ジュゼッペ・キアラ

ジュゼッペ・キアラとは

ジュゼッペ・キアラ（Giuseppe Chiara、1602年 - 1685年）は、イタリア出身のカトリック・イエズス会宣教師です。江戸時代初期、キリシタン禁教令が敷かれる中、日本に潜入を試みましたが捕らえられました。

厳しい拷問に耐えかね、最終的に棄教を表明。その後は、岡本三右衛門と名前を変え、幕府の監視下で生涯を過ごしました。

遠藤周作の小説『沈黙』の主人公のモデルとしても知られ、その数奇な運命は多くの人々に影響を与えています。

生涯

1602年、シチリア王国のキウーザ・スクラーファニで生まれたキアラは、江戸幕府が鎖国政策を進め、キリスト教が厳しく弾圧されていた時代に日本を目指しました。

1633年、同じイエズス会司祭であったクリストヴァン・フェレイラが長崎で捕らえられ、拷問の末に棄教したという知らせを受け、キアラを含む10名のイエズス会士が日本へ向かいます。

1643年、一行は筑前国に上陸したものの、すぐに捕縛され、長崎を経て江戸へ送られます。宗門改奉行の井上政重による厳しい取り調べを受け、その際には棄教したフェレイラも協力しました。将軍・徳川家光自らが検分したという記録も残っています。

キアラはフェレイラと同じく穴吊りの拷問を受け、3日後に棄教を表明。その後、信仰を再び表明することは許されませんでした。1646年には小石川の切支丹屋敷に収容され、幕府の命により殉教した下級武士の未亡人と結婚し、岡本三右衛門の名を継ぎました。幕府から十人扶持を与えられましたが、切支丹屋敷から出ることは許されませんでした。

キアラはその後も、キリシタンや宣教師に関する情報を幕府に提供し、宗門改方の業務にも従事しました。晩年には、キリスト教の教義について執筆を求められ、『天主教大意』を著しました。この書物は、後にジョヴァンニ・シドッティを尋問した新井白石の研究資料となり、『西洋紀聞』の執筆に影響を与えました。

キアラは寺の檀家になることを拒否し、幽閉生活を続けました。1685年、43年間の幽閉生活の末に病没し、遺体は荼毘に付され、小石川無量院に葬られました。墓碑には「入専浄真信士霊位、貞享二乙丑年七月廿五日」と刻まれています。

墓碑

キアラの墓碑は、当初小石川無量院にありましたが、都市計画のため雑司ヶ谷霊園に移されました。その後、無量院は廃寺となり、墓碑はサレジオ会司祭のクロドヴェオ・タシナリによって練馬サレジオ神学院に移設されました。現在はカトリック調布教会に隣接するチマッティ資料館に安置されています。2016年には調布市の有形文化財に指定され、キリシタン史跡としては初の指定となりました。

この墓碑は、鎖国禁教政策という日本の重要な歴史と、それに関わる人物の遺品として、学術的に高い価値を持つとされています。

キアラと『沈黙』

遠藤周作の小説『沈黙』は、キアラの生涯をモデルにしたフィクションです。小説では、宣教師ロドリゴが棄教を強いられる過程が描かれています。この小説は、キリスト教信仰の深淵や、人間の弱さ、そして信仰と現実との葛藤を深く掘り下げており、世界中で多くの読者に影響を与えました。

小説は1971年に篠田正浩監督によって映画化され、2016年にはマーティン・スコセッシ監督によって『沈黙 -サイレンス-』として再び映画化されています。

参考文献・関連項目

『国史大辞典』（吉川弘文館）「キアラ」（執筆:高瀬弘一郎）
クロドヴェオ・タシナリ
ヴィンチェンツォ・チマッティ
ガエタノ・コンプリ
日本のキリスト教史#江戸時代
日本のキリシタン一覧
明治維新以前に日本に入国した欧米人の一覧

外部リンク

遠藤周作原作の映画「沈黙」のモデル キアラの墓碑 調布市指定有形文化財（歴史資料） サレジオ神学院 チマッティ資料館パンフレット
キアラ神父の墓碑が調布市の有形文化財に サレジオ神学院 チマッティ資料館
映画「沈黙」　ロドリゴ神父の実在モデルとなったキアラ神父の信仰 クリスチャントゥデイ 2017年2月18日。チマッティ資料館館長のガエタノ・コンプリ司祭へのインタビュー。
文化財 ジュゼッペ・キアラ神父墓碑 調布市公式サイト
17289 調布市文化財「キアラの墓碑」モデルのハリウッド映画「沈黙」が1/21全国ロードショー(終了) 調布観光ナビ 調布市観光協会公式サイト
サレジオ神学院 調布観光ナビ 調布市観光協会公式サイト
切支丹屋敷跡（きりしたんやしきあと） 文京区公式サイト
小説『沈黙』の司祭、肖像画発見 カトリック新聞オンライン
図書館にあるジュゼッペ・キアラに関係する蔵書一覧 - WorldCatカタログ

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