アレクサンドラ・エクステル

アレクサンドラ・エクステル：ロシア・アヴァンギャルドを彩った多彩な才能

アレクサンドラ・エクステル（1882年1月18日 - 1949年3月17日）は、ロシア帝国出身の画家、デザイナーです。パリ、キーウ、モスクワを拠点に活動し、ロシア・アヴァンギャルドの発展に大きく貢献しました。絵画、舞台美術、衣装デザインなど、多岐にわたる分野で才能を発揮し、その革新的な作風は後世の芸術家たちに多大な影響を与えました。

生涯

幼少期と教育

1882年、アレクサンドラは現在のポーランドにあたるグロドノ県ビャウィストクで、裕福な家庭に生まれました。出生名はアレクサンドラ・アレクサンドロヴナ・グリゴローヴィチ。父親はベラルーシ出身の実業家、母親はギリシャ人でした。1886年には家族とともにキーウへ移住。1901年、キーウ美術学校に進学し、ニコライ・ピモネンコの指導を受けました。同級生には、アレクサンダー・ボゴマゾフ、アレクサンダー・アーキペンコ、アリスタルフ・レントゥーロフといった、後に名を馳せる芸術家たちがいました。1906年に同校を卒業します。

パリでの衝撃と出会い

1907年、アレクサンドラはパリを訪れ、ギヨーム・アポリネールを通じてパブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックと出会います。ピカソの『アビニヨンの娘たち』が完成したこの年、キュビスムに触れたことが、彼女の作風を大きく変えるきっかけとなりました。短期間ではありましたが、モンパルナスのグランド・ショミエール芸術学校でも学びました。1908年には弁護士のニコライ・エフゲニエヴィッチ・エクステルと結婚し、キーウに居を構えます。パリでの体験や、ピカソやブラックの実験的な作品について語るエクステルのもとには、多くの芸術家が集まりました。アトリエには、ヴァディム・メラー、アナトリー・ペトリツキー、パヴェル・チェリチェフ、ウラジミール・バラノフ＝ロシネらが集まり、詩人のアンナ・アフマートヴァ、イリヤ・エレンブルグ、オシップ・マンデリシュターム、ダンサーのブロニスラヴァ・ニジンスカらも訪れました。

画家としての飛躍

1908年、サンクトペテルブルクとキーウで初の展覧会を開催。特にダヴィド・ブルリュークが主催したキーウでの展覧会は大きな反響を呼び、ロシアの近代絵画における重要な一里塚となりました。ダヴィド・ブルリューク、ウラジーミル・ブルリューク兄弟らのグループ「ズヴェノー」にも参加し、展覧会を開催しました。1909年にはパリに拠点を移し、キュビスムの影響を受けつつ、フィリッポ・マリネッティ、ジョヴァンニ・パピーニらを通じてイタリア未来派の思想にも触れました。1912年10月には、ジャン・メッツァンジェ、アルベール・グレーズ、マルセル・デュシャンらピュトー・グループが主催する展覧会「セクション・ドール」に出展。1914年には、カジミール・マレーヴィチ、アレクサンダー・アーキペンコ、ヴァディム・メラー、ソニア・ドローネーらフランスとロシアの画家たちとともにパリのアンデパンダン展に参加。同年4月から5月にかけては、アーキペンコ、ニコライ・クリビン、オリガ・ロザノワらとローマで展覧会を開催しました。

多岐にわたる活動

1914年、アレクサンドラはヴェルボフカの伝統的な縫製工場とのコラボレーションに取り組みました。この試みは、伝統工芸と実験的な美術を融合させるものであり、ニーナ・ゲンケ＝メラーをチーフとして、カジミール・マレーヴィチ、ナデジダ・ウダルツォワ、リュボーフィ・ポポーワ、オリガ・ロザノワ、イワン・プーニー、クセニヤ・ボグスラフスカヤ、イヴァン・クリューンなど多くのシュプレマティスムのアーティストが参加しました。1915年にはモスクワで「ロシア南部の近代装飾芸術」と題する展覧会を開催し、有名な展覧会『0.10』に先駆けてシュプレマティスムを世に提示しました。1915年にはロシア・アヴァンギャルドのグループ「Supremus」に参加。1916年からは、アレクサンドル・タイロフのカメルニ劇場で舞台美術に協力し、1916年の『ファミラ・キファレド』、1917年の『サロメ』などのデザインを手掛け、高い評価を得ました。1918年には夫をコレラで失っています。
1918年から1920年まで、キーウにワークショップを開設。ヴァディム・メラー、アナトリー・ペトリツキー、クリメント・レディコらが参加しました。この時期の教え子には、映画監督のグリゴーリ・コージンツェフ、セルゲイ・ユトケーヴィッチ、アレクセイ・カプレルがいます。1919年には、革命を祝う式典のため、クリメント・レディコやニーナ・ゲンケ＝メラーとともにキーウとオデッサの通りの抽象絵画的装飾に参加しました。また、ヴァディム・メラーとブロニスラヴァ・ニジンスカのバレエ・スタジオで衣裳デザイナーを務めました。1920年、モスクワに転居。舞台美術に多く携わり、工業製品とのコラボレーションや赤軍の制服のデザインも担当しました。この年、エクステルは再婚しています。1921年には、モスクワで開催された「5×5=25」展に他のロシア構成主義作家らとともに作品を出展。同年から、モスクワの国立芸術学校ヴフテマスで色彩に関する初等科コースの責任者として指導しました。1923年には、ヴェラ・ムーヒナと共に、全ロシア農芸工芸博覧会でイズベスチヤ紙のパビリオンのデザインを手掛けました。

パリへの移住と晩年

1924年、アレクサンドラはパリに移住しましたが、ロシアとの関係を絶つことはありませんでした。この年には、ロシア初のSF映画といわれる『アエリータ』で衣装デザインと美術を担当しています。1925年のパリ万国博覧会では、ソ連館の設営に携わりました。1926年から1930年まで、フェルナン・レジェの美術学校で教鞭をとり、1936年にはパリで個展を開きました。この年からは、子供向けの絵本制作やイラスト提供も行いました。1949年3月17日、アレクサンドラ・エクステルはフォントネー＝オー＝ローズで生涯を閉じました。

死後と再評価

パリへの移住後、際立った作品を発表することがなかったため、アレクサンドラ・エクステルの名前は次第に忘れられていきましたが、1970年代にパリ、ニューヨーク、西ベルリン、ワシントンで記念展が開催され、1980年代以降もモスクワ、サンクトペテルブルクでたびたび回顧展が開かれるなど再評価が進んでいます。2009年にはフランスのトゥールで行われた回顧展で、出品作のほとんどが贋作であることが判明し、急遽中止となる騒動がありました。

作風

アレクサンドラ・エクステルは特定の芸術運動にとらわれず、独自のスタイルを追求したアバンギャルドで実験的な女性芸術家でした。シュプレマティスムやロシア構成主義と同様に、アール・デコ運動からも強い影響を受けています。彼女の作品は、構図、テーマ、色使いに活気と遊び心があり、演劇的なドラマティックさを感じさせます。リズミカルで活発な構成によって、あたかも運動エネルギーを帯びているかのように色彩の自由な構造を際立たせました。純粋な色彩と幾何学的な平面が相互作用し、ダイナミズムと空間の複雑な相互作用を生み出しています。

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