オキナワモズク

オキナワモズク（沖縄水雲）とは

オキナワモズク（学名: Cladosiphon okamuranus）は、ナガマツモ科に属する褐藻の一種で、私たちが「もずく」と呼んで食用にしている海藻の大部分を占めています。柔らかく細長い胞子体と微小な盤状の配偶体という異なる形態を世代ごとに繰り返すのが特徴です。食用にするのは胞子体の部分で、主に南西諸島に分布しており、大規模な養殖も行われています。

一般的に「もずく」や「本もずく」、「太もずく」とも呼ばれます。ただし、種としてのモズク（Nemacystus decipiens）はオキナワモズクとは別種であり、こちらも食用になりますが、流通量はオキナワモズクに比べて非常に少ないです。その他、イシモズクやフトモズクといった種類も食用とされています。

特徴

オキナワモズクは、大型の複相（染色体を2セット持つ）の胞子体と、微小な単相（染色体を1セット持つ）の配偶体との間で、異型世代交代を行います。

胞子体

柔らかく、細長い円柱状または管状の形状をしています。太さは1.5～3.5mm、高さは通常20～35cmですが、1mを超えることもあります。互い違いに分枝しており、基部は小さな盤状の付着器で岩などに付着します。藻体の色は基本的に茶褐色で、粘液を豊富に含んでいます。天候によって色や粘液の量に変化が見られ、曇天が続くと暗褐色になり粘液が減少し、晴天が続くと黄褐色になり粘液が増加します。

藻体の構造

藻体の中軸は髄層で構成され、その周囲を同化糸が取り囲んで皮層を形成しています。髄層と皮層の境界は明確です。髄は偽柔組織で、構成する細胞糸は直径16～96マイクロ[[メートル]]、長さは直径の1～12倍です。同化糸は基部で二又に分枝し、長さ200～220マイクロ[[メートル]]、10～20個の細胞からなります。下部の細胞は直径7～8マイクロ[[メートル]]で長さは直径の2～4倍、上部の細胞は直径約12マイクロ[[メートル]]で長さは幅の約2倍です。褐藻毛は直径約10マイクロ[[メートル]]で、基部に鞘があります。

生殖

胞子体は同化糸の先端に複子嚢（中性複子嚢）を形成し、遊走子（中性遊走子）を放出して無性生殖を行うことがあります。中性遊走子は2本の鞭毛を持ち、長さ10～12マイクロ[[メートル]]、幅6～8マイクロ[[メートル]]で、弱い正の走光性を示します。

また、胞子体は同化糸の基部に楕円形から倒卵形（長さ60～90マイクロ[[メートル]]、幅40～50マイクロ[[メートル]]）の単子嚢を形成し、2本の鞭毛を持つ遊走子を放出します。この遊走子が着生し、盤状多細胞の雄性または雌性の配偶体になります（直径は最大1.4mm）。配偶体は複子嚢を形成し、2本の鞭毛を持つ配偶子を放出します。配偶子は長さ6～8マイクロ[[メートル]]、幅4～6マイクロ[[メートル]]で、一方の配偶子（雌性配偶子）がその場に留まり、もう一方（雄性配偶子）が接近して融合し、接合子が胞子体へと発生します。胞子体は最初は配偶体に似た盤状体ですが、水温が下がると盤状体から直立した大きな体が成長します。未接合の配偶子が単為発生し、再び配偶体へと発生する無性生殖を行うこともあります。

オキナワモズクについては、複数株でゲノム塩基配列が決定されており、およそ130Mbp（Mbp = 100万塩基対）で13,000遺伝子ほどがコードされています。

分布と生態

オキナワモズクは、日本の南西諸島に分布しており、北限は奄美大島、南限は西表島です。タイプ産地は沖縄県慶良間です。

外海水の疎通が良い内湾やサンゴ礁に囲まれた礁池（「イノー」と呼ばれる）内の低潮線下、水深0～8m（最大13m）に生育します。サンゴ礫、石、海草、貝殻、杭や鉄筋などに付着しています。別種のモズクは通常、大型の海藻であるホンダワラ類（褐藻綱）に着生しますが、オキナワモズクは他の海藻には着生しません（ただし南西諸島ではモズクも海藻には付着せず、死サンゴ上などに付着します）。

胞子体成長の適温は22.5～25.0℃で、奄美地方では1～7月、沖縄本島地方では11～6月、宮古・八重山地方では10～5月頃です。夏期の高水温期は、盤状の配偶体または微小な胞子体として越夏します。

