コスメル

コスメル島は、メキシコのユカタン半島東部に位置するカリブ海に浮かぶ島で、キンタナ・ロー州に属しています。マヤ語で「ツバメの島」を意味するこの島は、その名の通り、多様な生態系と美しい自然に恵まれています。南北約48キロ、幅16キロの細長い島で、メキシコで3番目に大きな島です。

地理と自然

コスメル島の地形は平坦で、最高地点でも海抜15メートル程度です。島全体が石灰岩で形成されており、カルスト地形が発達しています。このため、地下にはセノーテと呼ばれる陥没穴が多数存在し、美しい水中洞窟が広がっています。ただし、これらのセノーテは許可されたダイバーのみ利用可能です。

島の大部分は半落葉性のジャングルに覆われており、コスメルアライグマ、コスメルツグミモドキ、コスメルカヤマウスなど、固有種の動物が生息しています。また、周辺海域は世界で2番目に大きなサンゴ礁システムであるメソアメリカ堡礁システムの一部であり、多様な海洋生物の楽園となっています。サンゴ、ウミトサカ、スナギンチャク、多毛類、イソギンチャク、ヒドロ虫、海綿動物、甲殻類、軟体動物、棘皮動物、サンゴ礁魚類など、豊かな生態系を誇ります。特に、アメリカヒルギ、ブラックマングローブ、ホワイトマングローブ、ボタンマングローブの4種のマングローブが繁茂しており、海洋生物の保護に貢献しています。また、タイマイ、アカウミガメ、アオウミガメなどのウミガメや、アメリカヘビウ、タイセイヨウクロマグロ、カリビアンシャープノーズパファー、ケショウモンガラ、コーラルトードフィッシュ、コモリザメ、イタチザメ、カマストガリザメ、アメリカアカエイ、ツナギトゲオイグアナ、ベニイロフラミンゴ、シロボウシバトなどの多種多様な動物が見られます。2016年にはユネスコの生物圏保護区に指定され、その自然環境の価値が国際的に認められています。

歴史

コスメル島には、4世紀頃からマヤ人が居住していたと考えられています。島からはオルメカ文明の工芸品も発見されており、古代からこの地が重要な場所であったことを示唆しています。マヤ時代には、イシュ・チェルという月の女神を祀る聖地として栄え、特に不妊に悩む女性の巡礼地となっていました。島内には約40ヶ所のマヤ遺跡が点在しており、中でもサン・ヘルバシオ遺跡が最大規模を誇ります。

16世紀には、スペイン人のフアン・デ・グリハルバがこの島を訪れ、翌年にはエルナン・コルテスが島のマヤ寺院を破壊しました。当時4万人いたとされるマヤ人の人口は、スペイン人が持ち込んだ天然痘によって激減し、1570年にはわずか30人になってしまいました。その後、18世紀には海賊の隠れ家として利用されましたが、やがて放棄されました。19世紀にユカタン半島で発生したカスタ戦争を逃れた難民が移住してきたことで、再び人が住むようになりました。

観光

1960年代に、海洋探検家のジャック・クストーがコスメル島の美しいサンゴ礁を紹介したことがきっかけで、この島は世界的なダイビングスポットとして知られるようになりました。現在は、世界中から多くの観光客が訪れ、スキューバダイビングやシュノーケリングを楽しんでいます。島を取り囲むサンゴ礁は、外洋から保護されており、穏やかな環境でダイビングを堪能できます。また、メキシコ政府は1996年にコスメルリーフ国立海洋公園を設立し、サンゴ礁の保護に力を入れています。この公園内では、海洋生物への接触や採取が禁止されています。しかし、1990年代にはクルーズ船の桟橋建設によって一部のサンゴ礁が被害を受けました。

現在、島内には300を超えるホテルや多くのレストラン、土産物店があり、観光客向けの施設が充実しています。マリンスポーツも盛んで、カイトサーフィンやパラセーリングも楽しめます。島の物資はすべて本土から船で輸送され、水は3つの淡水化施設によって供給されています。

2005年には、ハリケーン・エミリーとウィルマの二つのハリケーンが島を直撃し、甚大な被害をもたらしました。特にハリケーン・ウィルマは、浅瀬のサンゴ礁や海洋生物に大きな打撃を与えました。

祭り

毎年4月末から5月初めには、島の南にあるエル・セドラルという町で、伝統的な祭りが開催されます。この祭りは150年以上前、カスタ戦争から逃れてきたカシミーロ・カルデナスが、小さな木製の十字架を称えるために始めたと言われています。祭りの期間中は、見本市、伝統的な祭り、ロデオ、闘牛、音楽コンクールなどが催され、多くの人々で賑わいます。

コスメル島は、その豊かな自然と歴史、そして多様なアクティビティで、世界中の人々を魅了し続ける魅力的な観光地です。

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