ウィリアム・ロード

ウィリアム・ロード：チャールズ1世の影で処刑された大主教

ウィリアム・ロード (1573年-1645年) は、17世紀イングランドにおける最も重要な宗教・政治指導者の一人であり、その生涯は権力と没落、そしてイングランド内戦へと繋がる激動の時代を象徴しています。彼はロンドン主教、オックスフォード大学学長、そしてカンタベリー大[[主教]]を歴任し、国王チャールズ1世の絶対的な信任を得て権勢を誇りました。しかし、彼の強硬な宗教政策と弾圧は、国民の反感を買い、最終的には処刑という悲劇的な最期を迎えることになります。

ロードは、バークシャー州レディングの織物業者の家庭に生まれ、オックスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジで教育を受けました。学生時代から優秀な成績を収め、聖職者の道を歩みます。しかし、彼の学問的志向は主流派のカルヴァン主義とは異なるものでした。学寮長ジョン・バカリッジの影響を受け、彼は徐々にカルヴァン主義に反対する立場をとり、高教会派へと傾倒していきます。この頃の彼は既に、「カトリックの傾向を持つ」「でしゃばりで独断的な人物」という評判を得ていたと伝えられています。

1611年、バカリッジのロチェスター主教就任に伴い、ロードはセント・ジョンズ・カレッジの学寮長に選出されます。この地位は、彼のカリスマ性と政治的駆け引きの才能を示すものでした。学寮長として、彼はカレッジの規律強化、建物の改修、そして神学教育の改革に尽力しました。彼の教育改革は、国王ジェームズ1世の後押しも得て、カルヴァン主義中心の教育から転換を図ろうとするものでした。この頃から、彼は宗教的儀式を重視し、信徒の行動を厳しく管理統制しようとする傾向を示し始めました。これは、後の彼の宗教政策の基礎となりました。

ロードの野望は大学にとどまりませんでした。彼はロンドンで精力的に猟官運動を行い、着実に教会における地位を上げていきます。1608年にはロチェスター主教リチャード・ニールの補佐となり、1610年には国王の礼拝堂付司祭に就任。その後も、グロスター主席司祭、セント・デイビッズ主教と順調に出世を続けました。しかし、ジェームズ1世は、彼の急進的な高教会派の思想に懸念を抱き、それ以上の登用を渋りました。

しかし、バッキンガム侯ジョージ・ヴィリアーズの庇護を得たロードは、ジェームズ1世の死後、チャールズ1世によって急速に出世を重ねることになります。1626年にはバース・アンド・ウェルズ主教、1627年には枢密顧問官に任命され、翌年にはロンドン主教、1630年にはオックスフォード大学学長を兼任。そして1633年にはカンタベリー大[[主教]]にまで上り詰めます。チャールズ1世の側近として、ストラフォード伯爵トマス・ウェントワースと共に、国政の中枢を担うようになりました。

カンタベリー大[[主教]]となったロードは、イングランド国教会の改革と宗教統一を推進しました。祈祷書の遵守と礼拝の統一、聖職者の統制強化を推し進め、世俗の問題への聖職者の積極的な関与を促しました。しかし、彼の強硬な政策は、ピューリタンをはじめとする多くの国民の反発を招きます。ピューリタンたちは、高等宗務官裁判所や星室庁を用いて徹底的に弾圧されましたが、その強硬策はピューリタン以外の層にも反感を買うことになります。

ロードは、オックスフォード大学学長としても、厳しい規律と統制を敷き、服装の乱れや酒場通いなどを厳しく取り締まりました。大学運営にも介入し、大学法規を改定して、学長を中心とする執行会の権限を強化しました。この法規改定は、1854年まで維持されるほど影響力のあるものでした。

ロードの権力は頂点に達しましたが、彼の宗教政策はかえって反対勢力を強化することになります。アルミニウス主義者の登用は、カトリック陰謀説を招き、ピューリタンの反発を激化させました。また、ロードの弾圧政策は、ピューリタンの亡命を招き、北アメリカのニューイングランド植民地への移住を促進し、独立運動の芽を育むことになりました。

1638年、スコットランド長老派にイングランド国教会の祈祷書を強要したことが、国民の猛反発を招き、主教戦争が勃発します。ロードの強硬策は事態を悪化させ、1640年召集の短期議会では、彼の宗教政策や親政への批判が集中しました。短期議会の解散後、ロードはランベス宮殿に暴徒に襲撃される事態に直面します。

長期議会では、ロードの戦争責任が追及され、反逆罪で弾劾、逮捕、投獄されました。ストラフォード伯爵と共に、私権剥奪法によって処刑が決定されます。1645年 1月10日、タワー・ヒルで処刑されたロードの最後の言葉は、「自分の死は、この王国のいかなる周知の法によって、それに値するとされた死ではない」「私は常にプロテスタントの信仰に生き、今、そこにおいて死ぬのである」でした。彼の死は、イングランド内戦の激しさ、そして宗教政策の危険性を示すものとなりました。

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