オランダガラシ

オランダガラシ（クレソン）について

オランダガラシ（学名：Nasturtium officinale）は、アブラナ科に属する多年草で、一般的にはクレソンとして広く知られています。ヨーロッパから中央アジアを原産とし、世界各地で食用として親しまれている植物です。

名称

日本では、その渡来の歴史からオランダガラシという標準和名がつけられました。しかし、一般的にはフランス語由来のクレソンという名前が広く用いられています。英語ではウォータークレス、イタリア語ではクレシオーネ、中国語では豆弁菜と呼ばれています。また、オランダミズガラシ、ミズガラシ、セイヨウゼリといった別名も存在します。

学名としては、Nasturtium officinaleの他に、N. nasturtium-aquaticum、N. aquaticum、Rorippa nasturtium-aquaticumなどが用いられます。なお、別種であるガーデンクレス（学名：Lepidium sativum）は、アブラナ科マメグンバイナズナ属に属し、和名ではコショウソウと呼ばれています。

分布と生育地

クレソンは、ヨーロッパや中央アジアの温帯地域を原産としていますが、現在では北アメリカ、南アメリカ、アジア（日本を含む）、オセアニアなど、世界各地に分布しています。特に、清らかな水の流れる場所を好み、遊水池、小川、河原などの水辺に群生しています。日本には明治時代初期に西洋野菜として導入され、その後野生化し、各地の河川や湧水地で見られるようになりました。

クレソンは清流にしか育たないという俗説がありますが、実際には汚水の中でも生育可能です。日本国内では、コバノオランダガラシとともに、川や溝で野生化している姿がよく見られます。

形態と生態

クレソンは、多湿な環境を好む多年草で、水辺に生える抽水植物または沈水植物として知られています。非常に強い繁殖力を持ち、茎の一部が水辺に触れるだけで容易に発根し、増殖します。茎は柔らかく、地面を這うように伸び、高さは30～50cm程度になります。茎の節からは白い根が出て、葉は奇数羽状複葉で、長楕円形の小さな小葉が3～9枚つきます。葉は黒っぽい緑色で、寒い時期には紫紅色に変わります。

花期は初夏（5～6月頃）で、茎の先端に白い小さな花を穂状に咲かせます。花弁は十字状に4枚あり、花後には細長いさや状の果実が実り、中に種子が入っています。

外来種問題

日本には明治時代初めに、在留外国人向けの野菜としてオランダから導入されたのが最初とされています。その後、外国人宣教師によって各地に広められ、野生化が進みました。最初に野生化したのは、東京上野のレストラン精養軒で使われたクレソンが、不忍池に流入し根付いたのがきっかけと言われています。現在では、日本各地に自生しており、比較的山間の河川中流域まで分布を広げています。

クレソンの爆発的な繁殖力は、在来種の植物を駆逐する恐れや、水路を塞ぐ危険性が指摘されており、日本では外来生物法によって要注意外来生物に指定され、駆除が行われている地域もあります。

栽培

クレソンは、半水生植物であるため、水耕栽培に適しています。特に弱アルカリ性の水でよく育ちます。水辺や湿地での栽培が最適ですが、水切れに注意すれば畑でも栽培可能です。栽培されたクレソンは、高さが50～120cmにもなります。

耐寒性・耐暑性共に強いですが、冷涼な気候を好むため、良質なクレソンを収穫するには、ビニールで保温栽培するのが良いでしょう。春から秋にかけて白い花を咲かせ、種子繁殖も可能ですが、挿し芽でも簡単に増やすことができます。種まきから収穫までは2～2.5ヶ月、挿し芽では1.5ヶ月程度で収穫可能です。

栽培の際は、クレソンのつる先を15cmほど摘み取り、水辺や湿地に50～60cm間隔で植え付けます。少量を育てる場合は、市販のクレソンの茎葉を水に挿して発根させ、根が出たら鉢に植え替えてから定植します。大量に育苗する場合は、春に種子を育苗箱に筋まきし、本葉が2枚になったらポットに移し替え、草丈が7～8cmになったら定植します。水耕栽培の場合は、育苗箱を木箱などで作ったビニール水槽に半分沈めて栽培する方法もあります。

