アロアニア山

ギリシャ南部のペロポネソス半島、アカイア県に広がるアロアニア山は、地元ではヘルモス山、あるいはケルモス山とも呼ばれ、その名は南スラヴ語の「頂上」に由来すると言われています。この山系で最も高い峰はプシリ・コリフィと呼ばれ、標高は2,355メートルに達します。これはペロポネソス半島全体ではタイゲトス山脈、キリニ山に次ぐ第3位の高さであり、アカイア県内では最高峰となります。山の麓にある最大の町はカラヴリタであり、山の名はこの地域に存在する自治体の名称にも冠されています。

地理と景観

アロアニア山は地理的には、アカイア県の南東部、コリンティア県との境界に近い地域に位置しています。東へおよそ15キロの距離には、アロアニア山よりもわずかに高いキリニ山が聳え、両者はオルヴィオス川の深く刻まれた渓谷によって隔てられています。西側には、ヴライコス川の渓谷を越えた約30キロ地点にエリマントス山があります。

この山からはいくつかの重要な河川が流れ出しています。北へと向かいコリンティアコス湾に注ぐクリオス川、クラティス川、そしてヴライコス川です。一方、南西方向に流れるアロアニオス川は、ラドン川の支流となり最終的にイオニア海へと至ります。山の南東麓には、人工的に造られた美しいドクサ湖が広がっています。湖の近くにはアルカイア・フェネオス村があり、そこには古代都市ペネオスの遺跡が眠っています。また、北東麓にはツィヴロウ湖があり、静かな水面が周囲の自然と調和しています。

この地域は貴重な生態系と独特の景観が評価され、2009年には保護地域に指定されました。現在、「ヘルモス＝ヴライコス国立公園」および「ヘルモス＝ヴライコス世界ジオパーク」として自然環境の保全が図られています。

主要な峰々

アロアニア山には、最高峰を含むいくつかの主要な峰が存在します。

- プシリ・コリフィ（Psili Koryfi）: 2,355 m
- ネライドラチ（Neraidorachi）: 2,341 m
- アイトラチ（Aetorachi）: 2,335 m
- コッキノブラコス（Kokkinovrachos）: 2,315 m
- ガルディイ（Gardii）: 2,182 m
- アヴゴ（Avgo）: 2,138 m
- ニシ（Nisi）: 2,080 m

名所と文化遺産

アロアニア山の山頂付近には、ヘルモス天文台が設置されており、そこに備え付けられたアリスタルコス2.3メートル天体望遠鏡は、バルカン半島で最大、ヨーロッパ全体でも2番目の規模を誇ります。この場所に天文台が建設された背景には、光害が極めて少ない、ヨーロッパでも数少ないクリアな夜空が広がっていることが挙げられます。アテネ国立天文台が運用するこの施設は、2001年に建設が始まり、2007年に正式に稼働を開始しました。

また、この山域には洞窟の湖のような自然が生んだ名所や、麓の町カラヴリタ周辺には長い歴史を持つ修道院があります。メガ・スピライオ修道院と聖ラヴラ修道院は、ペロポネソス半島でも特に古い宗教施設の一つとされており、伝説ではメガ・スピライオ修道院は西暦362年に創建されたと伝えられています。しかし、これら由緒ある修道院も、第二次世界大戦中、ドイツ軍によるカラヴリタでの悲劇的な虐殺事件（カタヴリタの虐殺）により、甚大な被害を受けました。

冬期には、カラヴリタに位置するスキー場が賑わいを見せます。カラヴリタスキー場はトップリフトの標高が2,340メートルに達し、2基のチェアリフトを含む合計8基のリフトと11の多様なゲレンデを備えています。山の斜面には、プラニテロやペリステラといった絵のように美しい村々が点在し、訪れる人々を魅了します。

神話の世界

アロアニア山は、ギリシャ神話においても重要な舞台となりました。山から勢いよく流れ落ちるステュクスの滝は、冥界を流れるとされる伝説の川、ステュクスの流れと同一視されました。古代の旅行家パウサニアスは、この滝の水は毒を含んでおり、その水を飲んだ山羊の群れが死に至ったという話を伝えています。また、山中にあるとある洞窟は、アルゴス王プロイトスの娘たちが狂気に囚われた際に逃げ込んだ場所とされ、賢者メラムプスがそこで浄めの儀式を行い、娘たちを正気に戻したという伝説が語り継がれています。

豊かな自然環境

アロアニア山の自然は驚くほど豊かです。この山では、ペロポネソス固有の27種やギリシャ固有の90種を含む、およそ1,500種にも及ぶ多様な植物を目にすることができます。山腹の大部分はギリシアモミの森に覆われており、標高の低い丘陵地帯ではプラタナス、ヨーロッパクロマツ、クリ、オーク、ヤナギ、カエデ、ポプラといった広葉樹や針葉樹が見られます。さらに高地へと進むと、植生は草原へと変わり、山頂付近は岩がむき出しになった不毛な景観となります。

動物相もまた多様性に富んでいます。アロアニア山では、イノシシ、キツネ、フェレット、ジャッカル、ヤマネコ、リスなどの様々な哺乳類が生息しています。特にヴライコス渓谷やアロアニオス川の清流沿いには、カワウソの姿も見られます。さらに、30種の蝶、9種の両生類、24種の爬虫類がこの地域で確認されています。両生類の中では、アルプス地方など中央ヨーロッパに分布するミヤマイモリの生息地として、アロアニア山がその最南端に位置することが特筆されます。蝶類においては、珍しい種や特定の地域にのみ生息する種がしばしば見られます。中でも、標高1,100メートルから1,800メートルの間に生息する、アジアに由来するシジミチョウ科の美しい青色の蝶、Agrodiaetus iphigeniaは、「ヘルモス・ブルー」という名で広く知られています。

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