ウィリアム・ダンピア

ウィリアム・ダンピア（1651年 - 1715年）は、イングランドが生んだ特異な人物であり、航海士、探検家、海賊（バッカニア）、さらには優れた博物学者、作家という多様な顔を持っていました。彼は歴史上初めて世界周航を3回成し遂げた人物であり、オーストラリアやニューギニアといった未知の土地に足跡を残した最初のイングランド人探検家としてもその名を刻んでいます。

若き日々から最初の冒険へ

ダンピアは1651年 6月8日にサマセット州で生を受け、16歳で船乗りの道に進みました。第三次英蘭戦争では英国海軍の一員として戦った後、一時ジャマイカで農園支配人となりますが、すぐに海の世界へと戻ります。1670年代後半には、中米の沿岸部を活動域とするバッカニアの一員となり、後の壮大な航海へとつながる経験を積みました。

3度におよぶ世界周航

彼の最初の世界周航は、バッカニアとしての活動から発展しました。1679年にはダリエン地峡を越えて太平洋側に出、スペイン船を拿捕するなど、略奪行為にも手を染めました。その後、私掠船長クックと出会い、太平洋各地で活動を続けます。クックの死後はチャールズ・スワンの船に乗り換え、1686年に太平洋を渡ってアジアへ向かいました。この航海の途上、1688年初頭にシグネット号はオーストラリア北西岸に一時的に寄港し、ダンピアはこの地で現地の自然環境を詳細に観察し記録を残しています。航海の後、ニコバル諸島で置き去りにされるという困難に見舞われながらも、彼は自作の小舟で脱出し、数年後の1691年にイングランドへの帰還を果たしました。財産こそ失っていましたが、貴重な手記は無事でした。

海軍による探検航海

ダンピアの手記は『最新世界周航記』として1697年に出版され、その内容は高く評価されました。これにより、彼は異例の抜擢を受け、1699年に王室の船であるローバック号の指揮官として、オーストラリアとニューギニアを探検する航海に出ることになります。1699年7月にはオーストラリア西部に到達し、シャーク湾周辺を探索しましたが、水が得られずティモール島へ向かいます。その後東に進路を取り、ニューギニアを発見し、さらにニュー・ハノーヴァー島、ニュー・アイルランド島、ニュー・ブリテン島といった島々を巡り、ビスマルク諸島とニューギニアの間の海峡（後にダンピア海峡と命名される）を発見しました。しかし、帰路の1701年、ローバック号はアセンション島近くで難破し、多くの書類を失います。イングランド帰還後、ダンピアは航海中の部下への不当な扱いを理由に軍法会議にかけられ、有罪となって海軍を解雇されました。

再び私掠船長として、そして最後の航海

海軍を追われたダンピアは再び私掠船活動に戻ります。スペイン継承戦争が勃発すると、政府公認の私掠船セント・ジョージ号の指揮官となり、スペインやフランスの船舶を攻撃しました。この航海では、僚船の航海長アレキサンダー・セルカークが船長との不和から太平洋の無人島に置き去りにされるという有名な出来事が発生しました。このセルカークの体験こそが、後にダニエル・デフォーの小説『ロビンソン・クルーソー』の着想源となったのです。ダンピアは1707年にこの航海から帰還し、1709年には前回の探検航海の記録を出版しました。

1708年からの3度目の世界周航では、ウッズ・ロジャーズが率いる私掠船デューク号の航海長として参加しました。この航海は大成功を収め、途上でセルカークを救出するというドラマチックな出来事もありました。巨額の利益をもたらしたこの航海でしたが、ダンピアはその分け前を受け取る前の1715年、ロンドンで波乱に満ちた生涯を終えました。

多分野への影響

ダンピアの航海記録は、単なる冒険譚にとどまらず、訪れた土地の動植物、気候、風俗、地理について詳細かつ正確な記述を含んでいました。これらの膨大な観察記録は、後の博物学者や科学者に多大な影響を与えました。特に、チャールズ・ダーウィンの進化論やアレキサンダー・フォン・フンボルトの探検にインスピレーションを与えたとされます。また、彼の航海術に関する知見は、ジェームズ・クックやホレーショ・ネルソンといった後続の偉大な航海士たちに学ばれました。

文学においても、前述のセルカーク体験が『ロビンソン・クルーソー』のモデルとなったほか、彼のパンノキに関する報告はバウンティ号の反乱という歴史的事件につながりました。さらに、彼の著作は英語の語彙にも影響を与え、「バーベキュー」や「アボカド」といった言葉が、彼の著作で初めて広く知られるようになった例として、オックスフォード英語辞典に引用されています。

ウィリアム・ダンピアは、海賊行為から王室の探検家、そして科学的な観察眼を持つ作家へとその立場を変えながら、波瀾万丈の人生を歩みました。彼の残した記録は、探検史、博物学史、そして文学史において、今なお色褪せることのない重要な遺産となっています。

もう一度検索