フェリドゥーン

フェリドゥーン：イラン神話の英雄

フェリドゥーン（またはファリードゥーン、ペルシア語: فریدون、Fereydun）は、イラン神話における重要な英雄であり、ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』にも登場します。彼は、悪竜アジ・ダハーカを打ち倒し、暴君ザッハークを幽閉した英雄として知られています。彼の物語は、古代ペルシアの英雄譚として広く語り継がれています。

『アヴェスター』におけるフェリドゥーン

『アヴェスター』では、フェリドゥーンはスラエータオナ（Thraetaona / Θraētaona）という名で登場します。彼はアジ・ダハーカを世界の終末まで幽閉するとされ、その英雄的な活躍が語られています。彼の父はアーブティーン、母はファラーナクであり、先祖にはタフムーラスがいます。また、息子にはサルム、トゥール、イーラジュがおり、曾孫にはマヌーチェフルがいます。

『欽定アベスターグ』におけるフェリドゥーン

サーサーン朝時代に編纂された『欽定アベスターグ』では、フェリドゥーン（フレードーン）は悪竜アジ・ダハーグを倒した後、500年間王位に就いたとされています。王位を退く際には、3人の息子に国を分け与えました。長男のサルムにはローマ、次男のトーズにはトゥルケスターン、そして三男のエーリズにはエーラーン・シャフルが与えられました。しかし、兄たちはエーラーン・シャフルが末弟に与えられたことを妬み、エーリズを殺害してしまいます。エーリズの娘はフレードーンのもとへ逃れ、その後、祖父と孫娘の関係を持ち、マヌシュチフルが生まれます。マヌシュチフルはやがて大伯父たちを討ち、エーラーン・シャフルを支配することになります。

『シャー・ナーメ』におけるフェリドゥーン

ペルシアの叙事詩『シャー・ナーメ（王書）』では、フェリドゥーンは暴君ザッハークを幽閉した英雄として描かれています。彼の出生からザッハークを倒すまでの物語は詳細に語られています。

生い立ちと試練

フェリドゥーンはアーブティーンとファラーナクの間に生まれましたが、父はザッハークによって生贄にされてしまいます。ファラーナクは、「フェリドゥーンがザッハークを滅ぼす」という夢を見たザッハークがフェリドゥーンを探していることを知り、彼を美しい雌牛ビルマーヤのいる牧場へ連れて行きます。フェリドゥーンはビルマーヤの乳を飲んで育ちますが、ザッハークによって牧場に追手が送られます。ファラーナクはフェリドゥーンを連れてエルブルス山へ逃れ、そこで出会った隠者に息子を託します。その後、ザッハークはビルマーヤと周囲の動物たちを皆殺しにします。

ザッハークとの戦い

16年後、エルブルス山を降りたフェリドゥーンは母親から真実を聞き、ザッハークを倒すことを決意します。老鍛冶屋カーヴェの反乱をきっかけに、多くの人々がフェリドゥーンの元に集まり、ザッハークに苦しめられてきた彼らはフェリドゥーンを新たな王に迎えようとします。フェリドゥーンはカーヴェに牛頭の矛を作らせ、それを武器に戦いに挑みます。天使の助けを得てザッハークの城を攻め落とし、ザッハークとの決戦に勝利しますが、天使ソルーシュの忠告により、ザッハークをダマーヴァンド山の洞窟に幽閉します。

王としての統治

ザッハークを幽閉した後、フェリドゥーンは500年間王位に就き、善政を敷きました。彼は、ザッハークに囚われていたイラン王ジャムシードの娘であるシャフルナーズとアルナワーズを王妃に迎えました。フェリドゥーンは3人の息子をもうけましたが、区別したくなかったため名前を付けませんでした。その後、3人の息子たちのためにイエメンのサルヴ王の娘たちを嫁に迎えました。

息子たちの試練と悲劇

フェリドゥーンは息子たちの真の心を見極めるため、竜に変身して彼らの前に現れました。長男は逃げ出し、次男は戦おうとし、三男は説得しようとしました。フェリドゥーンは元の姿に戻り、息子たちにそれぞれサルム、トゥール、イーラジという名を与えました。その後、イーラジの不吉な運命を占い師から告げられ、彼は心を痛めます。フェリドゥーンは、サルムにルームとユーラシア大陸の西方を、トゥールにトゥーラーンと中国を、イーラジにイランをそれぞれ与えましたが、イーラジを妬む兄たちが彼を殺害してしまいます。フェリドゥーンは嘆き悲しみ、失明してしまいます。

曾孫マヌーチェフル

その後、イーラジの娘とその夫との間に息子が生まれ、フェリドゥーンは失明から回復しました。彼は曾孫にマヌーチェフルと名付け、彼を大切に育てました。マヌーチェフルが成長すると、フェリドゥーンは彼に王位を譲り、善政を行うように教えを説きました。マヌーチェフルはその後、叔父たちを打ち倒し、イランの支配を確立しました。

フェリドゥーンは、その生涯を通じて、勇気、正義、そして王としての責任を体現した英雄として、イランの歴史と文化の中で不朽の存在となっています。

参考文献

フェルドウスィー『シャー・ナーメ（王書）』
フェルドウスィー『王書 - 古代ペルシャの神話・伝説』岡田恵美子訳、岩波書店
青木健『ゾロアスター教』講談社
岡田恵美子『ペルシアの神話 - 光と闇のたたかい』筑摩書房
カーティス, ヴェスタ・サーコーシュ『ペルシャの神話』丸善
池上正太『オリエントの神々』新紀元社

外部リンク

* ファリーヅーン（フェリドゥーン）の物語（『インド・ペルシヤ神話と伝説』 馬場吉信・松村武雄編著、大洋社出版部、1939年2月、559頁以降） - 国立国会図書館デジタルコレクション

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