アトミックのおぼん

アトミックのおぼん

杉浦幸雄による漫画作品『アトミックのおぼん』は、主人公である女性「おぼん」を軸に展開する、一話完結型のお色気ギャグ漫画です。おぼんは、スリの腕前と合気道の達人という二つの顔を持ち、悪人から巻き上げた金を困っている人々に分け与えるという、義賊のような活動をしています。

作品概要

連載は1947年に『ホープ』で開始され、その後『面白倶楽部』、『漫画読本』、『漫画サンデー』と掲載誌を変えながら1963年まで続きました。多くの掲載媒体で、1話あたり全2ページ、17～18コマというフォーマットで描かれました。

おぼんのキャラクターは、作者の杉浦が戦後の銀座で目にした、着物姿の女性に強くインスパイアされたものです。その女性は、モノトーンの群衆の中で際立つ華やかさを持っており、杉浦は彼女を「掃き溜めの鶴」と感じたそうです。そこから、粋な和装の女性を主人公にした活劇が着想されました。また、当時横行していた闇成金から金を奪い、戦争未亡人や戦災孤児に施すという「女ねずみ小僧」のようなプロット、さらにロマンス的な要素を盛り込むため、おぼんの性格は「カルメン」のように設定されました。

名前の由来は「Atomic bomb」から来ています。当時、杉浦がアメリカの雑誌で頻繁に目にしていた言葉で、「パワフルな感じがした」という単純な理由で名付けられました。後に、その現実を少し後悔したそうですが、特にクレームはなかったそうです。

物語が進むにつれて、作者自身が「いい加減な性格」と語るように、初期の義賊的な設定は薄れ、おぼんは公然の存在となります。おでん屋を開業したり、結婚したりと、生活感あふれる描写も加わっていきます。仕事もスリから忍び込みへと変化し、忍び込んだ先で不条理な状況に巻き込まれるドタバタギャグが中心になっていきました。晩年の自伝的作品『面影の女』にも、おぼんはしばしば登場しています。

ビブリオグラフィ

アトミックのおぼん（コダマプレス 1966年）
現代漫画 第2期 1 杉浦幸雄集（筑摩書房 1971年）
アトミックのおぼん（小学館文庫 1977年）

映画

『アトミックのおぼん』は、漫画を原作とした映画も制作されています。

漫画横丁 アトミックのおぼん スリますわヨの巻

1961年4月16日に公開されたシリーズ第1作です。東京映画が製作し、東宝が配給しました。モノクロームで、画面アスペクト比は2.35:1、音声フォーマットはモノラルです。当時21歳だった水谷良重（後の2代目水谷八重子）がおぼんを演じ、劇場公開初日に22歳の誕生日を迎えました。

スタッフ

製作：山崎喜暉、金原文雄
企画：宮内義治
監督：佐伯幸三
脚本：柳沢類寿
原作：杉浦幸雄
撮影：黒田徳三
音楽：いずみたく
美術：小島基司
録音：西尾昇
照明：榊原庸介

キャスト

水谷良重 - アトミックのおぼん
中島そのみ - インスタントのおちか
春川ますみ - デラックスのお富
水町千代子 - ズージャのおはね
横山道代 - シイチョウのお芳
渥美清 - マッハのズラ公
稲吉靖 - スタミナの鉄
山田吾一 - 学割の半太
月野道代 - カムカム軒のおたま
中谷一郎 - 正木章太郎
有島一郎 - 伊達野
木田三千雄 - イケダ亭の祖父
田村まゆみ - 町子
藤山竜一 - 横車押三
中村是好 - 鬼ケ島親分
平凡太郎 - 乾分青田
水島真也 - 乾分赤沢
関千恵子 - マダムおつや
阿部博 - 殺し屋
守田比呂也 - 殺し屋
青木君雄 - 殺し屋
木元章介 - ダテノモータース事務員
小山勝正 - 警官
林家珍平 - 警官

ストーリー

物語は、東京・神田を本拠とする任侠「アトミック組」の女親分であり、スリの神様・仕立屋銀次の末裔であるおぼんが、おでん屋「おぼん」を営むところから始まります。スリの腕は衰えていませんが、現在は堅気として生活しています。一方、ライバル組である「ヌーベル組」は、おぼんの懐を狙っています。ある日、おぼんの子分がスった財布の中から名刺を頼りに持ち主を訪ねますが、その先で思わぬ事件に巻き込まれていきます。鬼ケ島親分が率いる麻薬組織と対決することになり、おぼんは得意の合気道と機転を利かせて、見事に解決します。

漫画横丁 アトミックのおぼん 女親分対決の巻

シリーズ第2作として、1961年5月23日に公開されました。製作・配給は第1作と同様です。おぼんと、関西のスリの大物ヌーベル婆ちゃんとの対決が描かれています。

スタッフ

製作：山崎喜暉、金原文雄
企画：宮内義治
監督：佐伯幸三
脚本：柳沢類寿
原作：杉浦幸雄
撮影：黒田徳三
音楽：いずみたく
美術：小島基司
録音：西尾昇
照明：榊原庸介

キャスト

水谷良重 - アトミックのおぼん
中島そのみ - インスタントのおちか
春川ますみ - デラックスのお富
横山道代 - シーチョのお芳
水町千代子 - ズーヂャのおはね
渥美清 - マッハのズラ公
稲吉靖 - スタミナの鉄
山田吾一 - 学割の半太
中谷一郎 - 正木章太郎
有島一郎 - 伊達野
木田三千雄 - イケダ亭の親父三吉
笠置シヅ子 - ヌーベル婆ちゃん
藤山竜一 - 大江山興業社長大江山
人見明 - 大江山興業子分角谷
竹田昭二 - 大江山興業子分長井
塩沢とき - 大川お伝
露口茂 - 坂本福一
田辺元 - 田舎紳士

ストーリー

おぼんは、スリを辞めさせようとしている子分たちを抱えながら、堅気の正木章太郎と婚約しています。しかし、伊達野がゆすられた事件をきっかけに、再び事件に巻き込まれます。大江山興業の罠を回避する中で、関西の大物スリであるヌーベル婆ちゃんと対決することになります。最後はスリ勝負で決着をつけますが、その際、おぼんは愛する章太郎の手を握るという、ロマンチックなラストを迎えます。

テレビドラマ

『アトミックのおぼん』は、日本テレビ系列の『日産スター劇場』枠で、1964年7月25日にテレビドラマ化されました。

放送日：1964年7月25日
放送時間：土曜日21:30～22:30（60分）
原作：杉浦幸雄
出演：越路吹雪、林与一、柳家金語楼、渥美清、谷幹一、E・H・エリック、石黒達也、内藤法美
演出：井原高忠
製作・キー局：日本テレビ放送網 / NNN
主題歌：越路吹雪『おぼん音頭』（作曲：内藤法美）

テレビドラマ版では、越路吹雪がおぼんを演じ、主題歌も担当しました。

その他のタイアップ

テレビドラマ版の放送と同時期に、日劇ミュージックホールで伊吹マリが同作をテーマにしたショーを披露しています。


このように、『アトミックのおぼん』は、漫画から映画、テレビドラマ、そして舞台ショーまで、様々な形で展開され、多くの人々に愛されてきました。その魅力は、主人公であるおぼんのユニークなキャラクターと、痛快なストーリー展開にあります。

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