サーマーン朝

サーマーン朝：中央アジアを彩ったイラン系イスラーム王朝

サーマーン朝(873年～999年)は、中央アジア南西部とイラン東部を支配したイスラーム王朝です。ブハラを首都とし、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタンの一部、そしてイラン東部のホラーサーン地方にその勢力を拡大しました。中央アジアにおける最古のイスラーム王朝の1つとして、その歴史は、地域社会や文化に多大な影響を与えました。

成立と拡大：地方勢力から独立王朝へ

サーマーン朝は、マー・ワラー・アンナフルのイラン系土着領主（ディフカーン）の一族、サーマーン家にその起源を持ちます。サーマーン家の祖、サーマーン・フダーは、サーサーン朝時代の貴族の末裔とも、ゾロアスター教の神官の家系出身とも言われています。

当初、アッバース朝の地方太守としてその地位を確立したサーマーン家でしたが、アッバース朝内部の権力闘争や、他勢力との複雑な関係の中で、徐々に勢力を伸ばしていきました。ターヒル朝滅亡後の873年、ナスル1世が自立し、875年にはアッバース朝カリフからマー・ワラー・アンナフル全域の支配権を認められました。これがサーマーン朝の正式な成立となります。

その後、サッファール朝といった他勢力との抗争を繰り返しながら、サーマーン朝は着実に勢力を拡大していきました。特に、イスマーイール・サーマーニーの活躍は目覚ましく、ブハラの内乱平定やホラーサーンの征服を推進し、事実上の建国の父となりました。イスマーイールは、ウズベキスタンとタジキスタンでは民族英雄として現在も高い評価を得ており、タジキスタン通貨のソモニも彼の名に由来しています。

最盛期と衰退：繁栄と内紛の狭間

イスマーイール・サーマーニーとその孫ナスル2世の時代、サーマーン朝は最盛期を迎えました。カラハン朝といった遊牧民勢力との戦いや、サッファール朝との抗争に勝利し、広大な領土を支配下に置きました。

しかし、最盛期を過ぎると、王朝の内部では権力闘争が激化し、王朝は次第に衰え始めます。ブワイフ朝といった勢力の台頭、シーア派勢力の浸透、そして地方領主の独立化などが、サーマーン朝の衰退を加速させました。

特に、ホラーサーン総督に任命されたアルプテギーンの独立は大きな転換点となりました。彼はガズナ朝を建国し、サーマーン朝の支配力を弱体化させました。さらに、北方のカラハン朝の南下も、サーマーン朝にとって大きな脅威となりました。

滅亡：カラハン朝とガズナ朝に挟まれる

999年、マンスール2世が暗殺され、幼少のアブド・アル＝マリク2世が即位したことで、サーマーン朝の混乱は極に達しました。カラハン朝は、この混乱に乗じてサーマーン朝領土に侵攻し、ブハラを陥落させました。ガズナ朝もホラーサーン地方を征服しました。こうして、サーマーン朝はカラハン朝とガズナ朝に挟撃される形で滅亡しました。

サーマーン朝最後の抵抗勢力は、11世紀初頭に鎮圧され、サーマーン朝の歴史に幕を閉じました。

文化と社会：イラン文化の復興と軍人奴隷制度

サーマーン朝は、単なる政治的勢力ではありませんでした。イラン文化の復興を積極的に推進した王朝として、大きな足跡を残しました。サーサーン朝やアッバース朝の制度を踏襲しつつ、独自の官僚制度や徴税システムを構築しました。

サーマーン朝を支えたのは、イラン系のディフカーンと、トルコ系遊牧民からなる軍人奴隷（グラーム）でした。グラームの養成システムは、後のマムルーク朝やオスマン帝国の制度にも影響を与えたと言われています。

経済的には、交易路の確保や農業の発展によって繁栄し、独自の貨幣を発行しました。その貨幣は、交易路を通じて遠く北欧まで流通しました。

文化面では、ペルシア語詩や文学が大きく発展し、ルーダキーやダキーキーといった名だたる詩人を輩出しました。また、数学や天文学などの自然科学も発達し、イブン・スィーナー（アヴィセンナ）といった後のイスラーム科学を代表する偉大な学者も輩出しています。サーマーン朝時代のブハラは、学問の中心地として栄え、多くの知識人が集まりました。

サーマーン朝は、イラン文化とイスラーム文化の融合によって独特の文化を築き上げ、中央アジアの歴史と文化に大きな影響を与えた王朝として歴史に名を残しています。その遺産は、今日のウズベキスタンやタジキスタンといった地域にも受け継がれています。

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