エジプト第31王朝

エジプト第31王朝：ペルシア帝国の属州時代

エジプト第31王朝は、紀元前343年から紀元前332年まで続いた、アケメネス朝ペルシア帝国の事実上の属州（サトラペイア）であった時代の古代エジプト王朝です。この王朝は、ペルシア王アルタクセルクセス3世によるエジプト再征服とその後の王（ファラオ）への即位によって成立し、アレクサンドロス大王による征服によって滅亡しました。

歴史

第31王朝は、第27王朝に次いでペルシア人の王がエジプトを統治する二度目の王朝であり、「第2次ペルシア支配時代」と呼ばれています。第31王朝が成立する以前、エジプトは第28、第29、第30王朝という、現地人による王朝が一時的な独立を謳歌していました。

エウセビオスの年代記によれば、マネトの『エジプト誌』の記録はこの王朝の成立をもって終了しています。そのため、第1王朝から第30王朝までとは異なり、第31王朝はマネトの著作に対する後代の追加の記録によって番号がつけられています。

この王朝の実態を明らかにする同時代史料は極めて乏しく、アルタクセルクセス3世がメンフィスで発行したアテナイ様式の4ドラクマ銀貨が僅かに2枚残されているのみです。この銀貨には、民衆文字（デモティック）でアルタクセルクセス3世の名前が記されています。アルタクセルクセス3世の下で誰がサトラップ（総督）を務めたのかは分かっていません。アルタクセルクセス3世は紀元前338年に宦官バゴアスによって暗殺されました。

アルセス（アルタクセルクセス4世）が跡を継ぎましたが、彼もまた紀元前336年にバゴアスによって暗殺されました。

ダレイオス3世（紀元前336年-紀元前330年）の下では、サバケスが総督を務めました。彼がイッソスの戦いに参戦し戦死すると、マザケスが総督位を継ぎました。マザケスも自身が名前を記したアテナイ様式の4ドラクマ銀貨を発行したことが確認されています。エジプト人もイッソスの戦いに参加しており、例えば、ヘラクレオポリスの貴族ソムトゥテフナクト（セマタウイテフナクト）がそうです。彼の碑文には、彼がギリシア人との戦いでどのように逃げ出したか、彼の都市神ヘリシェフがどのように彼を守り、彼が無事帰国できたかが記されています。

アリアノスの記録によれば、紀元前332年、総督マザケスは戦うことなくエジプトをアレクサンドロス大王に明け渡しました。アレクサンドロスがファラオとして即位し、これによってアケメネス朝による統治は終わりを告げ、エジプトはアレクサンドロス帝国支配下の属州（サトラペイア）となりました。その後、プトレマイオス朝、ローマ帝国が順次ナイル川流域を支配しました。

文化

エジプト人が外国人の衣装と宝飾品を身に着ける現象は、歴史上しばしば見られました。このような非エジプト的なファッションの好みは、この時代の広範囲の交易や、遠く離れた宮廷との外交的接触によって、あるいはエジプトが外国勢力の支配下に入ることでもたらされました。ペルシア人は二度にわたりイラン高原の故地からナイル渓谷を侵略し、エジプト第27王朝（紀元前525年-紀元前404年）と、エジプト第31王朝（紀元前342年-紀元前332年）の間エジプトを統治しました。

ペルシア支配時代の後期には、体を包んでいる長いスカートと、衣服の上端を挟み込んで止める姿がペルシア式のものである彫像が作られました。トルク（torque）と呼ばれるネックレスは、素早さと性力を象徴する古代ペルシアのシンボルであるアイベックスの図像で飾られています。ペルシア式の正装をしたこの公式の描写は、新たな支配者に対する忠誠を示すデモンストレーションであったと考えられています。

また、第30王朝から第31王朝時代にかけてヘルモポリス・マグナに造営された神官ペトオシリスの墓に作られた壁面の浮彫彫刻には伝統的な葬送儀礼の様子が描かれていますが、中にペルシア風のチュニックを纏った工人の姿が描かれています。

エジプト第31王朝のファラオ

エジプト第31王朝の在位期間 (アケメネス朝のファラオのみ)

アルタクセルクセス3世 (紀元前343年-紀元前338年)
アルセス (紀元前338年-紀元前336年)
ダレイオス3世 (紀元前336年-紀元前332年)

史料

クテシアス断片 (ペルシア誌)
シケリアのディオドロス (歴史叢書)
マネト断片 (エジプト誌)
フラウィウス・ヨセフス (ユダヤ古代誌)

関連項目

エジプト第27王朝 (紀元前525年−紀元前404年) — First Egyptian Satrapyとしても知られる。
* サーサーン朝のエジプト征服

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