シリアのキリスト教

シリアにおけるキリスト教徒

シリアにおけるキリスト教徒は、同国の人口のおよそ10%を占めています。その歴史は古く、キリスト教が初期に受容された地域の一つであり、使徒ペトロがダマスカスで宣教を行った頃に遡ります。ウマイヤ朝によるシリアやアナトリア半島への軍事的拡大の後、イスラム教が広まりましたが、現在でもダマスカスには無視できない規模のキリスト教徒が居住し、街の至る所に教会が見られます。

シリアの憲法では、大統領はムスリムでなければならないと定められていますが、国教は定められておらず、公式には特定の宗教を他よりも重視することはありません。アサド政権は世俗主義を掲げており、宗教的少数派に対して比較的寛容な政策をとっています。しかし、2011年以降のシリア内戦により、アルカイダ系反政府勢力や過激派組織ISILの台頭は、キリスト教徒コミュニティに深刻な影響を与えました。これらの勢力が支配する地域では、改宗の強要や人頭税の課税、処刑などの事案が発生し、キリスト教徒は政府以上に反政府勢力を恐れるという状況も生まれました。

社会との統合と分裂

シリアのキリスト教徒は、経済、学問、科学、芸術、政治など、社会のあらゆる側面に積極的に関わっています。公共部門や民間部門の経営者、地方公共団体の首長、議員、政府の大臣などを務める者もおり、軍隊でも将校として活躍しています。彼らはキリスト教徒のみの部隊を構成するよりも、イスラム教徒との混成部隊を望み、過去の中東戦争ではイスラム教徒の同僚と共に戦いました。また、開発が遅れている地域でのボランティア活動も積極的に行い、地域社会に貢献しています。

一方で、シリアのキリスト教徒は、結婚、離婚、相続といった民事訴訟を扱う独自の裁判所を所有しています。また、他の共同体との協定により、イスラム教への改宗や、イスラム教からの回心は認められていません。

教派の多様性

シリアのキリスト教コミュニティは、主に西方教会と東方教会に分かれています。西方教会に属するカトリック教会やプロテスタントは少数派であり、大多数は東方教会に所属しています。主な東方教会の集団としては、以下のものがあります。

ギリシア正教会: シリア最大の教派であり、コンスタンティノープル総主教庁に忠誠を誓っています。典礼にはギリシア語が用いられますが、現在ではアラビア語も主要な言語となっています。かつてメルキト教会と呼ばれていました。
シリア正教会: シリア語で儀式を行い、カルケドン公会議を経て東方正教会から分かれました。
アルメニア教会: アルメニア語で典礼を行い、その教義は合性論です。
東方典礼カトリック教会: ローマ・カトリック教会とフル・コミュニオンの関係にあり、独自の言語、教会法、儀式を維持しています。マロン派教会（マロン典礼カトリック教会）もその一つです。

これらの教派は、政治的、教義上の不一致から分裂を繰り返してきましたが、近年では互いに連携を強化する動きも見られます。

キリスト教徒とイスラム教徒の関係

シリアでは、歴史的にキリスト教徒はイスラム教徒よりも都市化が進んでおり、アレッポ、ハマー、ラタキアなどに多く居住しています。また、比較的収入の低い層に属している傾向があります。しかし、初等教育のレベルはイスラム教徒よりも高く、ホワイトカラーの職業や専門職に就く割合も高いです。

キリスト教徒の領域

シリアのキリスト教徒は、国内各地に居住していますが、特に重要な地域としては、以下のものがあります。

アレッポ県: アレッポには、アルメニア人が多く暮らしています。
ダマスカス県: ダマスカスには、大規模なキリスト教徒コミュニティがあります。
ダマスカス郊外県: マアルーラは、人口の殆どをメルキト派が占める町です。また、セイドナヤも重要な地域です。
ホムス県: ホムスは、国内で2番目にキリスト教徒人口が多い都市です。また、ワディ・アル・ナサラ（クリスチャンの渓谷）には多くのキリスト教徒が住んでいます。
ハサカ県: カーミシュリーやハサカには、少数民族アッシリア人が多く暮らしています。
ハマー県: ムハルダ、スカイラビーヤ、カフルバフムなどが重要な地域です。
ダルアー県: イズラ、ハバブなどが挙げられます。
デリゾール県: デリゾールには、アルメニア人が多く暮らしています。

まとめ

シリアにおけるキリスト教徒は、多様な教派に分かれながらも、社会のあらゆる側面で重要な役割を果たしています。しかし、近年では内戦の影響により、その立場は不安定になっています。シリアのキリスト教徒コミュニティの未来は、同国の平和と安定にかかっていると言えるでしょう。

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