人間との関わり

食用

オキナワモズクは南西諸島で古くから食用とされており、天然の藻体を酢の物や天ぷら、味噌和えやピーナッツ和えなどにして食されてきました。琉球王朝の薬膳料理としても、オキナワモズクの酢の物や天ぷらが記録されています。

養殖技術が確立されると、オキナワモズクは産業規模で利用されるようになり、特にパック入りの酢モズクが全国に広く流通しています。塩蔵または生のオキナワモズクを利用した料理として、かき揚げ（天ぷら）や雑煮、カルパッチョ、餃子、ヒラヤーチー、味噌汁などがあります。また中国では乾燥地に生育する群体性藍藻である髪菜が縁起物の食材とされていますが、この種は2000年以降採集禁止とされており、オキナワモズクがその代用食材とされることがあり、「海鮮髪菜」、「美海髪菜」とも呼ばれます。

成分

オキナワモズクは低カロリーであり、ミネラルや食物繊維を豊富に含んでいます。

特に注目され、健康食品などにも利用される成分として、フコイダンとフコキサンチンがあります。ただしこれらの成分はオキナワモズクに特有ではなく、他の褐藻にも含まれます。

フコイダンは細胞外被のぬめり成分に含まれ、フコースからなる主鎖に硫酸基、ウロン酸、ガラクトースなどの単糖が側鎖として結合した多糖類です。褐藻に広く見られますが、種によって側鎖などの構造が異なります。抗血栓作用、抗炎症作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、免疫調整作用など、さまざまな生理活性作用が報告されており、健康食品や化粧品などに幅広く使用されています。ワカメやアラメ、アカモクなど他の褐藻に比べて、オキナワモズクはフコイダン含量が多いことが報告されています。

フコキサンチンは、褐藻などに含まれるカロテノイドの一種で、抗酸化作用や抗肥満作用、抗腫瘍活性などの有用な生理活性が報告されています。ただし褐藻の中で、オキナワモズクのフコキサンチン含量は多くはありません。

養殖

元来、オキナワモズクは天然の藻体が採取され、利用されていました。天然藻体収穫量は、1977～1983年の間に最大2,292トン/年でしたが、養殖技術の確立とともに天然藻体の利用は漸減しています。しかし、天然藻体は養殖藻体に比べて粘液量が多く枝が太いなどの特徴があるため根強い需要があり、現在でも少量ですが水揚げされています。

1972年頃から沖縄県、鹿児島県水産試験場においてオキナワモズクの養殖技術開発が進められ、1977年頃には生産が拡大し、1990年には生産量が10,000トンを超え、その後はおよそ10,000トンから20,000トンの間を推移しています。現在、日本のモズク類生産の大部分は、沖縄県で養殖されるオキナワモズクが占めています。

オキナワモズクの養殖方法は、次第に改良されています。養殖用の網に遊走子を付着させ、これを中間育成した後に本養殖する方法が一般的です。遊走子を自然に着生させたビニールシートや、室内培養したフリー盤状体を、水槽内で養殖網とともに培養することで、網に遊走子を付着させます（種付け）。種付けした網は、中間育成漁場（苗床）の海底に設置し、胞子体が一定の大きさになるまで育苗します。この中間育成により、胞子体の初期生長が格段に向上します。中間育成した網は本張り漁場に移動し、海底から一定の深さに張り、養殖します（本養殖）。

沖縄におけるオキナワモズク収穫の最盛期は4月から6月であり、その普及のため4月の第3日曜日を「もずくの日」としています。

成長した藻体は、船上から吸引ポンプを用いて収穫されます。漁港に水揚げされたものは検量され、加工場で洗浄・選別されます。その後、塩蔵、冷凍保存、二次加工メーカーへ出荷され、味付けモズクなどに加工されます。塩蔵・冷凍せずに冷蔵して出荷される生モズクも一部流通しており、フコイダンなどの成分抽出原料としても利用されています。

沖縄県水産海洋技術センターは、収量が高いなどの優れた特徴を持つ株の探索を行い、収量が大きく食感が柔らかい有望株を選抜し、「イノーの恵み」の名で品種登録しました。「イノー」はサンゴ礁に囲まれた礁池のことであり、オキナワモズクの養殖場所としてよく知られています。この株は伊平屋から単離されたものであり、S-strain（試験場株）とも呼ばれています。

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