シデコブシ
シデコブシ（学名：Magnolia stellata）は、モクレン科モクレン属に分類される落葉性の低木または小高木です。その和名は、春先に咲く花がコブシに似ていることに加え、多数ある細長い花被片が、しめ縄や玉串に付ける「しで（紙垂、四手）」のように見えることにちなんで名付けられました。別名ではヒメコブシとも呼ばれます。
樹高は最大で約5メートルほどに成長します。樹皮は灰白色で表面はなめらかで、皮目が見られます。若い枝には毛が密生しています。葉は枝に互い違いにつき、長さ5～10センチメートル、幅1～4センチメートルの細長い楕円形や倒披針形をしており、縁にぎざぎざはありません。葉の根元は狭まってくさび形になり、先端は丸みを帯びています。葉の表面には毛がなく、裏面は淡い緑色で、特に葉脈に沿って初めは毛が見られます。葉柄は短く、毛が生えています。冬芽は小さく、短い伏せた毛で覆われています。葉が落ちた跡はV字形になり、枝を一周する托葉（たくよう）の跡が目立ちます。花芽は長卵形で、長さ2～2.5センチメートルになり、長く白い柔らかな毛に覆われています。
花期は3月から4月にかけてで、葉が開くよりも一足早く、直径7～10センチメートルの大きな花を咲かせます。花の色は一般的には白色ですが、淡い紅色のものもあり、これは「ベニコブシ」と呼ばれます。花の色合いは木によって様々です。一つの花は約10日間咲き続け、株全体では約20日間花を楽しむことができます。花には多数の雄しべと雌しべがらせん状に並んでつきますが、果実として成熟するのは一部のみです。雌しべが先に成熟する性質（雌性先熟）を持ち、甲虫やアザミウマ、ハエ、ハチなどが花の受粉を助けます。花の香りはコブシとは異なり、独特の芳香があり、主に安息香酸メチルという成分が含まれています。開花直前のつぼみは、しばしばヒヨドリによって食べられてしまうことがあります。
果実は秋の8月から10月頃に熟します。個々の雌しべが袋状の果実（袋果）になり、これらが集まって長さ3～7センチメートルの集合果となります。熟した果実は裂けて開き、中から赤い種子が白い糸状の珠柄（しゅへい）にぶら下がるように現れます。この種子は鳥によって運ばれ、散布されます。染色体数は2n = 38です。
種子からの繁殖の他、株元からの芽出し（萌芽更新）や、枝が地面に触れて根付くこと（伏条更新）による無性繁殖も行います。環境によっては、樹高1メートルほどでも花を咲かせ、実をつけることがあります。
シデコブシは日本の固有種であり、愛知県、岐阜県、三重県のごく一部に限られた地域にのみ自生しています。養老山地の東の麓、木曽川や庄内川の流域、そして渥美半島などに見られますが、東濃地域を除いては、ごく狭い範囲に孤立して分布しています。このような限られた分布域にもかかわらず、遺伝的な多様性は比較的高いことが分かっています。かつて存在した東海湖の沿岸地域と分布が重なることから、「周伊勢湾要素」と呼ばれる植物群の一つとされています。
湧き水のある山裾や、小さな谷の底の湿地、丘の斜面にある水路のそばなど、湿った場所に生育します。日当たりの良い場所を好むため、周囲の木が成長して日陰になると、そこで子孫を残すことが難しくなります。かつては山崩れによる新たな湿地の出現や、人による管理が適地の維持に繋がっていましたが、現在では開発による湿地の消失や、土地利用の変化による遷移の進行によって生育環境が減少し、個体数が減少しています。
シデコブシの自生個体群は、現在、絶滅の危機に瀕しています。国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは絶滅危惧種（Endangered）に指定されており、日本の環境省のレッドリストでも準絶滅危惧（NT）に指定されています。国内の総個体数は約1万本程度と推定されており、湿地の開発、土地造成、ゴルフ場建設などが主な減少原因とされています。過去には愛知県岡崎市や知多郡武豊町の二ツ峯湿地では自生地が消滅しています。三重県では絶滅危惧IB類、愛知県と岐阜県では絶滅危惧II類に指定されており、各県で保全の取り組みが進められています。
