アジサイ属

アジサイ属（Hydrangea）について

アジサイ属（学名: Hydrangea）は、ミズキ目に属する被子植物の一群で、その中でもアジサイが特に有名です。一般的に、この属全体をアジサイと呼ぶこともあります。学名から「ヒドランジア」または「ハイドランジア」とも呼ばれます。

名称の由来

「アジサイ」という名前は、「あづ（集まる）」、「さ（接続詞）」、そして「あい（藍）」を略した「さあい」が組み合わさったものとされ、青い小花が集まって咲く様子を表しています。「紫陽花」という漢字表記は、中国の寺にあった花の名前に由来しますが、この花はアジサイとは異なる種類であったとされています。

学名の Hydrangea は、ギリシア語の「ὕδρο（水）」と「αγγειον（容器）」に由来し、果実の形にちなむという説があります。また、「ホルテンシア (hortensia)」という名前は、モーリシャスで栽培されていた植物に付けられたもので、実在の女性「オルタンス (Hortense)」にちなんでいます。この女性が誰であるかについては諸説あり、コメルソンに協力したナッサウ＝ジーゲン公爵家の娘であるという説が有力です。

系統と分類

アジサイ属は、以前はユキノシタ科に分類されていましたが、クロンキスト体系ではアジサイ科として独立しました。分子系統に基づくAPG分類体系では、ミズキ目に分類されています。アジサイ属は、McClintock（1957）によって、以下のように分類されました。

アジサイ節 (Sect. Hydrangea)
アジサイ亜節 (Subsect. Macrophyllae)
タマアジサイ亜節 (Subsect. Asperae)
コアジサイ亜節 (Subsect. Petalanthe)
アメリカノリノキ亜節 (Subsect. Americanae)
ノリウツギ亜節 (Subsect. Heteromallae)
ツルアジサイ亜節 (Subsect. Calyptranthe)
クスノハアジサイ節 (Sect. Cornidia)
モノセギア亜節 (Subsect. Monosegia)
ポリセギア亜節 (Subsect. Polysegia)

この分類は系統的ではなく、一部の節と亜節は単系統ではありません。ミトコンドリアDNAによる分子系統解析では、アジサイ属は側系統であり、他の属を内包することが示されており、これらの属をアジサイ属に含めることが検討されています。

種

アジサイ属には多様な種があり、日本には14種、1亜種、6変種が自生しています。以下に主な種を紹介します。

アジサイ節

アジサイ亜節

ガクアジサイ (Hydrangea macrophylla)：房総半島、伊豆半島などに自生。花序は中心に両性花、周囲に装飾花があり、アジサイ（ホンアジサイ）はこの変種です。
ヤマアジサイ (Hydrangea serrata)：関東より西の本州、四国、九州の山地に分布。花の色が多様で、甘茶の原料にもなります。
ハイドランゲア・スティロサ (Hydrangea stylosa)：ブータン、ベトナム原産。ガクアジサイに似ていますが、花の色が薄いです。

タマアジサイ亜節

タマアジサイ (Hydrangea involucrata)：東北地方南部から中部地方の林地に自生。つぼみが球形です。
ヤハズアジサイ (Hydrangea sikokiana)：紀伊半島、四国、九州南部に自生。葉の先が矢筈状に分かれています。
ヒマラヤタマアジサイ (Hydrangea aspera)：ヒマラヤ、中国、台湾、インドネシアに分布。装飾花が少ないです。
ナガバアジサイ (Hydrangea longifolia)：台湾に分布。葉が細長く、先が尖っています。
ハイドランゲア・ロンギペス (Hydrangea longipes)：中国、ネパールに分布。装飾花が小さく、白いです。
ハイドランゲア・グラブリペス (Hydrangea glabripes)：中国、ネパールに分布。タマアジサイに似ています。

コアジサイ亜節

コアジサイ亜節は、装飾花を持たないアジサイです。アジサイ亜節の系統に含まれるとされています。

コアジサイ (Hydrangea hirta)
キダチノコガク (Hydrangea angustipetala)
カラコンテリギ (Hydrangea chinensis)
ヤクシマアジサイ (Hydrangea grosseserrata)
トカラアジサイ (Hydrangea kawagoeana)
Hydrangea lobbii
コガクウツギ (Hydrangea luteovenosa)
ガクウツギ (Hydrangea scandens) - 名前にウツギとありますが、アジサイの一種です。
Hydrangea umbellata
ヤクシマガクウツギ (Hydrangea yaakusimensis)

アメリカノリノキ亜節

北米原産のグループです。

カシワバアジサイ (Hydrangea quercifolia)：飾り花がありません。
アメリカノリノキ (Hydrangea arborescens)
Hydrangea cinerra
Hydrangea radiata

ノリウツギ亜節

アジサイの名を持ちませんが、アジサイ属に属します。

ノリウツギ (Hydrangea paniculata)
ヒマラヤノリウツギ (Hydrangea heteromalla)
Hydrangea xanthoneura

ツルアジサイ亜節

つる性の種が含まれます。

ツルアジサイ（ゴトウヅル） (Hydrangea petiolaris)
タイワンツルアジサイ (Hydrangea petiolaris)

クスノハアジサイ節

花序による分類が伝統的ですが、分子系統からは否定されています。

クスノハアジサイ (Hydrangea integrifolia)
Hydrangea peruviana
Hydrangea seemannii
Hydrangea serratifolia

アジサイ属に含まれる可能性のある属

アジサイ属が側系統であるため、他の属を吸収して単系統にすることが検討されています。

クサアジサイ属 (Cardiandra)
ギンバイソウ属 (Deinanthe)
シマユキカズラ属 (Pileostegia)
イワガラミ属 (Schizophragma)
セキヘキノキ属 (Decumaria)
バイカアマチャ属 (Platycrater)
ハワイアジサイ属 (Broussaisia)
ジョウザン属 (Dichroa)

類似した群

レンプクソウ科（旧分類ではスイカズラ科）のガマズミ属にも、アジサイに似た花を咲かせる種があります。ムシカリやヤブデマリなどが代表的です。

毒性

アジサイ属の一部の種には毒性があり、摂取すると中毒症状を引き起こす可能性があります。症状は過呼吸、興奮、痙攣などで、最悪の場合死に至ることもあります。毒性物質は特定されていませんが、青酸配糖体が原因であるという説は否定されています。一方で、アマチャやツルアジサイのように食用にされる種もあります。

薬効

アジサイには、漢方薬として利用される品種もあり、そこから抽出されるフェブリフジンという成分がマラリア治療薬の開発につながっています。また、自己免疫疾患などの治療薬としての可能性も研究されています。

まとめ

アジサイ属は、その美しい花だけでなく、多様な種、毒性、薬効など、様々な側面を持つ植物です。この記事を通じて、アジサイの魅力をより深く理解していただければ幸いです。

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