イェスル

イェスル・ハトゥン（生没年不詳）は、モンゴル帝国第4代皇帝モンケ・カアンの第二皇后です。コンギラト部出身で、姉のクタイがモンケの第二皇后でしたが、早世したため、イェスルがその後を継ぎました。

史料における記述

『元史』などの漢文史料では「也速児（yĕsùér）皇后」と記録されていますが、他の史料にはほとんど言及されていません。彼女に関する情報は限られていますが、『元史』巻114列伝1后妃伝に詳しい記述があります。

出自と家柄

『元史』によると、イェスルはコンギラト部の族長モンゲチンの娘で、チンギス・カンに仕えたデイ・セチェンの孫にあたります。ただし、『元史』巻118列伝5特薛禅伝には異説もあり、世代関係に矛盾が生じるため、『元史』巻114列伝1后妃伝の記述がより正確であると考えられています。コンギラト部は、チンギス・カンの正妃ボルテを輩出した名門であり、チンギス・カン一族との姻戚関係を通じて繁栄していました。

皇后としての活動

姉のクタイの死後、イェスルはモンケの妃となりました。1254年にカラコルムを訪れたウィリアム・ルブルックは、滞在中にモンケの「第2皇后」である「コタ（＝クタイ）」が病死したと記録しており、イェスルがクタイの後を継いだのはこの頃と考えられます。

モンケ治世下のコンギラト部

チンギス・カン一族の姻族として繁栄したコンギラト部デイ・セチェン家でしたが、モンケ・カアンの治世下では冷遇され、衰退しました。これに代わって、オイラト部クドカ・ベキ家が新たな姻族として台頭しました。この変化の背景には、モンケ即位時にクーデターを企てたオゴデイ家のシレムンとデイ・セチェンが密接な姻戚関係を結んでいたことが影響していると考えられています。

『集史』の記述

『集史』には、モンケが1259年に亡くなった際、クタイ・ハトゥンがモンゴリアに運ばれたモンケの棺を自身のオルドで弔ったという記述があります。しかし、これは実際には妹のイェスルを指していると考えられています。

イェスル・ハトゥンは、モンゴル帝国の皇后として、またコンギラト部という名門の出身として、モンゴル帝国の歴史において重要な役割を果たしました。彼女の生涯は、モンゴル帝国における姻戚関係の変化や政治的な変動を反映しています。

参考文献
宇野伸浩「モンゴル帝国のオルド」『東方学』第76輯、1988年
宇野伸浩「チンギス・カン家の通婚関係の変遷」『東洋史研究』52号、1993年
志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
村岡倫「モンケ・カアンの後裔たちとカラコルム」『モンゴル国現存モンゴル帝国・元朝碑文の研究』大阪国際大学、2013年
* 護雅夫訳 『中央アジア・蒙古旅行記』講談社、2016年

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