アキロバトル

アキロバトル (Achillobator)

アキロバトルは、約9800万年前から9000万年前の白亜紀後期に、現在のモンゴル付近に生息していたドロマエオサウルス科に属する獣脚類恐竜です。この属は、大型のドロマエオサウルス類であり、ホロタイプ標本から全長約6メートルと推定されています。地上での生活に適応した体構造を持ち、二足歩行で肉食性の捕食者でした。特徴的なのは、第二趾に存在する長く伸びた鎌状の鉤爪で、これを用いて獲物を狩っていたと考えられています。

名前の由来

属名である「アキロバトル」は、ギリシャ神話の英雄アキレウスを意味するラテン語の「Achilles」と、モンゴル語で英雄を意味する「baatar」（古代には「bagatur」）を組み合わせたものです。この名前は、鎌状の鉤爪につながる大きなアキレス腱にちなんでおり、この爪がドロマエオサウルス科の主要な武器であったことを示唆しています。タイプ種の種小名「giganticus」は、ギリシャ語の「gigantas」（γίγαντας）に由来し、「巨大な」という意味を持ちます。これは、アキロバトルが他のドロマエオサウルス類と比較して大型であったことにちなんでいます。

発見と種

アキロバトルの化石は、1989年にモンゴルとロシアの共同野外調査によって発見され、モンゴルのBurkhantで収集されました。しかし、記載と命名は、1999年になってモンゴルの古生物学者アルタンゲレル・ペルレ、アメリカの古生物学者マーク・ノレル、ジム・クラークによって行われました。ただし、この時の標本は十分に記載されたとは言えず、ノレルとクラークの知識なしに発表されたという経緯があります。

アキロバトルのタイプ標本であるFR.MNUFR 15は、まとまった状態で発見されましたが、ほとんど関節が外れた状態でした。この標本は、歯のついた上顎骨、2つの頸椎、2つの胴椎、断片的な肋骨、7つの尾椎、肩甲骨、烏口骨、右の腸骨、恥骨、坐骨を含む骨盤、橈骨、不完全な手、左の大腿骨と脛骨、不完全な足の骨で構成されています。Smith et al. (2012)は、脛骨の長さが490ミリメートルであることから、アキロバトルが2番目に大きなドロマエオサウルス類であることを指摘しています。大腿骨は505ミリメートルで脛骨より3%長く、ドロマエオサウルス類としては珍しい特徴です。推定体重は約350キログラムとされています。歯には鋸歯があり、カーブしており、後方の鋸歯は前側よりも大きいです。

キメラの可能性

アキロバトルの骨盤は、他のドロマエオサウルス科と比較して、祖先形質的な（原始的な）竜盤類の特徴を持っています。例えば、恥骨が垂直に配置され、ピュービックブーツ（先端の膨らんだ部分）が大きく、他のドロマエオサウルス類とは異なっています。他のドロマエオサウルス類は、比較的小さなピュービックブーツを持ち、恥骨が坐骨と同じ方向を向いている（この状態はopisthopubyと呼ばれ、近縁でない鳥盤類やテリジノサウルス類、鳥類でも見られる）という特徴があります。

これらの相違点から、Burnham et al. (2000)はアキロバトルが古生物学的にキメラである可能性を示唆しました。しかし、別の研究者は、化石の多くの要素が関節状態で発見されたこと、全ての要素が同じ色と保存状態であったこと、そしてこれらの相違点を含めてもアキロバトルが系統解析で常にドロマエオサウルス科として現れることから、キメラである可能性を否定しています。

分類

アキロバトルは、鳥類に近縁な恐竜と考えられているドロマエオサウルス科に属しています。(鳥類を含む)他の獣脚類とドロマエオサウルス科の系統関係は比較的よく理解されていますが、ドロマエオサウルス科内の系統関係はまだ不明な点が多いです。Longrich & Currie (2009)やSenter et al. (2012)などの最近の系統解析では、アキロバトルはドロマエオサウルス亜科に属し、北アメリカの種であるユタラプトルやドロマエオサウルスに最も近縁であることが示されています。デイノニクスやヴェロキラプトルといった他のドロマエオサウルス科の恐竜は、科内の別の枝に位置づけられています。

独自の解剖学的特徴

記相（diagnosis）とは、生物種（分類群）を他の全ての生物から正確に識別するための解剖学的特徴の説明です。全てではありませんが、いくつかの記相となる特徴は固有派生形質です。固有派生形質とは、その生物種あるいは分類群のみで獲得された識別可能な固有の解剖学的特徴です。

Turner et al. (2012)によれば、アキロバトルは以下の特徴および固有派生形質により識別することが可能です。

前上顎骨窓が完全に露出している
前上顎骨窓および上顎骨窓が細長く、上顎骨と同じ水準で垂直方向に配向している
第三中足骨の近位が広い
大腿骨が脛骨より長い
骨盤がpropubic（恥骨が前を向いた状態）である
腸骨の坐骨の閉鎖孔突起が大きく、三角形で坐骨の骨幹の半分ほど近位に位置している
恥骨の遠位にあるブーツが頭側、尾側の双方に発達している

生態

生息地と年代

アキロバトルの化石は、モンゴルのドルノゴビ県にあるバインシレ層の白亜紀に堆積したきめの細かい砂岩/灰泥岩から発掘されました。正確な年代については2つの対立する仮説が存在し、確定していません。他の累層との比較に基づくと、バインシレ層の動物相は白亜紀後期のチューロン期からカンパニア期初期（9300万年前から8000万年前）のものと最も一致します。しかし、累層の地磁気層序は、バヤンシレ層全体がCretaceous Long Normal（白亜紀にあった長期の地磁気安定期）のものであるため、地層の年代はセノマン期からサントン期（9800万年前から8300万年前）のものと推定されます。

動物相と生息環境

バインシレ層の古動物相には、ティラノサウルス科のアレクトロサウルス、オルニトミモサウルス類のガルディミムス、テリジノサウルス上科のセグノサウルスとエルリコサウルス、アンキロサウルス科のタラルルスとツァガンテギア、ハドロサウルス科のゴビハドロス、竜脚類のエルケトゥ、角竜類のグラキリケラトプス、アズダルコ科の翼竜などが含まれています。

参照

Achillobator at Dinodata
* Achillobator in the Dino Directory

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