シグナス OA-9E

OA-9Eミッション

OA-9Eミッションは、オービタルATK社（現ノースロップ・グラマン）が開発・運用する無人宇宙補給機シグナスを用いて、国際宇宙ステーション（ISS）へ必要な物資を輸送するために実施されました。これは、NASAとの間で結ばれた商業補給サービス（CRS）契約に基づく一連のミッションの一部であり、特に、最初のCRS契約（CRS-1）の下で行われたISSへの9回目の貨物輸送フライトに相当します。また、シグナス宇宙船自体の飛行としては、記念すべき10回目のミッションでした。このミッションは、2018年5月21日午前8時44分（協定世界時、UTC）に成功裏に打ち上げられました。

オービタルATK社とNASAは、ISSへ定期的に物資を輸送するための新たな宇宙輸送システムを共同で開発しました。これは、NASAの商業軌道輸送サービス（COTS）プログラムの枠組みの中で行われました。当時のオービタル・サイエンシズ社は、中型ロケットのアンタレスと、先進的な設計のシグナス宇宙船の設計・組み立てを担当し、シグナスの与圧貨物モジュール（PCM）は提携企業であるタレス・アレーニア・スペース社から供給を受けました。

ミッションの背景と来歴

2013年9月にCOTSの実証飛行が成功裏に完了した後、オービタルATK社はCRS契約に基づき、2014年中にISSへの補給ミッションを2回実施する契約を請け負いました。しかし、3回目の打ち上げミッションであるシグナス CRS Orb-3は、アンタレス130ロケットが離陸直後に爆発するという失敗に終わってしまいました。この事故を受け、同社はアンタレスロケットの推進システムを見直し、第1段エンジンの新規開発（ロシア製RD-181エンジンの搭載）を加速させ、信頼性とペイロード能力の向上を図りました。この改良型はアンタレス230シリーズとして知られています。

アンタレスロケットの改修期間中、オービタルATK社はミッション遂行のため、2015年12月のCRS OA-4および2016年3月のCRS OA-6を、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス（ULA）社のアトラスVロケットを使用して、フロリダ州のケープ・カナベラルから打ち上げました。その後、同社は2016年中にCRS OA-5、OA-6（アトラスVを使用）、およびOA-7の3回のシグナスミッションを実施する計画を立てました。このうち、2回は改良型のアンタレス230を、1回は前述のアトラスVの2機目を使用しました。これらのミッションにより、オービタルATK社は当初のCRS契約で定められた貨物輸送義務をほぼ達成することができました。

OA-9Eミッションは、商業補給サービスフェーズ2（CRS-2）契約が発効するまでの移行期間において、NASAが必要とするISSへの補給を継続するために計画された延長ミッションの一部でした。このミッションが単に「OA-9」ではなく「OA-9E」と呼ばれるのは、CRS Orb-3の失敗を含めても、改良されたアンタレス230およびアトラスVを使用することで、当初CRS-1契約で計画された貨物輸送量をわずか7回の飛行で達成できたためです。「E」は、当初契約された貨物輸送の「拡張（Extension）」であることを示しています。

シグナス宇宙船の製造と組み立ては、バージニア州ダレスにあるオービタルATK社の施設で行われました。シグナスのサービスモジュールと与圧貨物モジュールの最終的な結合は打ち上げ施設で行われ、ミッションの運用管制はバージニア州ダレスおよびテキサス州ヒューストンにある管制センターから実施されました。

宇宙船の詳細

OA-9Eミッションで使用されたシグナス宇宙船は、オービタルATK社のNASAとのCRS契約下でISSへ飛行した9機目の宇宙船であり、CRS-1契約の延長枠での飛行と位置づけられています。このミッションでは、ペイロード容量が増加された拡大型のシグナスPCMが使用されており、これはこのタイプのモジュールとしては6回目の飛行となりました。宇宙船は2018年5月21日に打ち上げられました。

オービタルATK社の伝統に倣い、このシグナス宇宙船は「J.R.トンプソン」と名付けられました。J.R.トンプソン氏は、2017年に死去したオービタル・サイエンシズ社の元社長兼最高経営責任者（CEO）です。彼はオービタル社で様々な要職を歴任し、アンタレスロケットを含む同社の打ち上げ機ファミリーの開発を監督した人物でした。

輸送された貨物

NASAはオービタルATK社とCRS OA-9Eミッションの契約を締結し、貨物の内容、打ち上げ日時、およびシグナス宇宙船の軌道パラメータを決定しました。OA-9Eミッションでは、合計3,350キログラム（約7,390ポンド）の貨物が国際宇宙ステーションへ輸送されました。

このうち、ISS内部に格納される与圧貨物は3,258 kg（約7,183ポンド）でした。非与圧貨物は82 kg（約181ポンド）で、これにはナノラックス社のキューブサット展開器と、シグナスがISSから離脱した後に放出される予定の6機のキューブサットが含まれていました。

ISSに輸送された与圧貨物の主な内訳は以下の通りです。

乗員補給品：811 kg（約1,788ポンド）
科学研究機材：1,021 kg（約2,251ポンド）
船外活動装備：132 kg（約291ポンド）
宇宙船資材（ISSの維持・運用に必要な物品）：1,192 kg（約2,628ポンド）
コンピューター資材：100 kg（約220ポンド）
ロシアのハードウェア：13 kg（約29ポンド）

また、非与圧貨物として上記のナノラックスCubeSat展開器（82 kg）が搭載されていました。

ISSのリブースト試験

OA-9Eミッションでは、ISSのリブースト（軌道高度の維持・上昇）能力をシグナス宇宙船で試験するという、特筆すべきタスクも実行されました。通常、ISSのリブーストはロシアのプログレス補給船が行いますが、商用宇宙船がこの任務を行うのは、これが初めての試みでした。

ISSとの結合が完了し、貨物の移送作業が進められている期間中、シグナスは軌道上昇試験に臨みました。試験は、ISSから分離される数日前の7月10日午後4時25分（東部夏時間 EDT、協定世界時では20時25分）に実施されました。シグナスのメインエンジンが約50秒間噴射されました。NASAの発表によると、この試験は短い噴射によるリブーストのテストであり、その結果、ISSの軌道高度は約80メートル上昇したということです。

OA-9Eミッションは、ISSへの継続的な補給ルートを確保し、商業宇宙輸送能力の多様性を示す重要な一歩となりました。

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