ルイ・クープラン
ルイ・クープラン（Louis Couperin, 1626年頃 - 1661年）は、17世紀フランスで活躍したバロック時代の作曲家です。パリを拠点とした音楽家一族であるクープラン家の中でも、後に「大クープラン」として知られることになる甥のフランソワ・クープランに匹敵するほど重要な存在とされています。しかし、わずか35歳で亡くなったため活動期間は短く、特に20代前半までの前半生についてはほとんど記録が残されていません。
その生涯に関する情報の多くは、1732年に出版されたティトン・デュ・ティエの著作『Le Parnasse François』の記述に依拠しています。ルイ・クープランは1626年頃、パリから南東へ約50km離れたショーム・アン・ブリの町で誕生しました。父シャルル・クープランは地元のベネディクト会サン＝ピエール大修道院でオルガニストを務めていました。ショームの戸籍簿には一部欠落があるため、正確な出生日は不明です。
ルイの人生の転機は、1650年または1651年の夏頃に訪れました。彼は弟たちや友人たちと共に、当時著名なクラヴサン奏者であり宮廷楽団員でもあったジャック・シャンピオン・ド・シャンボニエールのもとを訪れます。ショームからほど近いシャンボニエールの邸宅での祝宴に招かれた彼らは、そこで音楽を披露しました。シャンボニエールはルイ・クープランの非凡な才能を見抜き、パリへ来るよう強く勧めました。手稿譜に残された記録から、遅くとも1651年8月12日には彼がパリに滞在していたことが分かっています。
パリでの活動初期には、1652年に滞在していたドイツの作曲家ヨハン・ヤーコプ・フローベルガーから大きな影響を受けたと考えられています。ルイのクラヴサン作品の中には、「フローベルガー氏を模して（à l'imitation de Mr. Froberger）」と題されたプレリュードがあります。また、フローベルガーのパリ滞在中に事故死したリュート奏者シャルル・フルーリー（ブランロシェ）を追悼するため、フローベルガーとルイ・クープランはそれぞれ「トンボー」（墓碑銘）と題された作品を作曲しています。
1653年4月9日、ルイ・クープランはパリの中心的な教会であるサン・ジェルヴェ教会のオルガニストに就任しました。この重要なポストは、以後2世紀にわたりクープラン家が代々引き継ぐことになります。また、ルイは宮廷楽団においてドゥシュ・ド・ヴィオール（高音ヴィオール）奏者の地位も得ていました。一説によれば、これは師であるシャンボニエールが自身が持つ宮廷クラヴサン奏者の地位をルイに譲ろうとした際、ルイが恩師への敬意からこれを固辞したため、彼のために特別に創設された役職だったと言われています。
ルイ・クープランは、パリで音楽家として充実した日々を送っていましたが、1661年8月29日にわずか35歳でその生涯を閉じました。
活動期間が約10年と短かったこともあり、ルイ・クープランの作品は生前に出版されることはありませんでした。彼の音楽は、主に以下の3つの貴重な手稿譜を通じて現代に伝えられています。
ボーアン手稿 (Bauyn manuscript): 1690年頃に編纂。クラヴサン曲122曲、オルガン曲4曲、合奏曲5曲を収録し、ルイ・クープラン作品の主要な宝庫となっています。
パルヴィル手稿 (Parville manuscript): 1670年頃に作成。ルイのクラヴサン曲55曲を含みますが、その多くはボーアン手稿と重複しています。
* オールダム手稿 (Oldham manuscript): 1957年にギィ・オールダムが入手し、1995年にようやく全貌が公開されました。オルガン曲約70曲（うち約68曲が固有）、イ短調のクラヴサン組曲、5声の合奏のためのファンタジア4曲などが含まれています。この手稿譜には日付や地名が記された作品が多く、作品の成立時期や背景を知る上で非常に貴重です。ただし、これらの手稿譜にはしばしば作曲家のファーストネームが明記されていません。特にオールダム手稿公開後に知られるようになったオルガン作品群は、それ以前に確認されていたクラヴサン作品と大きく作風が異なるため、一部の研究者からはこれらが同一人物によるものかについて議論もなされています。
クラヴサン作品:
