ソビエト・ウクライナ戦争

ソビエト・ウクライナ戦争

ソビエト・ウクライナ戦争は、1917年12月から1921年11月にかけて、ウクライナの支配権を巡り、ウクライナ人民共和国とロシア・ソビエト連邦社会主義共和国（およびその傀儡政権であるウクライナ・ソビエト社会主義共和国）との間で行われた一連の武力紛争です。この戦争は、ロシア革命後の混乱期に勃発し、ウクライナの独立を求める勢力と、ソビエト政権による支配を確立しようとする勢力との間で激しい戦いが繰り広げられました。

戦争の背景

第一次世界大戦中の1917年2月、ロシアで二月革命が起こり、帝政が崩壊しました。キーウではフルシェフスキーらがウクライナ中央ラーダを組織し、ウクライナ民族運動を再興させました。しかし、ロシア臨時政府はウクライナ中央ラーダが推進するウクライナ化政策に反発し、対立が深まりました。

十月革命後、キーウで臨時政府とボリシェヴィキとの間で軍事衝突が始まると、ウクライナ中央ラーダはボリシェヴィキ側につきました。しかし、1917年11月の憲法制定会議の選挙では、ウクライナ社会革命党が過半数の票を獲得し、ボリシェヴィキの支持は少数にとどまりました。

第一次ソビエト・ウクライナ戦争

臨時政府が崩壊した後、ウクライナ中央ラーダは権力を掌握し、1917年11月22日にウクライナ人民共和国が成立しました。これに対し、ボリシェヴィキは反発し、12月11日に「第一回ウクライナ・ソビエト大会」を開催し、人民書記局を選出、赤軍が占拠したハリコフにソビエト政府を樹立しようとしました。ハリコフのソビエト会議には、ロシア人が多数を占めていました。

アントノフ・オフセエンコ率いるソビエト軍は、12月上旬にウクライナへ侵攻しました。12月16日から18日にかけて行われたキーウのソビエト会議の選挙でも、ボリシェヴィキの得票率は低く、事実上否認されました。12月25日には、ボリシェヴィキの傀儡政権であるウクライナ人民共和国（ソビエト派）がハリコフで樹立を宣言しました。

1918年1月、ソビエト軍はキーウへの総攻撃を開始しました。中央ラーダは1月9日に第四次宣言で独立を宣言しました。ラーダ軍はキーウを放棄し、1月27日にはドイツ帝国、オーストリア＝ハンガリー帝国とブレスト講和条約を締結し、国際的な承認を得ました。1月28日にはキーウにソビエト政権が樹立され、ラーダ軍が戻るまでの間、ソビエト軍は多数のウクライナ市民を逮捕・処刑しました。

2月12日には、ハリコフのソビエト傀儡政権が赤軍とともにキーウに侵入しました。ボリシェヴィキは、農村の穀物を強制的に徴収する「食料派遣隊」を送り込み、大量の穀物をロシアへ輸送しました。その後、ドイツ軍、オーストリア軍が迫るとボリシェヴィキは退却し、4月にウクライナ・ソビエト政府は解散しました。

2月16日には、ラーダ軍がドイツ軍とともにキーウへ入城し、2月26日にはオーストリア軍も入城しました。3月3日には、ブレスト＝リトフスク条約が締結され、ロシア共和国およびウクライナのボリシェヴィキ政府はドイツ、オーストリアとの間で講和しました。

第二次ソビエト・ウクライナ戦争

第一次世界大戦でドイツ、オーストリアが敗北すると、ロシアはウクライナへの再侵攻の準備を始め、11月17日にモスクワでウクライナの傀儡政権「ウクライナ臨時労働者・農民政府」が成立しました。12月20日、赤軍は宣戦布告なしにウクライナへ侵攻を開始しました。ウクライナ執政内閣は、4度にわたりロシア政府に和解を提案しましたが、全て無視されました。

1919年1月6日、ハリコフでウクライナ・ソビエト社会主義共和国の樹立が宣言されました。1月22日には、ウクライナ人民共和国と西ウクライナ人民共和国の併合が宣言されましたが、2月5日にはソビエト軍がキエフを占領しました。ソビエトは、ウクライナの農民に対して「余剰穀物」の徴発を命じ、強硬な政策を推し進めました。これにより、ウクライナではボリシェヴィキに対する反発が強まり、各地で暴動が発生しました。

1919年5月7日、ソビエト軍がポジーリャに侵入しましたが、ウクライナ軍は反撃に転じ、8月にはキーウを解放しました。しかし、その直後にはデニーキンの白軍が侵攻し、赤軍はウクライナ東部から撤退しました。

1919年11月、ウクライナ軍の一部が白軍に寝返ると、ウクライナ執政内閣は再びポジーリャへ撤退しました。ウクライナ軍は、白軍、赤軍、ポーランド軍に囲まれ、正式な軍事行動を停止し、ゲリラ戦を展開しました。これは、「第一冬期作戦」と呼ばれます。

ペトリューラ亡命政府とポーランドとの連携

1920年4月21日、ウクライナ人民共和国の亡命政府（ペトリューラ）はポーランド政府と攻守同盟を結び、ポーランド・ソビエト戦争が勃発しました。ポーランド・ウクライナ同盟軍は5月7日にキーウを解放しましたが、6月にはソビエト軍が奪還しました。10月にはポーランドとソビエトが和議を結び、ウクライナ軍はポーランド領へ撤退、強制収容所に抑留されました。

