カチューシャ (兵器)

カチューシャ：第二次世界大戦の記憶を轟かせる多連装ロケット砲

カチューシャ（ロシア語: Катюша, ラテン文字表記: Katyusha）は、第二次世界大戦においてソビエト連邦が開発・使用した、世界初の自走式多連装ロケット砲です。制式名称は82mm BM-8および132mm BM-13。

愛称の由来

「カチューシャ」という愛称は公式なものではありませんでしたが、前線に配備されると瞬く間に赤軍兵士の間で広まりました。この愛称の由来には諸説ありますが、有力な説の一つに、製造工場の頭文字「К」が刻印されていたため、当時流行していた歌「カチューシャ」にちなんで兵士たちが呼び始めたというものがあります。

一方、カチューシャと対峙したドイツ軍兵士は、その外観と発射時の轟音から「スターリンのオルガン」（ドイツ語: Stalinorgel）と呼び、恐れました。

シンプルな構造と運用思想

カチューシャの構造は非常にシンプルです。ロケット弾を載せる鉄製のレールを並べた発射機と、それを支える支持架で構成されています。ロケット弾は無誘導であり、照準器も備わっていません。射撃の際には、ロケット弾の重量や射距離から射角を算出し、おおよその方角に向けて発射されます。

命中精度は決して高くありませんでしたが、その欠点を補うために、大量のロケット弾を目標に集中して撃ち込む運用が採用されました。例えば、BM-13の場合、1基あたり16発のロケット弾を連続して発射することができました。

カチューシャは通常、トラック（ZIS-6やスチュードベーカーUS6など）に架装され、自走式ロケットランチャーとして運用されました。しかし、戦車やトラクター、装甲列車、河川砲艦など、様々な車両に搭載された例もあります。

ロケット弾には、黒色火薬またはダブルベース火薬が使用されました。ロケット弾自体もシンプルな構造であるため、安価で大量生産が可能でした。BM-8ではM-8ロケット弾（口径82mm）が、BM-13ではM-8またはM-13ロケット弾（口径132mm）が使用されました。

開発の背景と実戦投入

ソ連がカチューシャの開発に着手した背景には、ナチス・ドイツが1936年に開発した6連装ロケットランチャー「ネーベルヴェルファー」の存在がありました。1938年に開発が開始され、1941年6月21日にBM-8が実戦配備されました。

同年7月14日、ロシアの都市ルドニヤにおけるドイツ国防軍との戦闘で、初めて実戦投入されました。フリョーロフ大尉が指揮する実験砲兵隊が7基のカチューシャを使用し、その威力を見せつけました。その後、同年8月8日には8つの砲兵連隊が創設され、1連隊あたり36基が配備されました。
BM-8を改良したBM-13Nは1943年に完成し、第二次世界大戦終結までに1,800基以上が製造されました。

標準的な運用方法としては、敵軍の対戦車陣地に対して、主力部隊が突入する前に、野砲部隊の攻撃と並行して大量のロケット弾を一斉に発射するというものでした。カチューシャの主な目的は、敵兵士の頭上にロケット弾の雨を降らせ、心理的なダメージを与えることにありました。

広義のカチューシャとその影響

カチューシャは、ロケット弾発射器の代名詞として広く知られるようになりました。そのため、ゲリラ兵が使用する小型のロケット砲や、ソ連・ロシア製の自走式多連装ロケットランチャー全般を指す俗称として用いられることもあります。

現在、ロシア連邦軍で使用されているBM-21 グラートは、カチューシャの後継兵器にあたります。外見や任務が似ていることから混同されることもありますが、ロシアではカチューシャとは呼ばれていません。

2006年のレバノン侵攻では、ヒズボラがロケット砲で応戦した際、一部報道機関が「ヒズボラはカチューシャ・ロケットで攻撃を行っている」と報じました。しかし、この場合の「カチューシャ」は、多連装ロケット砲を指す一般的な呼称として用いられている可能性が高いと考えられます。

2020年にイラクの多国籍軍基地が襲撃された際も、「カチューシャによる攻撃」と報道されました。

カチューシャは、第二次世界大戦におけるソ連の勝利に貢献しただけでなく、現代の紛争においてもその名が使用されるなど、ロケット砲の歴史に大きな足跡を残した兵器と言えるでしょう。

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