自家栽培の場合は、ベランダなどで水耕栽培やプランター栽培が可能です。水没した葉は枯れることがありますが、水面より上の部分が健全であれば問題ありません。食品として利用する際は、衛生上、時々水を交換するようにしましょう。

クレソンは、アオムシやコナガなどの害虫や、ハダニがつきやすいため注意が必要です。花が咲くと虫がつきやすくなるため、早めの対策が必要です。

生産

日本におけるクレソンの主な産地は、山梨県、愛知県、大分県などです。特に山梨県道志村は、全国一の出荷量を誇ります。

利用

クレソンは、根以外のほとんどの部分が食用として利用できます。主に春に採取され、新しい葉が次々と生えてくるため、茎先や柔らかい葉を摘めば一年中収穫可能です。最も美味しい時期は、花の咲く前とされています。

食用

クレソンは、ホウレンソウやルッコラなどと同様に、香味野菜として利用されます。生のままサラダや肉料理の付け合わせとして使われるほか、軽く茹でておひたし、和え物、煮浸しなどにも利用されます。また、スープや味噌汁の具材、天ぷらなど、様々な料理に使用できます。クレソンの独特な風味と辛味は、シニグリンという成分によるもので、ワサビの辛味と同じ成分です。シニグリンは、酵素の働きによりアリル[[イソチオシアネート]]に変化し、強い殺菌作用と抗酸化作用があると言われています。

保存する際は、乾燥しないようにポリ袋に入れて冷蔵庫で保管するか、水を入れたコップに茎葉を挿しておけば、数日間は新鮮さを保つことができます。長期保存する場合は、塩漬けが適しています。

クレソンを食べる際には、肝蛭症を媒介する肝蛭が付着している可能性があるため、野生のクレソンを食べる際は、よく火を通すことが望ましいです。

栄養価

クレソンは緑黄色野菜に分類され、β-カロテン、ビタミンC、鉄分、カルシウム、カリウム、葉酸などの栄養素を豊富に含んでいます。これらの栄養素は、血液の酸化防止や貧血予防に役立つとされています。アメリカ疾病予防管理センター（CDC）が発表した「栄養素の高い果物と野菜トップ41」では、クレソンは100点満点を獲得しました。

薬効

クレソンには、グルコナッスルチンという配糖体が含まれており、加水分解されると辛味成分の元になるフェニルエチル芥子油に変化します。また、グルコシノレートやイソチオシアネートといった辛味成分も含まれており、これらの成分は食欲増進や消化促進に役立つほか、外用すれば痛みを和らげる効果も期待できます。

動物実験では、日常的な摂取が血圧上昇抑制や脂質代謝改善に有効であるという報告もあります。また、フラボノールやmegastigmane glucosideなどの化合物がヒスタミン遊離を阻害するという研究結果も出ています。

クレソンは、中国では咳止めとして、ヨーロッパでは食欲増進のために古くから利用されてきました。ブラジルでは、クレソンから作られた咳止めシロップが大衆薬として広く認知されています。喘息患者を対象とした臨床試験では、クレソンエキスが抗酸化能を高め、喘息患者の酸化ストレスマーカーを改善することが示唆されています。

民間療法では、胃もたれ、消化不良、食欲不振の際に、新鮮な茎葉を生で食べることが推奨されています。また、歯痛、肩こり、神経痛、リウマチ、痛風、筋肉痛などの際には、生の茎葉をすり潰して患部に湿布すると良いとされています。

生薬として使用する際は、全草を天日乾燥させ、西洋菜干として利用されます。乾燥品を用いる場合は、1日3～5グラムを400ccの水で煎じて、3回に分けて服用する用法が知られています。

文学

オリヴァー・ゴールドスミスは、クレソン採集人の老婆を描いた詩「廃村」を残しています。

まとめ

クレソンは、食用だけでなく、薬効も期待できる魅力的な植物です。適切に利用し、その恩恵を享受しましょう。

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