スウェーデン・ノヴゴロド戦争

スウェーデン・ノヴゴロド戦争：北欧と東欧の衝突

スウェーデン・ノヴゴロド戦争は、12世紀から15世紀にかけて、スウェーデン王国とノヴゴロド公国（後のノヴゴロド共和国）の間で繰り広げられた一連の戦闘です。両国は、フィンランド湾北岸からイングリア（現在のレニングラード州西部）にかけての地域を巡り、幾度となく衝突を繰り返しました。この地域は、北欧と東ローマ帝国を結ぶ重要な交易路「ヴァリャーグからギリシアへの道」の入り口であり、ハンザ同盟の勢力圏にも含まれていたため、戦略的な重要性が非常に高い場所でした。

戦争の背景

スウェーデンの拡大政策と、ノヴゴロドの勢力圏維持という国家戦略が衝突したことが、この戦争の根本的な原因です。スウェーデンはカトリック国であり、正教を奉じるノヴゴロドへの侵攻は、宗教的な意味合いも帯びていました（北方十字軍）。しかし、14世紀までは、ローマ教皇がこの地域に対する十字軍を公式に宣言した記録はありません。ノヴゴロド共和国が15世紀後半にモスクワ大公国に吸収合併されたことで、スウェーデンとの対立は終焉を迎えました。

前史：ヴァイキングの時代

スウェーデン・ヴァイキング（ヴァリャーグ）は、スカンディナヴィア半島から東方へと勢力を拡大する過程で、ネヴァ川を掌握し、イングリアの都市ラドガとの交易を行っていました。一方、ルーシではキエフを首都とするリューリク朝のキエフ大公国が成立し、各地にリューリク朝出身の公（クニャージ）を派遣して統治していました。ラドガは、ノヴゴロド公の支配下にあるノヴゴロド公国の都市でした。

988年にキエフ大公ウラジーミルが正教を国教として採用すると、カトリックのスウェーデン人と、正教のノヴゴロド人、そして多神教徒との関係は悪化しました。997年には、ノルウェー王エイリークの遠征軍によってラドガが破壊され、1015年にはエイリークの弟スヴェインの攻撃を受けました。1019年、キエフ大公ヤロスラフとスウェーデン王オーロフの娘インゲゲルドとの結婚により、事態は一時的に収束し、ラドガはインゲゲルドの所領としてルーシ側に帰属しました。この地域（イングリア）のスウェーデン語名/ロシア語名であるインゲルマンランド/インゲルマンランディヤは、インゲゲルドの名前に由来しています。

第一次スウェーデン十字軍（前後）

12世紀に入ると、スウェーデンとノヴゴロドの武力衝突が始まりました。『ノヴゴロド第一年代記』には、1142年にスウェーデン軍がバルト海でノヴゴロドの商船隊を襲撃し、多くの死者が出たと記録されています。また、1164年にはスウェーデンの大艦隊がラドガに迫りましたが、ノヴゴロド公スヴャトスラフ率いる艦隊によって撃退されました。

一方、ノヴゴロド人と協力的なカレリア人による、スウェーデン領への海賊行為も頻発しました。1187年には、スウェーデンの都市シグトゥーナが略奪を受けました。伝説によれば、ノヴゴロドの聖ソフィア大聖堂にある「シグトゥーナの扉」は、この時の戦利品としてノヴゴロドに運ばれたものとされています。しかし、ノヴゴロド側の史料にはこの襲撃に関する記述はなく、スウェーデン側の史料も「異教徒の襲撃」としか記録していません。

第二次・第三次スウェーデン十字軍

13世紀に入ると、スウェーデンとノヴゴロドはフィンランドの支配権を巡って対立を深めます。スウェーデンは1240年代にフィンランドへの遠征を行い、ノヴゴロド軍と衝突しました。1249年にはスウェーデンがフィンランドを征服し、カトリック化を推進しました。

1240年、スウェーデン軍はネヴァ川岸に上陸し、ラドガを陥落させましたが、ノヴゴロド公アレクサンドル（後のアレクサンドル・ネフスキー）の奇襲によって撃破されました（ネヴァ川の戦い）。この勝利により、アレクサンドルは「ネフスキー」の名を得ることになります。

1293年、スウェーデンはカレリア西部を占領し、ヴィボルグに城を建設しました。1300年には、スウェーデン軍がネヴァ川とオフタ川の合流地点にランズクローナ要塞を構築しましたが、翌年にはノヴゴロド軍によって包囲され、陥落しました。

1323年には、スウェーデンとノヴゴロドの間で最初の国境確定条約であるオレシェク条約（ノーテボリ条約）が締結されました。しかし、この条約は一時的な和平に過ぎず、その後も両国の関係は緊張状態が続きました。

その後：カルマル同盟とモスクワ大公国

15世紀に入ると、スウェーデンはカルマル同盟内部の闘争に巻き込まれ、ノヴゴロドはモスクワ大公国に吸収合併されることになります。スウェーデンとノヴゴロドの最終的な衝突は1445年でした。しかし、ノヴゴロドを吸収したロシア国家とスウェーデンの対立は、19世紀初めまで続くことになります。

フィンランドではこの時代、スウェーデン王権の下で法的地位が向上していき、国王選出にも関わるようになりました。また、12世紀から15世紀にかけての両国の戦闘の結果、フィンランドは西方教会（カトリック）、カレリアは東方教会（正教）に分割されることとなりました。

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