シデコブシの貴重な自生地は、国の天然記念物や、県、市の天然記念物として保護されています。国の天然記念物としては、愛知県田原市の「椛のシデコブシ自生地」（シデコブシの南限）や、三重県菰野町の「田光のシデコブシ及び湿地植物群落」（シデコブシの西限）などがあります。また、愛知県の「黒河湿地植物群落」や「伊川津のシデコブシ」、岐阜県中津川市の「岩屋堂のシデコブシ群生地」、多治見市の「虎渓山シデコブシ群生地」（多治見市の木にも指定）など、多くの場所で天然記念物に指定され、貴重な群落が守られています。豊田市の東海丘陵湧水湿地群はラムサール条約にも登録されており、シデコブシを含む湿地植物が保護されています。岐阜県中津川市福岡町下野はシデコブシの北限、子野は東限とされています。
シデコブシの学名については、一般的にMagnolia stellataが用いられますが、別の学名を用いるべきだとする意見も存在します。モクレン属を細かく分ける考え方では、シデコブシがYulania属に分類されることもありますが、現在は広くモクレン属に含まれ、ハクモクレン節に位置づけられています。
中国に分布するMagnolia sinostellataはシデコブシによく似ていますが、詳細な形態や遺伝子の解析から、現在は別の種とされています。
同じモクレン属の他の種との間で交雑することがあり、いくつかの雑種が知られています。例えば、タムシバとは分布域が一部重なる場所で自然交雑が見られ、タムシバを母親とした雑種個体が確認されています。シデコブシとコブシは本来分布が離れていますが、植栽されたコブシとの間で交雑が生じることが報告されています。また、園芸においては、シデコブシとコブシの交配による品種が多く作出されています。さらに、シデコブシとシモクレンを交配して生まれた園芸品種群は、‘Ann’や‘Betty’など女性の名前が付けられ、「ガール・マグノリア」として親しまれています。
自生地は絶滅の危機に瀕しているシデコブシですが、その美しい花姿から、庭木や公園樹として世界各地で広く栽培されており、園芸品種も作られています。岐阜県では環境浄化や観賞用として「大気環境推奨木」にも選ばれています。
特徴
樹高は最大で約5メートルほどに成長します。樹皮は灰白色で表面はなめらかで、皮目が見られます。若い枝には毛が密生しています。葉は枝に互い違いにつき、長さ5～10センチメートル、幅1～4センチメートルの細長い楕円形や倒披針形をしており、縁にぎざぎざはありません。葉の根元は狭まってくさび形になり、先端は丸みを帯びています。葉の表面には毛がなく、裏面は淡い緑色で、特に葉脈に沿って初めは毛が見られます。葉柄は短く、毛が生えています。冬芽は小さく、短い伏せた毛で覆われています。葉が落ちた跡はV字形になり、枝を一周する托葉（たくよう）の跡が目立ちます。花芽は長卵形で、長さ2～2.5センチメートルになり、長く白い柔らかな毛に覆われています。
花期は3月から4月にかけてで、葉が開くよりも一足早く、直径7～10センチメートルの大きな花を咲かせます。花の色は一般的には白色ですが、淡い紅色のものもあり、これは「ベニコブシ」と呼ばれます。花の色合いは木によって様々です。一つの花は約10日間咲き続け、株全体では約20日間花を楽しむことができます。花には多数の雄しべと雌しべがらせん状に並んでつきますが、果実として成熟するのは一部のみです。雌しべが先に成熟する性質（雌性先熟）を持ち、甲虫やアザミウマ、ハエ、ハチなどが花の受粉を助けます。花の香りはコブシとは異なり、独特の芳香があり、主に安息香酸メチルという成分が含まれています。開花直前のつぼみは、しばしばヒヨドリによって食べられてしまうことがあります。
果実は秋の8月から10月頃に熟します。個々の雌しべが袋状の果実（袋果）になり、これらが集まって長さ3～7センチメートルの集合果となります。熟した果実は裂けて開き、中から赤い種子が白い糸状の珠柄（しゅへい）にぶら下がるように現れます。この種子は鳥によって運ばれ、散布されます。染色体数は2n = 38です。
