エルヴィル城

エルヴィル城：音楽と歴史が響き合う伝説の場所

エルヴィル城（Château d'Hérouville）は、フランスのヴァル＝ドワーズ県、エルヴィル＝アン＝ヴェクサンの地に位置する歴史的な城館です。1740年に建造されたこの城は、時代とともに様々な役割を担い、その豊かな歴史を刻んできました。

歴史

14世紀、エルヴィル村の領主が所有していた広大な荘園に、ローマの建築家ゴーディによって1740年に建設されたエルヴィル城。本館はコの字型に配置され、2つの翼を石壁で繋ぎ、西側には2棟の別館が並びます。中庭には石で囲まれた八角形の水場があり、広大な敷地内にはプールやテニスコートも整備されていました。

19世紀には、ヴェルサイユとボーヴェを結ぶ馬車宿として利用され、約100頭もの馬を収容できる厩舎を備えていました。しかし、1861年に敷地が売却された後、何度かの改築を経て、20世紀半ばには小説家コレットの娘、ベル＝ガズー・コレット＝ド＝ジュヴネルの所有となります。

転機が訪れたのは1962年。フランスの作曲家ミシェル・マーニュが友人と共同で城館を買い取り、改装を施し、1969年に音楽録音スタジオ「ストロベリー・スタジオ」（別名「ジョルジュ・サンド・スタジオ」）を開業しました。その後、第2スタジオ「ショパン・スタジオ」を増設するなど、設備を拡充しながら、数々の名作を生み出してきました。

しかし、オーナー交代による休止期間を経て、1985年7月25日にスタジオは閉鎖。城館は長い法廷闘争の影響で放置され、荒廃の一途を辿ります。2013年6月に競売にかけられた後、2015年にオーディオ・エンジニアと財務家によって組織された団体が買収。彼らは城の再生に着手し、2016年にエルヴィル城は再びスタジオとして生まれ変わりました。

音楽スタジオとしてのエルヴィル城

1969年、ミシェル・マーニュによって開設されたストロベリー・スタジオは、瞬く間に音楽業界でその名を知られるようになります。初期の顧客にはエルトン・ジョンなどが名を連ね、スタジオの名声確立に大きく貢献しました。1970年代には、1日20時間、週6日稼働という過密スケジュールをこなし、1972年には第2スタジオ「ショパン・スタジオ」を増設。移動録音を可能にする「ストロベリー・モビール」も導入し、15の客室を備えた宿泊可能な音楽スタジオとして、その地位を確立しました。

しかし、ミシェル・マーニュは映画音楽作曲家としての活動に専念するため、1972年にスタジオの経営を譲渡。その後、財政難や法廷闘争に見舞われ、1985年にスタジオは閉鎖されました。

エピソード

エルヴィル城は、その独特な雰囲気でも知られています。1977年にアルバム『ロウ』を録音したデヴィッド・ボウイは、ベッド・ルームの一隅が光を吸い込むほど暗く、異様な雰囲気だったと語っています。また、ブライアン・イーノも朝方、見知らぬ人物の出現で目を覚ましたと証言しています。

1981年に加藤和彦のアルバム制作のために滞在したメンバーも、館の異様な雰囲気を感じ、高橋幸宏は初日から眠れず、他のメンバーも翌日からは近郊のホテルで寝泊まりしたと言われています。

主な録音作品

エルヴィル城では、数多くの著名なアーティストがレコーディングを行いました。

ゴング – 『カマンベール・エレクトリック』 (1971)
エルトン・ジョン – 『ホンキー・シャトー』, 『ピアニストを撃つな!』 (1972) , 『黄昏のレンガ路』 (1973)
ピンク・フロイド – 『雲の影』 (1972)
T・レックス – 『ザ・スライダー』 (1972) , 『タンクス』 (1973)
ジェスロ・タル – 『パッション・プレイ』 (1972) , 『ウォーチャイルド』 (1974)
キャット・スティーヴンス – 『キャッチ・ブル・アット・フォー』 (1972)
デヴィッド・ボウイ – 『ピンナップス』 (1973) , 『ロウ』 (1977)
マハヴィシュヌ・オーケストラ – 『インナー・ワールド』 (1975)
リック・ウェイクマン – 『神秘への旅路』 (1976)
バッド・カンパニー – 『バーニン・スカイ』 (1977)
イギー・ポップ – 『イディオット』 (1977)
ビージーズ – シングル『愛はきらめきの中に』 , 『ステイン・アライヴ』 (1977)
レインボー – 『バビロンの城門』 (1978)
シャム69 – 『ジ・アドベンチャーズ・オブ・ザ・ハーシャム・ボーイズ』 (1979)
加藤和彦 – 『ベル・エキセントリック』 (1981)
フリートウッド・マック – 『ミラージュ』 (1982)
* マイケル・シェンカー・グループ – 『黙示録』 (1983)

これらの作品は、エルヴィル城の歴史と音楽的な遺産を物語る上で、欠かすことのできない存在です。

エルヴィル城は、単なる歴史的な建造物ではありません。数々のアーティストが創造性を爆発させた場所であり、音楽史にその名を刻む伝説的なスタジオです。その歴史と音楽が織りなす魅力は、今もなお多くの人々を惹きつけています。

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