サーム (シャー・ナーメ)

サーム：古代ペルシアの英雄

サーム（Sām）は、古代ペルシアの叙事詩『シャー・ナーメ（王書）』に登場する英雄であり、ザールの父、ロスタムの祖父として重要な役割を果たします。彼の物語は、古代ペルシアの神話や英雄譚を語る上で欠かせない要素となっています。

アヴェスターにおけるサーム

サームの名前は、ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』にも見られます。ここでは、英雄クルサースパ（ガルシャースプ）が彼の家族であるとされています。ただし、『シャー・ナーメ』に登場するサームと『アヴェスター』のサームとの間には、明確な関係性は認められていません。また、『アヴェスター』にはザールもロスタムも登場しないため、『シャー・ナーメ』の作者が意図的にサームをザールとロスタムの父祖の位置に置いたと考えられています。

シャー・ナーメにおけるサーム

『シャー・ナーメ』において、サームはナリーマン（ナリーマーン）の息子として描かれています。ナリーマン家は勇敢さと知慮深さで知られ、人々の尊敬を集め、王家の信任も厚い一族でした。サーム自身も、過去に竜を牛頭の鎚矛の一撃で倒したことから、「必殺のサーム」「一撃のサーム」という異名を持ちます。

武勲誉れ高き英雄に与えられる「パフラヴァーン」の称号を得ていたサームは、イランのフェリドゥーン、マヌーチェフル（マヌーチフル）、ナウザルの各王に仕えました。王子時代のマヌーチェフルがフェリドゥーンの息子を成敗する戦いにも付き従い、フェリドゥーンの死後はマヌーチェフルの後見役を務めました。

マヌーチェフルの死後、ナウザルの王座が腐敗すると、イランの戦士たちはサームにイランの統治を依頼します。しかし、サームはこれを拒否し、あくまでナウザルを支持し、フェリドゥーンとマヌーチェフルの後を継ぐよう勧めました。アルジャースプとザレールが戦った戦争では、「サームは最高のメイス使いであり、アーラシュは最高の射手である」と語られています。

ザールとの出会い

サームは息子を授かりますが、その赤ん坊は髪も体毛も真っ白でした。サームはこれを不吉と考え、息子を遠方に捨ててしまいます。しかし、その息子は霊鳥スィーモルグによって育てられ、力強い青年へと成長します。後にサームは息子と再会し、自らの過ちを詫び、息子にザールという名前を与え、自身の支配するザーブリスターンを譲りました。

ザールがザッハークの子孫にあたる女性との結婚を望んだ際、マヌーチェフル王がこれを認めようとしませんでした。しかし、サームが王に手紙を送り、取りなしたことで、王はザールの結婚を許しました。

ロスタムの誕生とサームの死

やがてザールに息子ロスタムが生まれると、サームのもとにはロスタムを象った人形が届けられ、サームは大いに喜びました。その後、ロスタムの成長を祝う宴でザールやロスタムと楽しい時を過ごした後、サームは生涯を終えました。

サームの物語は、英雄的な武勇伝であると同時に、親子の絆や王への忠誠心を描いた感動的な物語でもあります。彼の存在は、『シャー・ナーメ』の世界観をより深く理解するための重要な鍵となるでしょう。

参考文献

フェルドウスィー『シャー・ナーメ』
フィルドゥスィー『王書（シャー・ナーメ） - ペルシア英雄叙事詩』黒柳恒男訳、平凡社〈東洋文庫 150〉、1969年11月。ISBN 978-4-582-80150-7。
フェルドウスィー『王書 - 古代ペルシャの神話・伝説』岡田恵美子訳、岩波書店〈岩波文庫 赤 786-1〉、1999年4月。ISBN 978-4-00-327861-1。
岡田恵美子『ペルシアの神話 - 光と闇のたたかい』筑摩書房〈世界の神話 5〉、1982年8月。ISBN 978-4-480-32905-9。
* カーティス, ヴェスタ・サーコーシュ『ペルシャの神話』薩摩竜郎訳、丸善〈丸善ブックス 096〉、2002年2月。ISBN 978-4-621-06096-4。

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