ルイ・クープランのクラヴサン作品の大半は、師であるシャンボニエールと同様に、リュート音楽の伝統に根ざした舞曲で占められています。しかし、ルイの作品はシャンボニエールに比べてより複雑で表現豊かな性格を持つのが特徴です。アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグといった舞曲が全体の約3分の2を占めますが、パッサカリアやシャコンヌといった大規模な変奏曲も重要です。これら後者はしばしばロンド形式を取り、両ジャンルの区別は曖昧になっています。特筆すべき作品としては、厳粛な雰囲気と珍しい嬰ヘ短調の調性を持つ『パヴァーヌ 嬰ヘ短調』があり、リュート奏者エヌモン・ゴーティエの追悼曲ではないかという説もあります。これらの舞曲は本来組曲として書かれたわけではありませんが、現代の演奏では同じ調性の曲を集めて組曲形式で演奏されることが一般的です。
ルイ・クープランのクラヴサン作品において、最も革新的とされるのがプレリュード・ノン・ムジュレ（非定量的な前奏曲）です。彼はクラヴサンのためのこの形式を初めて確立した作曲家の一人と考えられています。ノン・ムジュレとは「拍子のない」という意味で、ルイはしばしば全音符のみを用いて音価の区別なく記譜し、多様なスラー（タイやアーティキュレーションを示す記号）を書き加えることで、演奏者に自由な解釈を促しています。これは、即興演奏のニュアンスを楽譜に定着させようとする試みとして重要視されています。
オルガン作品:
ルイ・クープランのオルガン作品は、模倣的なフーガやファンタジア、またはコラール（聖歌）を定旋律として用いた作品が中心です。これらの作品は、ルネサンス時代の厳格な対位法様式と、新しいバロック時代の音楽語法を結びつける橋渡し役を果たしており、音楽史的な意義が大きいとされています。一部の作品では、『クロモルネによるファンタジア』や『ティエルスによるフーガ』のように、特定のオルガンストップ（音色を変えるための装置）が指定されており、これは後にフランスのオルガン音楽の重要な特徴となるレジストレーション指定の先駆けと言えます。
ルイ・クープランは短い生涯ながら、特にクラヴサンとオルガン音楽において多くの優れた作品を残し、その後のフランスの鍵盤音楽の発展に大きな足跡を残しました。
その生涯に関する情報の多くは、1732年に出版されたティトン・デュ・ティエの著作『Le Parnasse François』の記述に依拠しています。ルイ・クープランは1626年頃、パリから南東へ約50km離れたショーム・アン・ブリの町で誕生しました。父シャルル・クープランは地元のベネディクト会サン＝ピエール大修道院でオルガニストを務めていました。ショームの戸籍簿には一部欠落があるため、正確な出生日は不明です。
ルイの人生の転機は、1650年または1651年の夏頃に訪れました。彼は弟たちや友人たちと共に、当時著名なクラヴサン奏者であり宮廷楽団員でもあったジャック・シャンピオン・ド・シャンボニエールのもとを訪れます。ショームからほど近いシャンボニエールの邸宅での祝宴に招かれた彼らは、そこで音楽を披露しました。シャンボニエールはルイ・クープランの非凡な才能を見抜き、パリへ来るよう強く勧めました。手稿譜に残された記録から、遅くとも1651年8月12日には彼がパリに滞在していたことが分かっています。
パリでの活動初期には、1652年に滞在していたドイツの作曲家ヨハン・ヤーコプ・フローベルガーから大きな影響を受けたと考えられています。ルイのクラヴサン作品の中には、「フローベルガー氏を模して（à l'imitation de Mr. Froberger）」と題されたプレリュードがあります。また、フローベルガーのパリ滞在中に事故死したリュート奏者シャルル・フルーリー（ブランロシェ）を追悼するため、フローベルガーとルイ・クープランはそれぞれ「トンボー」（墓碑銘）と題された作品を作曲しています。
1653年4月9日、ルイ・クープランはパリの中心的な教会であるサン・ジェルヴェ教会のオルガニストに就任しました。この重要なポストは、以後2世紀にわたりクープラン家が代々引き継ぐことになります。また、ルイは宮廷楽団においてドゥシュ・ド・ヴィオール（高音ヴィオール）奏者の地位も得ていました。一説によれば、これは師であるシャンボニエールが自身が持つ宮廷クラヴサン奏者の地位をルイに譲ろうとした際、ルイが恩師への敬意からこれを固辞したため、彼のために特別に創設された役職だったと言われています。
