シジルマサ

シジルマサ：サハラ交易で繁栄したオアシス都市の歴史

シジルマサ（Sijilmāsa）は、現在のモロッコのリッサニ近郊に位置し、8世紀から14世紀にかけてサハラ交易で重要な役割を果たしたオアシス都市です。その地理的な重要性から、様々な王朝の支配下に入り、繁栄と衰退を繰り返しました。

都市化とミドラール朝時代

元々、紀元後500年頃にはベルベル人が季節的に利用する物資の集積所でした。都市としての発展の契機は諸説ありますが、8世紀半ばにアッバース朝に対する反乱に失敗したハワーリジュ派の人々が移住してきたことが有力な説として挙げられます。彼らの指導者であった「黒いイーサー」ことイーサー・イブン＝マズヤド・アスワドの処刑後、アブルカーシム・サムグが新たな首長となり、以後200年間、シジルマサはミドラール朝（バヌー・ミドラール）というハワーリジュ派のベルベル人王朝の支配下で都市国家として存続しました。

818年のラバドの乱を避けてアンダルスから亡命者が多く流入し、シジルマサの商業的な可能性に着目した人々が定住するようになりました。また、交易の発展に伴い、ユダヤ人の居住地も拡大していきました。

ミドラール朝の最盛期を築いたのは、3代目のムンタスィル・イブン＝ヤサアです。彼の治世下で都市を囲む城壁が築かれ、その後10年間でシジルマサは大きく発展しました。彼の権威はダルアにまで及び、ダルアは銀鉱山の近くに位置していたため、サハラ越えの隊商にとって重要な拠点となりました。

シジルマサはスーダンの金の主要な交易路に位置していたため、10世紀には、この都市を支配することは西アフリカから西アジアのイスラム世界への金の流通をコントロールすることを意味しました。そのため、イフリーキヤ（現チュニジア）のファーティマ朝とコルドバの後ウマイヤ朝は、直接支配またはベルベル人勢力を通じて、シジルマサの支配を巡って争いました。この争奪戦は、両王朝が発行する金貨の質に影響を与え、シジルマサを支配した王朝の金貨の金含有量が増加しました。10世紀は多くのイスラム王朝が金貨を発行したため、金の需要は増大しました。

モロッコ諸王朝の支配時代の繁栄と衰退

シジルマサを通じた交易システムにおいて、金と並んで重要だったのが塩です。テガーザを経由するルートが優位になるのは、ムラービト朝が興隆する時期と一致しています。ムラービト朝は1054年から55年にかけてシジルマサを征服しました。それまで、バヌー・グダーラ族が支配する大西洋のアウリール（現在のモーリタニアのイーン・ウォララン島とも）から塩が輸出されていましたが、グダーラ族がムラービト朝に反抗したため、ムラービト朝の支配するサハラ中央部の交易路から締め出されるようになりました。北アフリカへ向けての手工業製品や食料との交換をする金のネットワークは、砂漠に産する岩塩との取引を生み出し、塩の取引によってスーダンにさらに金がもたらされるようになりました。

ムラービト朝、ムワッヒド朝、マリーン朝の支配下にあった250年間、シジルマサはイベリア半島南部のエブロ川からニジェール川に至る広大な帝国のネットワークの一拠点都市として繁栄しました。しかし、1393年にマリーン朝のスルタンが内乱でシジルマサの統治権を失うと、シジルマサは衰退期に入りました。16世紀のアラブの歴史家レオ・アフリカヌスは、シジルマサが衰退し、サアド朝時代に放棄されたと記述しています。その後、シジルマサは17世紀以降モロッコを支配するアラウィー朝揺籃の地となり、その支配下で守備隊が置かれ、修復されました。

シジルマサは、サハラ交易における重要な拠点として、その興亡の歴史を通じて、北アフリカの歴史に大きな影響を与えた都市でした。

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