高等宗務官裁判所

高等宗務官裁判所とは

高等宗務官裁判所（こうとうしゅうむかんさいばんしょ、英：The Court of High Commission）は、かつてイングランド王国に存在した、国王大権の下に開かれた裁判所です。その起源は、テューダー朝のヘンリー8世が宗教改革によってカトリック教会と決別し、イングランド国教会を創設したことに遡ります。ヘンリー8世は、教会の裁判権を王権の下に置き、その際に王から裁判を任された高等宗務官が、裁判所の前身となりました。

裁判所の設立と権限強化

1559年、エリザベス1世が国王至上法を発布したことを機に、高等宗務官裁判所は王権裁判所の一つとして強化されました。1580年代には常設の裁判所となり、カンタベリーとヨークに設置されました。当初は宗教的な問題を取り扱っていた裁判所でしたが、その権限は次第に拡大し、幅広い分野に介入するようになりました。罰金や投獄などの処罰も可能になり、その影響力は増大しました。

権限の濫用と反発

カンタベリー大主教ジョン・ホイットギフトは、高等宗務官裁判所を濫用して反対派を厳しく取り締まりました。しかし、その活動は恣意的であり、ピューリタンやコモン・ロー法律家からの強い反発を招きました。1584年には、ホイットギフトが枢密院で査問を受ける事態となり、強硬策を撤回せざるを得ませんでした。

ステュアート朝下の裁判所

ステュアート朝に入ると、ジェームズ1世は1604年に高等宗務官裁判所の権限を一部縮小しましたが、その本質は変わりませんでした。チャールズ1世の時代には、カンタベリー大主教ウィリアム・ロードが星室庁と共に高等宗務官裁判所を反対派弾圧のために濫用しました。その専制的な支配は、議会からの批判を招き、1640年の短期議会で問題視されました。同年11月に始まった長期議会では、ロードが失脚し、高等宗務官裁判所も1641年7月に制定された法案によって星室庁と共に廃止されました。

裁判所の廃止とその後

清教徒革命（イングランド内戦）を経て、王政復古後の1660年に開かれた仮議会でも、高等宗務官裁判所の復活は認められず、二度と再建されることはありませんでした。高等宗務官裁判所は、その設立から廃止まで、イングランドの歴史において重要な役割を果たしましたが、その専制的な運用は多くの人々に苦痛を与え、最終的には廃止されることとなりました。

参考文献

浜林正夫『イギリス市民革命史』未來社、1959年。ISBN 9784624110291。
今井宏編『世界歴史大系 イギリス史2 -近世-』山川出版社、1990年。ISBN 9784634460201。
松村赳・富田虎男編『英米史辞典』研究社、2000年。ISBN 9784767430478。
塚田富治『近代イギリス政治家列伝 かれらは我らの同時代人』みすず書房、2001年。ISBN 9784622036753。

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