インターネットの歴史

インターネットの歴史は、1960年代のパケット通信の研究に端を発します。19世紀後半には電信網が世界中に広がり、モールス信号による通信が行われていましたが、コンピュータはまだ存在していませんでした。その後、電話の発明を経て、1950年代にはコンピュータ間の通信が始まりました。

パケット通信の誕生

1960年代に入ると、インターネットの基礎となるパケット通信の研究が開始されました。ARPANET、NPL、CYCLADESなど、初期のパケット交換ネットワークが開発され、様々な通信プロトコルが試されました。特にARPANETは、複数のネットワークを相互接続するインターネットワーキングのプロトコル開発を主導しました。

1982年には、TCP/IPが標準化され、世界規模で相互接続されたネットワークであるインターネットという概念が提唱されました。ARPANETは、アメリカ国立科学財団（NSF）によって拡張され、1990年に役目を終えました。1995年にはNSFNETも役目を終え、インターネットの商業化が完了し、営利目的の利用が可能になりました。

インターネットの普及と影響

1990年代半ば以降、インターネットは文化や商業に大きな影響を与えました。電子メール、インスタントメッセージ、VoIP、ビデオチャット、World Wide Web（WWW）など、新たなコミュニケーション手段や情報共有の方法が生まれました。研究教育コミュニティはさらに開発を進め、高速なネットワークが構築されました。データ量は増大し続け、高速な光ファイバー網を通じてデータが転送されています。

黎明期の立役者たち

世界規模のネットワーク構築の先駆者であるJ・C・R・リックライダーは、1960年の論文でコンピュータネットワークのアイデアを提唱しました。ARPA（アメリカ国防高等研究計画局）のジャック・ルイナは、リックライダーをIPTOの部長に任命し、コンピュータの研究を進めさせました。リックライダーのネットワークのビジョンは、ローレンス・ロバーツやロバート・テイラーといった後継者たちに受け継がれ、ARPANETの開発へと繋がりました。

パケット交換の概念

パケット交換の概念は、ポール・バランとドナルド・デービスによって提唱されました。バランは、メッセージを「メッセージブロック」に分割し、デービスはそれを「パケット」と名付けました。レナード・クラインロックは、この技術を支える数学的理論を構築しました。パケット交換は、回線交換よりも帯域利用率が高く、応答時間も短いという利点がありました。この技術は、インターネットの耐障害性を高める上で重要な役割を果たしました。

インターネットの基盤となったネットワーク

ARPANETは、インターネットの技術的な中核となりました。最初のARPANETリンクは、1969年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校とスタンフォード研究所の間に確立されました。ARPANETは急速に成長し、多くの技術開発の場となりました。RFC（Request for Comments）プロセスを通じて、プロトコルやシステムが提案・普及されました。

各地のネットワークの発展

ARPANET以外にも、NPL、メリット・ネットワーク、CYCLADESなど、様々なネットワークが開発されました。NPLは、パケット交換に基づく全国的なデータ網を提案しました。メリット・ネットワークは、ミシガン州の3つの大学間のネットワークとして設立され、後にTCP/IPに対応しました。CYCLADESは、フランスの研究ネットワークであり、データ配送の信頼性をホストの責任とした「信頼できないデータグラム」を採用しました。

X.25とパソコン通信

ARPAの研究に基づき、国際電気通信連合（ITU）がパケット交換網の標準化を開始し、X.25が提案されました。X.25は、主にビジネス用途で使われ、Telenetなどが電子メールサービスを提供しました。パソコン通信では、CompuServeなどのネットワークがX.25を使って多重化を行い、パケット交換バックボーンに接続していました。

UUCPとUsenet

UUCPは、ニュースやメッセージを転送するためのプロトコルとして開発され、Usenetの誕生に繋がりました。UUCPNetは、電話回線、X.25、ARPANETなどを巻き込み、急速に広がりました。

TCP/IPの登場とインターネットの誕生

異なるネットワーク技術を統合するために、ロバート・E・カーンとヴィントン・サーフはTCP/IPを開発しました。TCP/IPは、ネットワーク間のプロトコルの差異を隠蔽し、ホストが信頼性を保証する方式を採用しました。1974年に発表されたRFC 675で、「internet」という語が初めて使われ、この用語は名詞として定着しました。TCP/IPは、様々なオペレーティングシステムでの実装が進められ、1983年にARPANETはTCP/IPへと移行しました。

