シグナス CRS OA-6

シグナス CRS OA-6ミッション

シグナス CRS OA-6は、米国航空宇宙局（NASA）とオービタルATK社（現在のノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ社）との間で締結された商業補給サービス（CRS）契約に基づき実施された無人宇宙補給ミッションの一つです。国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送を目的としたシグナス宇宙船の飛行としては通算6回目にあたりますが、NASAのCRS契約に基づくISSへの補給ミッションとしては5回目のフライトでした。このミッションで使用されたシグナス補給船は、2003年のコロンビア号事故で犠牲となったNASAの宇宙飛行士リック・ハズバンド機長に敬意を表し、「S.S. Rick Husband」と名付けられました。

ミッションの背景と経緯

オービタルATK社は、商業軌道輸送サービス（COT）の実証飛行成功を経て、2014年中に2回のISS補給ミッションを請け負う商業補給サービス計画に進みました。しかし、2014年10月に実施された3回目の打ち上げミッションであるシグナス CRS Orb-3では、アンタレス130ロケットが離陸直後に爆発するという失敗に見舞われました。この事故を受け、オービタルATK社は事故原因となったAJ-26エンジンを使用するアンタレス100シリーズを廃止することを決定し、信頼性とペイロード能力の向上を目指して、新規開発されたRD-181エンジンを搭載するアンタレス200シリーズへのアップグレードに着手しました。

アンタレス200シリーズの開発と製造が進められる間、オービタルATK社はISSへの輸送義務を果たすため、代替手段としてユナイテッド・ローンチ・アライアンス（ULA）社のアトラスVロケットを使用する契約を締結しました。この契約に基づき、2015年12月6日にシグナス CRS OA-4ミッションがアトラスVで成功裏に打ち上げられました。CRS OA-6ミッションも同様にアトラスVを使用することとなり、2016年3月23日に打ち上げが実施される運びとなりました。オービタルATK社はその後、改修されたアンタレス230ロケットを用いてCRS OA-5（2016年第3四半期）およびCRS OA-7（2016年第4四半期）を打ち上げる計画を進め、これら3回のミッションをもって、初期の商業補給サービス契約に基づく輸送義務を完了する予定でした。

シグナス補給船の製造と組み立ては、バージニア州ダレスにあるオービタルATK社の施設で行われました。打ち上げ時には、サービスモジュールと与圧貨物モジュールが射場で結合されました。ミッションの運用は、ダレスとヒューストンにある管制センターから行われました。

打ち上げと軌道投入

シグナス CRS OA-6は、2016年3月23日協定世界時（UTC）03時05分52秒に、フロリダ州ケープカナベラル空軍基地からアトラスVロケットによって低軌道へ打ち上げられました。打ち上げ自体は順調に進みましたが、飛行中にロケットの第1段エンジンに予期せぬ異常が発生し、予定よりも約5秒早く燃焼が停止しました。しかし、ロケット第2段のセントールエンジンが、残りの燃料を用いて予定より約1分長く燃焼時間を延長することでこの問題を補い、シグナス宇宙船は無事に所定の軌道に投入されることに成功しました。

一方で、軌道投入後のアトラスV第2段は、所定の方法で軌道離脱を行ったものの、制御噴射の精度が十分ではなかったため、予定していた海域に正確に落下させることができませんでした。これは8年以上に及ぶアトラスVロケットの運用史上で、ULA社が公式に認めた初めての不具合事例となりました。

宇宙船と搭載貨物

CRS OA-6は、NASAとのCRS契約における10回のミッションのうち5回目に位置づけられ、改良された拡張型シグナス宇宙船としては2回目の飛行でした。当初、2016年3月には同じアトラスVロケットを使用してNOAAの気象衛星GOES-Rが打ち上げられる計画でしたが、GOES-Rの計画遅延により打ち上げが10月に延期されたため、CRS OA-6が先にアトラスVの利用機会を得て、OA-5ミッションよりも前に打ち上げられることになりました。前述の通り、このシグナス補給船はS.S. Rick Husbandと命名されました。

OA-6ミッションでISSへ運ばれた総貨物重量は3,513 kgに及びました。主な搭載品は以下の通りです。

クルー向け補給品：1,139 kg
ISSのシステムや維持管理に必要な資機材：1,108 kg
宇宙での様々な科学研究・実験に用いられる機材：777 kg
ステーション内のコンピュータ関連機器：98 kg
* 船外活動（宇宙遊泳）に必要な装備品：157 kg

これらの物資に加えて、ISSから軌道上に放出されるフィリピン初のマイクロサットライトである「Diwata-1」も搭載されていました。

Saffire-1実験

CRS OA-6ミッションの特筆すべき点として、ISSへの補給任務を完了した後、シグナス補給船内部で行われたNASAの「Saffire-1」実験があります。この実験の目的は、微小重力環境である宇宙空間における可燃物の燃焼挙動と火炎の伝播特性を詳細に研究することでした。実験のために、補給船内部には各種センサーや高解像度カメラが設置され、計画的に着火された素材が燃える様子が約20分間にわたって記録されました。Saffire-1実験で得られたデータは、宇宙機や宇宙飛行士の装備品に用いられる超軽量・高強度の素材に対し、どの程度の耐火性能が求められるのかを評価する上で非常に重要な情報を提供しました。実験完了後、S.S. Rick Husbandは安全な方法で大気圏に再突入し、処分されました。

その後のミッション

CRS OA-6の成功後、NASAはオービタルATKとの商業補給サービスを継続しました。続くミッションとして、OA-5が2016年7月6日に、OA-7が同年12月30日にそれぞれ打ち上げられる計画でした。さらに、追加の商業輸送サービス契約（CRSフェーズ2の一部）が締結され、CRS OA-8E、OA-9E、OA-10Eといった拡張ミッションも計画されました。これらの後続ミッションによって、ISSへの安定的な物資補給が継続されました。

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