ルイ・クープランは、パリで音楽家として充実した日々を送っていましたが、1661年8月29日にわずか35歳でその生涯を閉じました。
作品
活動期間が約10年と短かったこともあり、ルイ・クープランの作品は生前に出版されることはありませんでした。彼の音楽は、主に以下の3つの貴重な手稿譜を通じて現代に伝えられています。
ボーアン手稿 (Bauyn manuscript): 1690年頃に編纂。クラヴサン曲122曲、オルガン曲4曲、合奏曲5曲を収録し、ルイ・クープラン作品の主要な宝庫となっています。
パルヴィル手稿 (Parville manuscript): 1670年頃に作成。ルイのクラヴサン曲55曲を含みますが、その多くはボーアン手稿と重複しています。
* オールダム手稿 (Oldham manuscript): 1957年にギィ・オールダムが入手し、1995年にようやく全貌が公開されました。オルガン曲約70曲（うち約68曲が固有）、イ短調のクラヴサン組曲、5声の合奏のためのファンタジア4曲などが含まれています。この手稿譜には日付や地名が記された作品が多く、作品の成立時期や背景を知る上で非常に貴重です。ただし、これらの手稿譜にはしばしば作曲家のファーストネームが明記されていません。特にオールダム手稿公開後に知られるようになったオルガン作品群は、それ以前に確認されていたクラヴサン作品と大きく作風が異なるため、一部の研究者からはこれらが同一人物によるものかについて議論もなされています。
クラヴサン作品:
ルイ・クープランのクラヴサン作品の大半は、師であるシャンボニエールと同様に、リュート音楽の伝統に根ざした舞曲で占められています。しかし、ルイの作品はシャンボニエールに比べてより複雑で表現豊かな性格を持つのが特徴です。アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグといった舞曲が全体の約3分の2を占めますが、パッサカリアやシャコンヌといった大規模な変奏曲も重要です。これら後者はしばしばロンド形式を取り、両ジャンルの区別は曖昧になっています。特筆すべき作品としては、厳粛な雰囲気と珍しい嬰ヘ短調の調性を持つ『パヴァーヌ 嬰ヘ短調』があり、リュート奏者エヌモン・ゴーティエの追悼曲ではないかという説もあります。これらの舞曲は本来組曲として書かれたわけではありませんが、現代の演奏では同じ調性の曲を集めて組曲形式で演奏されることが一般的です。
ルイ・クープランのクラヴサン作品において、最も革新的とされるのがプレリュード・ノン・ムジュレ（非定量的な前奏曲）です。彼はクラヴサンのためのこの形式を初めて確立した作曲家の一人と考えられています。ノン・ムジュレとは「拍子のない」という意味で、ルイはしばしば全音符のみを用いて音価の区別なく記譜し、多様なスラー（タイやアーティキュレーションを示す記号）を書き加えることで、演奏者に自由な解釈を促しています。これは、即興演奏のニュアンスを楽譜に定着させようとする試みとして重要視されています。
オルガン作品:
ルイ・クープランのオルガン作品は、模倣的なフーガやファンタジア、またはコラール（聖歌）を定旋律として用いた作品が中心です。これらの作品は、ルネサンス時代の厳格な対位法様式と、新しいバロック時代の音楽語法を結びつける橋渡し役を果たしており、音楽史的な意義が大きいとされています。一部の作品では、『クロモルネによるファンタジア』や『ティエルスによるフーガ』のように、特定のオルガンストップ（音色を変えるための装置）が指定されており、これは後にフランスのオルガン音楽の重要な特徴となるレジストレーション指定の先駆けと言えます。
ルイ・クープランは短い生涯ながら、特にクラヴサンとオルガン音楽において多くの優れた作品を残し、その後のフランスの鍵盤音楽の発展に大きな足跡を残しました。
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