アメリカ全土への拡大

ARPANETは、アメリカ国防情報システム局（DISA）に引き継がれ、MILNETとして分離されました。また、NASA、NSF、DOEなどの政府機関もインターネット研究に深く関わり、それぞれネットワークを構築しました。NSFが構築したCSNETは、TCP/IPでARPANETと相互接続し、NSFNETは全米各地の研究教育機関を相互接続しました。

インターネットの商業化と国際化

1980年代末から1990年代にかけて、インターネットサービスプロバイダ（ISP）が出現し、インターネットの商業化が進みました。1995年には、NSFNETが役目を終え、インターネットの商業利用に関する制限がなくなりました。インターネットは世界中に広がり、CERN、ヨーロッパ、オセアニア、アジアなど、各地でTCP/IPネットワークが構築されました。

国際的な情報格差

技術基盤を持つ先進国がインターネットに参加する一方で、開発途上国は情報格差に直面しました。アフリカ、アジア・オセアニア、ラテンアメリカなど、地域ごとにネットワークを構築する取り組みが進められました。

商用利用の開始と発展

1980年代末には、最初のインターネットサービスプロバイダが創業し、インターネットの商用利用が始まりました。1990年、ARPANETは終了し、多数の新たなネットワークサービスプロバイダが登場しました。1995年にはNSFNETのバックボーンサービスが終了し、商用利用に関する最後の制限が撤廃されました。Internet Engineering Task Force（IETF）は、インターネット技術の設計と進化に貢献し、Request for Comments（RFC）を通じて標準仕様を策定しました。

インターネットの管理と組織

初期には、SRIのネットワークインフォメーションセンター（NIC）がインターネットの活動を調整していました。その後、Internet Assigned Numbers Authority（IANA）、InterNIC、ICANNなどが組織改編され、インターネットの管理を担当するようになりました。ICANNは、DNSシステムの運用を民営化しましたが、名前の登録は入札ベースで集中管理されています。

21世紀のインターネット

1990年代以降、インターネットの統治と組織は商取引にとっても重要なものとなりました。ICANNは、アメリカ政府との協定を終了し、自律性を増しました。IETFは、標準化グループとして活動を続け、国際化などの新たな課題に取り組んでいます。

将来への展望

2010年には、国際宇宙ステーションから初めてTwitterに投稿が行われ、インターネットは宇宙へと広がりました。NASAは遅延耐性ネットワーク（DTN）の研究を進め、宇宙空間での信頼性の高い通信を目指しています。また、NTT主導のIOWNを大阪万博で利用する計画もあります。

インターネットの利用と文化

電子メールは、インターネットのキラーアプリとして発展しました。ARPANETは電子メールの進化に大きく貢献し、レイ・トムリンソンがメールアドレスの形式を考案しました。UUCPは、ファイルの配布にも使われ、ネットニュースの誕生に繋がりました。

GopherからWWWへ

インターネットの成長に伴い、ファイルや情報を整理する動きが進みました。Gopherは、インターネット上で広く使われた最初のハイパーテキスト型インタフェースとなりました。1989年、ティム・バーナーズ＝リーがハイパーテキストの概念をネットワーク上で実装し、World Wide Web（WWW）が誕生しました。1993年には、Mosaicウェブブラウザが登場し、WWWがインターネットにアクセスする際の主要なインタフェースとなりました。

検索エンジンの進化

WWW以前から検索エンジンは存在していましたが、Webの発展と共に、Web上のページを追跡する検索エンジンが登場しました。WebCrawler、Lycos、Yahoo!、AltaVistaなどを経て、Googleが検索エンジン市場で優位に立ちました。検索エンジンの技術は進化し続け、検索結果のランキングが重要な要素となっています。

インターネット・バブル

インターネットの普及は、新たなビジネスモデルを生み出す可能性を秘めていました。しかし、インターネットバブルは2000年に崩壊し、多くの新興企業が消えていきました。それでも、インターネットは商用利用に牽引され、成長を続けています。

モバイルインターネットの普及

携帯電話の普及に伴い、モバイルインターネットが広がりました。日本でiモードが開始され、BlackBerryが登場するなど、様々なサービスが生まれました。2008年には、インターネットに接続する機器の台数で携帯電話がPCを追い越しました。開発途上国では、モバイルインターネットが急速に普及しています。

歴史学的観点

インターネットの歴史に関する歴史学的懸念があり、特に初期の発達に関する文献を見つけることが困難となっています。文書が体系的に保管されてこなかったことも一因です。

この文章は、インターネットの歴史を包括的に記述したものであり、技術的な側面、社会への影響、そして将来への展望を網羅しています。インターネットの歴史は、技術革新と社会の変化が複雑に絡み合った、人類史における重要な出来事の一つと言えるでしょう。

もう一度検索