ケプラー1708b

ケプラー1708b

ケプラー1708b（旧称KIC 7906827.01）は、地球からはくちょう座の方向におよそ5,600光年離れた場所に位置する、太陽に似た恒星ケプラー1708を周回する太陽系外惑星です。この惑星は、NASAのケプラー宇宙望遠鏡によるトランジット法を用いた観測データから、2011年に初めてその存在が示唆されました。当初は惑星候補として扱われていましたが、2019年に候補天体として識別され、2022年に正式に惑星としての存在が確認されました。さらに、このケプラー1708bの周囲に、海王星サイズの太陽系外衛星が存在する可能性が、天文学者David Kippingらがケプラーのトランジット観測データを分析した結果として報告されています。

惑星の特徴

ケプラー1708bは、木星よりやや小さいサイズの巨大ガス惑星に分類され、その半径は木星半径の約0.89倍と推定されています。質量についてはまだ確定的な値は得られていませんが、惑星が主星の手前を通過する際のタイミング（トランジットタイミング）を精密に分析した結果、その質量は4.6木星質量を下回る（2シグマ上限）ことが示されています。この質量の上限から、主星の視線速度に与える影響（振幅）は98m/s未満と予測されます。しかし、主星であるケプラー1708が比較的暗い恒星であるため、現在最も高精度とされる分光器を用いても、その質量を正確に測定することは難しい状況です。

ケプラー1708bは、主星から約1.64天文単位（AU）の距離で軌道を描いており、これは太陽系の火星軌道に近い位置にあたります。公転周期は約737.11日、すなわち約2.02地球年です。この軌道は、主星ケプラー1708系のハビタブルゾーン（生命が存在しうる領域）内に位置しており、主星からの日射量は0.561+0.074−0.068と推定されています。これにより、惑星の平衡温度は200〜300ケルビン（摂氏約マイナス73度から27度）と比較的穏やかな範囲にあると考えられます。軌道離心率についてはまだ測定に至っておらず、2シグマ上限として0.40未満であることが示されています。

主星ケプラー1708

ケプラー1708bが周回する主星ケプラー1708は、地球からはくちょう座の方向に約1,712±75パーセク（約5,580±240光年）離れた位置にある、太陽に似た特徴を持つ恒星です。見かけの等級は16等級と非常に暗く、肉眼で観測することは不可能です。天球上での座標（元期J2000）は赤経19時47分17.79秒、赤緯43度37分29.4秒です。欧州宇宙機関のガイア衛星による観測では、0.5730±0.0340ミリ秒角（mas）の年周視差と、赤経方向−0.770±0.057 mas/yr、赤緯方向−5.005±0.059 mas/yrの固有運動が測定されています。ケプラー1708は、UCAC4 669-077544、KIC 7906827、TIC 272716898など、複数の天体カタログに異なる名称で登録されています。

この恒星は太陽よりもやや大きく重く、質量は太陽質量の約1.088±0.072倍、半径は約1.117±0.064倍と推定されています。また、太陽よりも高温かつ高光度であり、有効温度は約6157+231−202ケルビン、放射光度は太陽光度の約1.521倍です。これらの物理的特性や、[Fe/H]=0.0±0.2 dexという太陽に近い金属量、そして推定年齢31.6±22.6億年という値に基づくと、ケプラー1708はF型主系列星に分類される可能性が考えられます。

太陽系外衛星の可能性

2022年、David Kippingらの研究チームは、ケプラー宇宙望遠鏡が取得した測光データを詳細に分析し、比較的低温で公転周期の長い巨大ガス惑星の周囲を公転する太陽系外衛星の有無を探査しました。この調査で分析された70個の太陽系外惑星のうち、ケプラー1708bのみが、その周囲を周回する太陽系外衛星の存在を示唆する信号を検出しました。この信号は、惑星のトランジット（主星面通過）に伴って観測される、ごく微弱な二次的な減光として現れました。

この衛星候補は「ケプラー1708b I」と暫定的に名付けられており、そのサイズは地球半径の約2.6倍と推定されています。これは海王星よりも小さいサイズにあたります。衛星候補の軌道については、主星ケプラー1708bと同一平面上を、最大で惑星半径の12倍までの距離で周回している可能性が考えられています。この距離は、木星とエウロパの間や、地球と月の間の距離の約2倍に相当します。ケプラー1708b Iの海王星に近い大きなサイズは、Kippingらが2017年に報告した別の海王星サイズ系外衛星候補、ケプラー1625b Iを想起させる特徴です。

ただし、この太陽系外衛星候補の存在を確定させる、あるいは否定するためには、追加のフォローアップ観測が不可欠です。これまでにケプラー1708bによるトランジットとその可能性のある衛星による二次減光は2回しか観測されておらず、衛星の存在を示す重要な証拠となるトランジットタイミング変動（TTV）は現在のところ検出されていません。Kippingらの分析では、主星の光度曲線に見られる減光が衛星以外の要因による可能性も検討・排除されていますが、それでも衛星候補が誤検出である確率は1%と見積もられています。この誤検出率が存在する主な理由は、ケプラー1708系にもう一つ別の惑星が存在し、それがトランジットを起こしている可能性がまだ完全に否定されていないことにあります。

ケプラー1708bとその系外衛星候補ケプラー1708b Iは、太陽系外における衛星探査という、比較的新しい研究分野において重要な天体として、今後の詳細な観測が待たれています。

もう一度検索