コクサッキーウイルス

コクサッキーウイルスは、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属に分類される、エンベロープを持たない一本鎖プラス鎖RNAウイルスです。ポリオウイルスやエコーウイルスと同じエンテロウイルス属に属し、国際ウイルス分類委員会では「エンテロウイルスA型」と「エンテロウイルスB型」に相当します。エンテロウイルス属はヒトに対する病原性が高く、糞口感染や飛沫感染によって広がります。このウイルスの名前は、1948年にニューヨーク州コクサッキーでポリオに類似した症状を示す患者から分離されたことに由来します。

コクサッキーウイルスは、初期の研究で新生児マウスに対する病原性に基づいて、A群とB群の2つに分けられています。A群は全身の筋炎による弛緩性麻痺を、B群は痙性麻痺を引き起こすと報告されています。A群には23の血清型、B群には6つの血清型が存在します。感染時には、発熱、発疹、上気道炎などの症状が見られ、夏風邪の原因ウイルスとして知られています。また、A群、B群ともにウイルス性髄膜炎の原因となることがあり、脳炎を引き起こすこともあります。

コクサッキーウイルスA群

A群のウイルスは、皮膚や粘膜に感染しやすく、ヘルパンギーナ、手足口病、急性出血性結膜炎の原因となります。ヘルパンギーナの主な原因はA群ですが、B群やエコーウイルスが原因となることもあります。手足口病は、A16型、A6型、エンテロウイルス71型が主な原因です。特にA6型は、以前はヘルパンギーナの原因として知られていましたが、近年では手足口病の病原体としても報告されるようになりました。手足口病はまれに急性髄膜炎や急性脳炎を合併することがありますが、エンテロウイルス71型感染例での合併率が高いとされています。急性出血性結膜炎の原因としては、A24型変異株が知られています。

コクサッキーウイルスB群

B群は、心臓、胸膜、膵臓、肝臓に感染しやすく、胸膜痛、心筋炎、心膜炎、肝炎などを引き起こします。特に心臓への感染は心嚢液貯留を引き起こすことがあります。また、発熱と強い胸痛を特徴とするボルンホルム病（流行性筋痛症）の原因としても知られています。B6型は膵臓のランゲルハンス島に障害を与え、糖尿病の原因となる可能性が指摘されています。さらに、シェーグレン症候群の発症とコクサッキーウイルス感染との関連性を示唆する研究も存在します。

コクサッキーウイルスの歴史

コクサッキーウイルスは、1948年から1949年頃にギルバート・ダルドーフによって発見されました。名前は、最初の検体が見つかったニューヨーク州コクサッキーの町に由来します。ダルドーフは、当初ポリオの治療法を研究していましたが、ポリオ類似のウイルスを発見し、その研究結果を1949年に発表、1959年にはラスカー賞を受賞しました。ダルドーフは、新生児マウスを使ってポリオ患者の便からウイルスを分離しようと試み、その中でポリオよりも症状の軽いウイルスを発見しました。また、コクサッキーB群に感染したマウスがポリオウイルスへの抵抗性を獲得することも発見しました。

ダルドーフの研究は、その後、コクサッキーウイルス感染によってボルンホルム病やヘルパンギーナなど様々な病気が起こることが明らかになり、新生児マウスに感染させた際の病態によって、弛緩性麻痺を起こすA群と痙性麻痺を起こすB群に分類されるようになりました。また、この発見は、ウイルス感染が他のウイルスの複製を阻害する現象やインターフェロンの発見につながりました。2007年には、中国東部でコクサッキーウイルスによるアウトブレイクが発生し、多くの子どもが入院し、死亡者も出ました。

現在、コクサッキーウイルスA21型の野生型であるCavatakは、腫瘍溶解性ウイルスとして治験に用いられています。

関連項目

エンテロウイルス
手足口病
ヘルパンギーナ
ボルンホルム病（流行性筋痛症）

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