イグ (クトゥルフ神話)

イグ ― クトゥルフ神話の蛇神

イグ(Yig)は、H・P・ラヴクラフトが創造したクトゥルフ神話に登場する蛇の神です。ゼリア・ビショップ名義で発表された『イグの呪い』で初登場し、蛇のアイデアはビショップ、蛇神イグの創造はラヴクラフトによるものです。

イグの特徴と信仰

あらゆる蛇族の父と称されるイグは、クトゥルフ神話において高い知名度を誇ります。半人半蛇の姿と伝えられていますが、『イグの呪い』ではその姿は明かされず、『墳丘の怪』で初めて神像が登場します。

19～20世紀のオクラホマ州の先住民の間でも信仰されており、蛇避けの儀式が行われていたことが知られています。アメリカ大陸各地に伝わる蛇神信仰の原型となった神である可能性も示唆されています。

イグは子供である蛇たちへの深い愛情を持つ一方で、それらを殺した者には必ず復讐するとされ、敵を斑紋のある蛇に変えてしまうと伝えられています。常に危害を加えてくる邪神というわけではなく、むしろ蛇たちを慈しむ側面も持ち合わせています。しかし、野生の蛇が食料に困る季節には、イグも飢えによって狂暴化するとされています。

ラヴクラフトの作品においては、太古のムー大陸で信仰され、ムー大陸の沈没後も、その生き残りが北米地下に築いたクン＝ヤンという都市で信仰が続けられていました（『墳丘の怪』）。ムー大陸とクン＝ヤンでは、クトゥルフと並んで重要な神として信仰されていたとされています。

地底世界であるクン＝ヤンでは太陽がないため、イグと蛇は宗教的な意味合いだけでなく、時間の指標としての役割も担っていました。イグの尾を打ち鳴らす長さによって昼夜のない地下世界の時間を区切り、脱皮の周期によって地底世界の1年が決められていたのです。

他の作家によるイグ像

ラヴクラフト以外の作家もイグを自身の作品に取り入れ、独自の解釈を加えています。

ロバート・ブロックは「妖蛆の秘密」において、イグを三柱の蛇神の一柱として位置づけ、予言の神としての側面を強調しました。また、他の二柱として「暗きハン」と「蛇の髭を持つバイアティス」を挙げています。
リン・カーターは、クトゥルフ神話に登場する蛇人間という種族とイグを結びつけました。また、イグの息子をバイアティスとしました。
ドナルド・タイソンは『ネクロノミコン』において、イグを旧支配者の七帝の一柱として扱い、蛇を宇宙から地球へ連れてきた存在として描いています。
ブルース・ブライアンの『ホーホーカムの怪』には、「イグ＝サツーティ」という翼を持つ蛇神が登場し、『イグの呪い』からの影響が指摘されています。
スタンリー・C・サージェントは、イグの娘ヘルペテを創造しました。
日本人作家では、松殿理央が『蛇蜜』、菊地秀行が『美凶神YIG』を執筆しています。

関連する神々や存在

イグに関連する、他のクトゥルフ神話の諸神や存在も数多く存在します。

ケツァルコアトル: 南米の蛇神。イグのモデルになった可能性が示唆されています。
ハン: 三柱の蛇神の一柱。「暗きハン」と呼ばれ、詳細不明です。「凍てつくレン」に幽閉されているとされます。
バイアティス: 三柱の蛇神の一柱。「蛇の髭を持つ」とされ、ラムジー・キャンベルが姿を与えました。リン・カーターはイグの息子としました。
ウトゥルス＝フルエフル: イグとシュブ＝ニグラスの娘。性魔術カルトで崇拝されます。
ヘルペテ: イグの娘であり、古代クレタ島の守護蛇神です。
ムー大陸の神々: クトゥルフ、シュブ＝ニグラスなど、多くの神々がムー大陸で信仰されていました。ムー大陸の沈没後はクン＝ヤンで信仰が続けられました。
ウボ＝サスラ: 多くの神々の母体とされる原始生命体。イグ、ハン、バイアティスはウボ＝サスラの子孫とされることもありますが、系譜は確定していません。
イグ＝サツーティ: ブルース・ブライアンの作品に登場する翼のある蛇神。イグとの関連性が指摘されています。
イヴ: 菊地秀行の作品に登場するイグの人間体・雌型と推測される存在。ヨグ＝ソトースとシュブ＝ニグラスの娘とされています。
蛇人間: 知的な爬虫類種族。イグと関連づけられています。
* 大地の妖蛆: 蛇のような姿をした種族。蛇人間と類似しています。

まとめ

イグは、ラヴクラフトによって創造され、その後多くの作家によって様々な解釈が加えられてきた、魅力的なクトゥルフ神話の蛇神です。その多様な解釈こそが、イグの長く続く人気を支えていると言えるでしょう。イグの謎は、今後も多くのクトゥルフ神話ファンを魅了し続けることでしょう。

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