ストラトローンチ・システムズ

ストラトローンチ・システムズ

ストラトローンチ・システムズ（Stratolaunch Systems）は、航空機を用いてロケットを空中から発射する方式による宇宙輸送を主な事業として構想した、アメリカ合衆国の企業です。2011年にマイクロソフトの共同創業者であるポール・アレン氏と、ユニークな航空機開発で知られるスケールド・コンポジッツ社の創業者バート・ルータン氏によって創設されました。両氏は以前にも、民間初の有人宇宙飛行を達成した宇宙船スペースシップワンの開発で協力関係にありました。

構想と初期の計画

ロケットを大型航空機から空中で切り離して発射するという、同社の空中発射計画は2011年12月に公表されました。当初は2020年のサービス開始を目指していました。元NASAエンジニアのゲーリー・ウェンツ氏がCEO兼社長に就任し、また、かつてのNASA長官マイケル・D・グリフィン氏が取締役会メンバーを務めるなど、経験豊富な人材を擁していました。

変遷と現在の事業

しかし、創設者の一人であるポール・アレン氏が2018年に逝去したことに伴い、多くの計画が一時停止されました。2019年4月には、開発を進めていた巨大な母機「ストラトローンチ」が初飛行を達成しましたが、その翌月には事業を終了するとの報道がなされました。その後、同年10月に投資ファンドであるサーベラス・キャピタル・マネジメントによって買収されるに至ります。買収後、同社は当初の宇宙開発から方向転換し、現在は防衛産業向けの極超音速機の開発に取り組んでいます。

打ち上げシステム

初期の計画における打ち上げシステムは、主に以下の3つの要素で構成される予定でした。

母機: ロケットを搭載し、高高度まで運搬する大型航空機。
ロケット: 母機から空中発射され、ペイロードを宇宙に輸送するロケット。
統合システム: 母機とロケットの連携、ミッション管理を行うシステム。

これらの開発は、母機をスケールド・コンポジッツ社が、空中発射ロケットをノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ社（旧オービタル・サイエンシズ社）が、そして統合システムをダイネティクス社がそれぞれ担当しました。

母機「スケールド・コンポジッツ ストラトローンチ」

空中発射ロケットの輸送を担う母機は、スケールド・コンポジッツ社によって開発された機体です。モデルナンバーが351であることから、「スケールド・コンポジッツ モデル351 ストラトローンチ」、あるいは通称「モデル351 ストラトローンチ」とも称されます。また、伝説上の巨鳥「ロック」にちなみ、「ロック」という愛称も持ち、「モデル351 ロック」とも呼ばれています。

機体は、中央下部にロケットを懸架するため、それぞれに独立した尾翼を持つ双胴構造を採用しており、搭載するロケットの重量に対応するため6基のターボファンエンジンを装備しています。その結果、翼幅は117メートル（約385フィート）にも達し、ヒューズ H-4 ハーキュリーズ「スプルース・グース」の97.5メートルを凌駕し、航空機史上、最も翼幅の大きい機体となりました。全長においては、An-225「ムリーヤ」（84.0メートル）やボーイング747-8（76.3メートル）といった機体が、約72.54メートルのストラトローンチよりも長さを上回ります。しかし、双胴機としては史上最大の規模を誇ります。

乗員は右側の胴体に設けられた操縦室から機体を運用し、左側の胴体には飛行データの解析に必要な機器が搭載されています。機体重量は、燃料を満載したロケットの分も含めて54万キログラム（約120万ポンド）を超える規模となります。推進力は、6基のプラット・アンド・ホイットニー PW4056ターボファンエンジン（各基最大推力約25.4トン）によって生み出されます。開発コストの抑制を図るため、エンジン、アビオニクス、フライトデッキ、ランディングギアといった部品の一部には、ユナイテッド航空から購入した中古のボーイング747-400型機から取り外されたパーツが流用されています。

離陸には3,700メートル（約12,000フィート）の滑走路が必要とされ、運用可能な空港は限定されます。打ち上げミッション時における航続距離は、2,200キロメートル（約1,200海里）が見込まれていました。

ストラトローンチ社は当初、母機の最初のテスト飛行を2015年に、テスト打ち上げを2016年に実現したいと目標を設定していましたが、計画は遅延しました。完成した機体は2017年5月31日に初めて一般公開され、2019年4月13日に待望の初飛行を達成しました。

母機「ロック」諸元

全長: 72.54 m (238 ft)
翼幅: 117.35 m (385 ft) - 航空機として史上最長
全高: 15.24 m (50 ft)
最大総重量: 589,680 kg (1,300,000 lb)
エンジン: プラット・アンド・ホイットニー PW4056 ターボファンエンジン × 6基
最大高度: 13,716 m (45,000 ft)
乗員: 3名（パイロット2名、エンジニア1名）以上

ロケット計画の変遷

母機の開発が進む一方で、ロケットに関する計画は幾度となく変更されました。2019年1月時点では、新規開発は全て取りやめとなり、ノースロップ・グラマン社が保有する既存のペガサスロケットのみを運用する方針が示されていました。ペガサスによる打ち上げでは、高度400 kmの低軌道（LEO）に最大370 kgのペイロードを搭載可能とされました。

過去の主なロケット計画

初期計画 (2011年): スペースXが開発するファルコン9派生型の翼付き2段式液体燃料ロケットを使用。LEOに6,100 kg投入可能な大型ロケットを想定。
オービタル・サイエンシズ社との提携 (2012年): スペースXとの契約を解消し、オービタル・サイエンシズ社と提携。当初はサンダーボルトという名称の新規ロケットを開発するも頓挫。
ペガサスロケットの採用 (2016年): 既存のペガサスロケットを使用する方針へ転換。
新規ロケット開発計画 (2018年8月): ペガサスに加え、以下の新規開発計画を公表。PGAエンジンと呼ばれるロケットエンジンの開発も計画された。
Medium Launch Vehicle (MLV): LEO 400kmに3,400 kg投入可能な中型ロケット。
Medium Launch Vehicle – Heavy: MLVの1段目を3機束ねた派生型。LEO 400kmに6,000 kg投入可能。
* ブラック・アイス: 再使用可能なスペースプレーン。軌道投入・物資回収能力を持ち、将来的な有人宇宙飛行も視野。

しかし、創業者ポール・アレン氏の逝去に伴い、これらの新規ロケット開発およびロケットエンジンの開発計画は、翌2019年1月をもって全て中止されました。

買収を経て現在のストラトローンチ・システムズは、大型の母機をプラットフォームとして活用し、極超音速機などの開発に注力しています。

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