種子からの繁殖の他、株元からの芽出し（萌芽更新）や、枝が地面に触れて根付くこと（伏条更新）による無性繁殖も行います。環境によっては、樹高1メートルほどでも花を咲かせ、実をつけることがあります。
分布と生育環境
シデコブシは日本の固有種であり、愛知県、岐阜県、三重県のごく一部に限られた地域にのみ自生しています。養老山地の東の麓、木曽川や庄内川の流域、そして渥美半島などに見られますが、東濃地域を除いては、ごく狭い範囲に孤立して分布しています。このような限られた分布域にもかかわらず、遺伝的な多様性は比較的高いことが分かっています。かつて存在した東海湖の沿岸地域と分布が重なることから、「周伊勢湾要素」と呼ばれる植物群の一つとされています。
湧き水のある山裾や、小さな谷の底の湿地、丘の斜面にある水路のそばなど、湿った場所に生育します。日当たりの良い場所を好むため、周囲の木が成長して日陰になると、そこで子孫を残すことが難しくなります。かつては山崩れによる新たな湿地の出現や、人による管理が適地の維持に繋がっていましたが、現在では開発による湿地の消失や、土地利用の変化による遷移の進行によって生育環境が減少し、個体数が減少しています。
保全状況
シデコブシの自生個体群は、現在、絶滅の危機に瀕しています。国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは絶滅危惧種（Endangered）に指定されており、日本の環境省のレッドリストでも準絶滅危惧（NT）に指定されています。国内の総個体数は約1万本程度と推定されており、湿地の開発、土地造成、ゴルフ場建設などが主な減少原因とされています。過去には愛知県岡崎市や知多郡武豊町の二ツ峯湿地では自生地が消滅しています。三重県では絶滅危惧IB類、愛知県と岐阜県では絶滅危惧II類に指定されており、各県で保全の取り組みが進められています。
天然記念物指定地
シデコブシの貴重な自生地は、国の天然記念物や、県、市の天然記念物として保護されています。国の天然記念物としては、愛知県田原市の「椛のシデコブシ自生地」（シデコブシの南限）や、三重県菰野町の「田光のシデコブシ及び湿地植物群落」（シデコブシの西限）などがあります。また、愛知県の「黒河湿地植物群落」や「伊川津のシデコブシ」、岐阜県中津川市の「岩屋堂のシデコブシ群生地」、多治見市の「虎渓山シデコブシ群生地」（多治見市の木にも指定）など、多くの場所で天然記念物に指定され、貴重な群落が守られています。豊田市の東海丘陵湧水湿地群はラムサール条約にも登録されており、シデコブシを含む湿地植物が保護されています。岐阜県中津川市福岡町下野はシデコブシの北限、子野は東限とされています。
分類と類似種、雑種
シデコブシの学名については、一般的にMagnolia stellataが用いられますが、別の学名を用いるべきだとする意見も存在します。モクレン属を細かく分ける考え方では、シデコブシがYulania属に分類されることもありますが、現在は広くモクレン属に含まれ、ハクモクレン節に位置づけられています。
中国に分布するMagnolia sinostellataはシデコブシによく似ていますが、詳細な形態や遺伝子の解析から、現在は別の種とされています。
同じモクレン属の他の種との間で交雑することがあり、いくつかの雑種が知られています。例えば、タムシバとは分布域が一部重なる場所で自然交雑が見られ、タムシバを母親とした雑種個体が確認されています。シデコブシとコブシは本来分布が離れていますが、植栽されたコブシとの間で交雑が生じることが報告されています。また、園芸においては、シデコブシとコブシの交配による品種が多く作出されています。さらに、シデコブシとシモクレンを交配して生まれた園芸品種群は、‘Ann’や‘Betty’など女性の名前が付けられ、「ガール・マグノリア」として親しまれています。
自生地は絶滅の危機に瀕しているシデコブシですが、その美しい花姿から、庭木や公園樹として世界各地で広く栽培されており、園芸品種も作られています。岐阜県では環境浄化や観賞用として「大気環境推奨木」にも選ばれています。
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