ゲエズ文字

ゲエズ文字：エチオピアの伝統文字体系

ゲエズ文字は、エチオピアおよびエリトリアで使用される文字体系であり、アムハラ語、ティグリニャ語、ティグレ語など複数の言語の表記に用いられています。古くから伝わるこの文字は、サブサハラアフリカにおいて非常に古い歴史を持つ文字として知られています。ゲエズ文字、アムハラ文字、エチオピア文字など様々な呼び名を持ち、その起源は南アラビア[[文字]]にまで遡ります。

ゲエズ文字の特徴

ゲエズ文字は、アブジャドである南アラビア[[文字]]を起源とするアブギダです。左から右へ記述され、基本的には1文字が1音節を表します。子音文字が基本となり、母音は子音文字に付加記号を付けることで表現します。

子音

ゲエズ文字の基本的な子音は26文字から構成され、その配列順序は他のセム系の文字とは大きく異なります。この配列は、古代の南アラビア[[文字]]やウガリット文字と類似点を示し、紀元前1200年頃まで遡る古い歴史を持つことが分かります。ただし、特定の宗教的文脈では、ヘブライ[[文字]]などと同様の順序で並べられることもあります。

アムハラ語表記においては、ゲエズ語にはない破擦音や摩擦音を表すため、7文字が追加され、合計33文字となります。追加された文字は、既存の子音文字に横棒などを加えることで作られ、元の文字の直後に配置されています。

母音

基本的な子音文字は、母音äが後続するものと見なされます。他の母音を表記するには、子音文字の上、下、右などに記号を追加して文字を変形させます。多くの場合、記号と文字が融合して新しい文字のように見えます。特に、母音əが続く場合の文字の変形は、暗記する必要があります。ゲエズ文字では7つの母音が用いられます。

唇音化した子音(kʷ, gʷ, qʷ, ḫʷ)は、それぞれの唇音化していない子音に唇音化記号を加えることで表現されます。これらの唇音化子音には、母音uとoは後続しません。

ゲエズ語の表記に使用される文字の総数は、子音26文字×母音7種類 + 唇音化子音4文字×母音5種類 = 202文字となります。子音の後に母音が続かない場合は、母音əが続く場合と同じ表記になります。また、ゲエズ語には重子音がありますが、表記上は重子音とそうでない子音の区別はありません。

数字と句読点

ゲエズ文字には、ギリシアのイオニア式数字表記に由来する数字がありますが、現代では通常アラビア数字が使われます。句読点に関しては、伝統的には単語の後ろにコロンに似た記号が用いられていましたが、現代ではスペースに置き換えられつつあります。コロンに横棒を加えた記号はコンマ、2本の横棒はセミコロン、コロンを2つ重ねたものはピリオドとして用いられ、7つの点は段落の終わりを示します。

ゲエズ文字の歴史

ゲエズ文字は、南アラビア[[文字]]から発展した文字体系です。紀元前500年頃のアクスム地方には、サバ語系の南アラビア[[文字]]で書かれた碑文が残されています。ゲエズ語は、遅くともアクスム王国時代の4世紀には文字で記述されていました。当初は南アラビア[[文字]]と同様に子音のみを表していましたが、350年頃からは母音記号が用いられるようになりました。これは、ゲエズ語を母語としない人々の学習ニーズの高まりが原因の一つと考えられています。ゲエズ文字の母音記号の付け方はインドの文字と類似点が見られますが、両者の間に歴史的な関係があるかどうかは現在も不明です。アムハラ語は1[[4世紀]]以降、ゲエズ文字で表記されるようになりました。アムハラ語にはゲエズ語にない音素もありますが、これらは既存の子音文字に横棒などを加えることで表現されます。

Unicode

Unicodeでは、ゲエズ文字は専用の領域に収録されています。

参考文献

Daniels, Peter T (1997). “Scripts of Semitic Languages”. In Robert Hetzron. The Semitic Languages. Routledge. pp. 16–45. ISBN 9780415412667
Gragg, Gene (1997). “Geʻez (Ethiopic)”. In Robert Hetzron. The Semitic Languages. Routledge. pp. 242–260. ISBN 9780415412667
Haile, Getatchew (1996). “Ethiopic Writing”. In Peter T. Daniels; William Bright. The World's Writing Systems. Oxford University Press. pp. 569–576. ISBN 0195079930
Hudson, Grover (1997). “Amharic and Argobba”. In Robert Hetzron. The Semitic Languages. Routledge. pp. 457–485. ISBN 9780415412667
O'Conner M (1996). “The Alphabet as a Technology”. In Peter T. Daniels; William Bright. The World's Writing Systems. Oxford University Press. pp. 787–794. ISBN 0195079930
内記良一「アラビア系文字の発展」『世界の文字』大修館書店、1981年、159-180頁。

外部リンク

SIL International - 対応フォント「Abyssinica SIL」がダウンロード可能
『エチオピア文字』地球ことば村・世界の文字。http://www.chikyukotobamura.org/muse/wr_africa_3.html

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