広がっていった。この点は、他の流行歌歌手と大きく変わらない。しかし、芸者歌手ならではの特徴として、流行歌のレコーディングと並行して、民謡や端唄、小唄といった日本の伝統的な邦楽のレコードも数多く残している点が挙げられる。その比重は歌手によって異なり、例えば藤本二三吉や赤坂小梅のように、流行歌でのヒット以上に、端唄や民謡といった邦楽の分野でその真価を発揮し、高い評価を得た歌手も少なくない。戦後も神楽坂はん子や榎本美佐江らが登場し、人気を博した。

類縁の存在とお座敷ソング

また、直接的な芸者経験はないものの、芸者風の衣装をまとって歌う女性歌手も戦前期から存在した。戦後の昭和30年代には、お座敷ソングがブームとなり、五月みどりなど、芸者経験を持たない歌手がこのジャンルで多くのヒット曲を生み出した。これらの歌手や楽曲も「鶯芸者」の流れを汲むものとして広く認識された。

音楽ジャンルへの貢献

芸者歌手や、それに類するスタイルの歌手たちが歌う、情緒豊かな日本調の流行歌は、日本の歌謡曲の中に独自の、そして重要な一分野を形成したと言える。

芸名の多様性

彼女たちの芸名には多様なパターンが見られる。出身地の花柳界の地名を妓籍名に冠する例（例：赤坂小梅）、地名をつけない例（例：市丸）、両方の使い分けがある例（例：新橋喜代三）、自身の専門とする芸（例：小唄）を苗字のように名乗る例（例：小唄勝太郎）などがある。

代表的な歌手と楽曲例

鶯芸者歌手、あるいはそれに類する歌手たちが歌った代表的な楽曲には以下のようなものがある。

藤本二三吉: 「浪花小唄」「祇園小唄」
市丸: 「天龍下れば」「三味線ブギウギ」「ちゃっきり節」
小唄勝太郎: 「島の娘」「東京音頭」「佐渡おけさ」
赤坂小梅: 「ほんとにそうなら」「黒田節」
美ち奴: 「あゝそれなのに」「うちの女房にゃ髭がある」
神楽坂はん子: 「ゲイシャ・ワルツ」
榎本美佐江: 「お俊恋唄」
久保幸江 (類縁): 「トンコ節」「ヤットン節」
五月みどり (類縁): 「おひまなら来てね」「一週間に十日来い」
音丸 (類縁): 「船頭可愛や」「博多夜船」

このように、鶯芸者歌手たちは、単なる流行歌手の枠を超え、日本の歌謡曲と伝統的な邦楽を結ぶ存在として、その後の日本の音楽文化に大きな影響を与えたのである。彼女たちの歌声は、今なお多くの人々に愛されている。

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