スペースシップツー

スペースシップツー (SpaceShipTwo)

スケールド・コンポジッツとヴァージン・グループの合弁事業であるスペースシップ・カンパニーが開発した、宇宙旅行を目的とする弾道飛行スペースプレーンです。この機体は、ヴァージン・ギャラクティック社によって運用され、一般向けの宇宙飛行サービスを提供しました。チケット価格は45万ドルで、商業運航開始時には約800人の予約があったとされています。

開発背景と設計

スペースシップツーは、世界初の民間有人宇宙飛行を達成したスペースシップワンの技術を受け継いで開発されました。スペースシップワンは、ポール・アレン氏の資金提供を受け、スケールド・コンポジッツが手掛けた「Tier One」プログラムの一部でした。スペースシップ・カンパニーは、この技術に関するライセンスをポール・アレン氏のモハーヴェ・エアロスペース・ベンチャーズから取得しています。

スペースシップツーは、最大8名（パイロット2名、乗客6名）の搭乗能力を持ちます。設計上の目標高度は高度110km（熱圏内）でしたが、開発中のエンジン性能の問題から、実際の最高到達高度はカーマン・ライン（高度100km）には届かない約90kmとなりました。

飛行方法は独特で、まず専用の母機「ホワイトナイトツー」に吊り下げられて高度約15,200mまで上昇します。その後、母機から分離し、搭載されたハイブリッドロケットエンジンに点火して加速。最大約4,200km/hの速度に達します。

機体サイズは、全長18.29m、翼幅8.23m、尾翼高4.57mです。客室は長さ3.66m、直径2.28mで、乗客が宇宙空間での無重力状態を楽しむことができるよう設計されています。

開発の過程

スペースシップツーの姿が初めて公開されたのは2006年でした。機体設計の詳細が明らかにされるのは2008年以降ですが、その間の2007年には、ロケットエンジンの地上燃焼試験中に痛ましい事故が発生し、3名の技術者が犠牲となっています。

2009年12月7日、最初の機体であるVSSエンタープライズがカリフォルニア州のモハーヴェ宇宙港で披露され、2010年3月22日には母機ホワイトナイトツーに吊るされて初飛行を行いました。その後、無動力での滑空飛行試験や、大気圏再突入時の姿勢制御システムである「フェザードモード」の試験などが重ねられました。

2013年4月29日、初めてロケットエンジンを噴射しての動力飛行試験が実施されました。しかし、ハイブリッドロケットエンジンの開発は困難を伴い、当初採用された推進剤では十分な性能が得られないことが判明しました。これにより、目標の高度100kmへの到達が難しい状況となりました。ヴァージン・ギャラクティック社は、並行して開発していた別の推進剤（ポリイミドベース）を使用するエンジンに切り替えることを決定。このエンジン変更や母機の主翼に亀裂が見つかった問題などにより、試験飛行は一時中断を余儀なくされました。

墜落事故

2014年10月31日、初の動力試験飛行中に悲劇が発生します。カリフォルニア州モハーヴェ砂漠上空で、1号機VSSエンタープライズが墜落。搭乗していたパイロット2名のうち1名が死亡、1名が重傷を負いました。

当初はエンジンの問題が疑われましたが、国家運輸安全委員会（NTSB）による詳細な調査の結果、原因はフェザリングシステムの早期起動にあると特定されました。このシステムは、機体が高速域（マッハ1.4以上）に達した後に使用されるべきものでしたが、事故機では加速中の低速域（マッハ1.0付近）で解除・作動してしまい、機体が構造的な負荷に耐えられなくなったのです。

NTSBは、事故の主な原因を「ヒューマンエラーに対する不十分な対策」と結論付けました。副操縦士がマニュアルで定められたタイミングよりも早くフェザーシステムのロックを解除してしまったことが引き金となりましたが、調査報告では、スケールド・コンポジッツ社の設計がパイロットのわずかな操作ミスでも致命的な結果に繋がる可能性を十分に考慮していなかった点や、訓練の不足が指摘されました。さらに、安全認証を行った連邦航空局（FAA）が、ソフトウェアやヒューマンエラーに関する要件を満たしていない可能性を認識しながらも、メーカー側の説明を受け入れ、再確認を怠ったことにも言及されています。

2号機と商業運航

墜落事故の検証と改良を経て、2号機となるVSSユニティが2016年2月19日に公開されました。この機体には、事故の教訓を踏まえた設計変更が施されています。ユニティも複数回の滑空試験を経て、2018年4月から動力飛行試験を開始しました。

2018年12月13日、ユニティはパイロット2名のみながらも高度82.7kmに到達し、スペースシップツーとして初の宇宙空間への有人飛行を実現しました。翌年にはさらに高度を伸ばし、パイロット以外にヴァージン・ギャラクティック社のインストラクターも同乗して商業飛行に向けた最終的な確認を行いました。

2021年7月11日には、ヴァージン・ギャラクティック創業者であるリチャード・ブランソン氏を含む4名の乗客を乗せた試験飛行が成功し、高度約86kmへの宇宙旅行が実現。しかし、この飛行中に飛行経路の逸脱や母機の強度に関する問題が確認されたため、商業飛行の開始はさらに延期されました。

運用終了と後継機

VSSユニティによる初の商業飛行は、2023年6月29日に実施されました。以降、約1ヶ月から5ヶ月の間隔で計7回の商業宇宙飛行が行われ、合計23名の乗客が宇宙空間を体験しました。

ユニティは、2024年6月8日の7回目の商業飛行（累計12回目の宇宙飛行）をもって運用を終了しました。ヴァージン・ギャラクティック社は、今後、より効率的で多数の乗客を運べる新型機「Delta Class」の開発・運用に注力する計画であり、2026年の飛行開始を目指しています。

スペースシップツーは、悲劇的な事故を経験しつつも、民間による宇宙旅行の実現に貢献した画期的な機体でした。その技術と運用経験は、今後の民間宇宙飛行の発展に引き継がれていくことになります。

関連項目

スペースシップワン
スペースシップ III
ホワイトナイトツー
宇宙旅行

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