1921年3月、ポーランドとソビエトはリガ条約を結び、ウクライナは分割されました。西ウクライナはポーランド領、中部・東ウクライナはソビエト領となりました。ウクライナ人民共和国の亡命政府は、フランスのパリへ移りました。

ソビエト連邦の成立

ロシア内戦で赤軍が勝利し、さらにポーランドとの講和も成立すると、1922年12月30日にウクライナ・ソビエト社会主義共和国もその一員となるソビエト連邦が成立しました。

戦争の影響

ソビエト・ウクライナ戦争は、ウクライナに甚大な被害をもたらし、人口の10人に1人が死亡したと言われています。この戦争の結果、ウクライナはソビエト連邦の一部となり、独立を失いました。この戦争は、後のウクライナの歴史にも大きな影響を与えました。

タイムライン

以下に、ソビエト・ウクライナ戦争の主な出来事を時系列で示します。

1917年
10月7日：十月革命によりロシア臨時政府が崩壊し、ソビエト政権が成立。
11月20日：キーウでウクライナ中央ラーダがウクライナ人民共和国の樹立を宣言。
12月11日：ボリシェヴィキがハリコフにソビエト政府を樹立。
12月17日：ソビエトのロシア政府がウクライナ中央ラーダに最後通牒を送信。
12月25日：ソビエトのロシア軍がウクライナ人民共和国へ侵攻。
12月26日：ソビエト軍がハルキウを占領し、傀儡政権を樹立。
1918年
1月9日：中央ラーダがウクライナ独立を宣言。
1月14日：クルティの戦い。
1月28日：ソビエト軍のスパイがキーウで蜂起。
2月8日：ソビエト軍がキーウを占領。
2月8日：中央ラーダがドイツ帝国・オーストリア＝ハンガリー帝国と同盟。
2月24日：ドイツ・ウクライナの同盟軍がウクライナ解放を開始。
3月1日：ドイツ・オーストリア・ウクライナの同盟軍がキエフを解放。
4月29日：スコロパードシキー大将の政権が成立。国号はウクライナ国となる。
6月12日：ウクライナ国とソビエトのロシアが和議を締結。
11月17日：ロシアがウクライナ・ソビエト戦争の再開を準備。
12月19日：スコロパードシキー政権が倒され、執政内閣政権が成立。国号はウクライナ人民共和国。
12月20日：ソビエト軍が宣戦布告なしでウクライナへ侵攻。
1919年
1月16日：ウクライナの執政内閣が一方的にロシア政府に対し戦争布告。
1月6日：ハルキウでウクライナ・ソビエト社会主義共和国樹立宣言。
1月22日：キーウでウクライナ人民共和国と西ウクライナ人民共和国との併合を宣言。
2月5日：ソビエト軍がキーウを占領。
5月24日：ウクライナの執政内閣がポーランド軍と和議を結び、ポジーリャ地方で拠点を置く。
7月16日：ウクライナ軍が反撃を開始し、ソビエト軍をポジーリャから追い出す。
8月31日：ウクライナ軍がキーウを解放するが、白軍の前に撤退。
11月6日：ウクライナ軍の一部が白軍に寝返る。
12月4日：ウクライナの執政内閣が白軍・ソビエトの赤軍・ポーランド軍に囲まれる。
12月4日‐1920年5月6日：ウクライナ軍がウクライナの中部で第一冬期作戦を実行。
1920年
4月21日：ウクライナ人民共和国の亡命政府がポーランド政府と攻守同盟を完結。
4月25日：ポーランド・ソビエト戦争開始。ウクライナ軍がポーランド軍に味方。
5月7日：ポーランド・ウクライナの同盟軍がキエフを解放。
6月14日：ソビエト軍がキーウを奪い返す。
8月：ソビエト軍が西ウクライナを占領。
10月18日：ポーランド政府がソビエト政府と和議を結ぶ。
11月21日：ウクライナ軍がポーランド領へ撤退。
1921年
3月18日：ポーランド、ソビエトの両政府がリガ条約を結び、ウクライナが分割される。
1922年
12月30日：ソ連が成立。ウクライナ・ソビエト社会主義共和国はその一員となる。

参考文献

伊東孝之, 井内敏夫, 中井和夫編　『ポーランド・ウクライナ・バルト史』 (世界各国史; 20)－東京: 山川出版社, 1998年. ISBN 4-634-41500-3, ISBN 978-4-634-41500-3.
黒川祐次著　『物語ウクライナの歴史 : ヨーロッパ最後の大国』 (中公新書; 1655)－東京 : 中央公論新社, 2002年. ISBN 4-12-101655-6.
ロバート・コンクエスト『悲しみの収穫 : ウクライナ大飢饉-スターリンの農業集団化と飢饉テロ』恵雅堂出版、2007年。ISBN 978-4-87430-033-6。
中井和夫著　『ウクライナ・ナショナリズム』東京大学出版会、1998年. ISBN 4-13-036093-0.

関連項目

ブレスト＝リトフスク条約
ウクライナ危機
ホロドモール

もう一度検索