タイムライン (競走馬)

タイムライン

タイムラインは、1969年に生まれた日本のアングロアラブ競走馬、そして種牡馬です。その生涯は度重なる移籍と輝かしい勝利、そして波乱に満ちた出来事に彩られました。

競走生活の始まりと各地での躍進

タイムラインは3歳となった1971年 6月、船橋競馬場でデビューしました。デビューシーズンは8戦して6勝を挙げ、川崎競馬場で行われた全日本アラブ争覇で優勝するなど、早くからその素質を開花させます。

明けて4歳になると、タイムラインの競走生活はめまぐるしい展開を見せます。まず兵庫の柿木義也厩舎へ移籍し、姫路競馬場で2連勝を飾りますが、すぐに再びトレードされ、今度は川崎競馬場の鈴木春吉厩舎所属となりました。川崎では千鳥賞、そしてアングロアラブにとってのクラシック競走であるアラブダービーを連勝。しかし、この二冠達成後もまたトレードされ、再び兵庫へと戻り、溝橋弘厩舎へ転厩します。このように短期間に所属を変えながらも、各地で安定した、いやそれ以上の強さを見せ続けたのです。

兵庫帰厩後も園田競馬場の摂津盃や六甲盃を制するなど、その勢いは衰えませんでした。1972年末に大井競馬場で行われた全日本アラブ大賞典までの成績は、20戦14勝、2着5回という驚異的なもので、特に5連勝を二度も記録するなど、連対を外したのはわずか一度だけという圧倒的な強さを誇っていました。

初代「アラブ日本一」

1972年の全日本アラブ大賞典は、地方競馬全国交流競走として初めて開催された記念すべき一戦でした。全国から集まった強豪を抑え、タイムラインはこのレースに勝利。これにより、以後地方競馬の暮れの風物詩となるこの大競走において、彼は紛れもない初代王者、「アラブ日本一」の称号を手にしました。

兵庫の看板馬、そしてライバルの出現

「アラブ日本一」となった後も、タイムラインは遠征することなく、兵庫の園田・姫路競馬場を主戦場としました。前年の六甲盃から破竹の勢いで7連勝を達成するなど、その圧倒的な強さと人気から、当時「アラブのメッカ」と称された園田・姫路競馬の絶対的な看板馬となります。特に摂津盃では、68kgという非常に重い負担重量を背負いながら連覇を達成するなど、その実力は揺るぎないものに見えました。

しかし、この頃になると、1歳年下のスマノダイドウが頭角を現してきます。九州から移籍してきたスマノダイドウは、一時期大井に所属してアラブダービーを制覇するなど、世代のトップとしてタイムラインの前に立ちはだかる存在となりました。一方、タイムラインは重い斤量に苦しむレースが増え、それまでには見られなかった取りこぼしが目立ち始めます。それでも兵庫では依然として実力最上位でしたが、新時代の到来を告げるかのように迫るスマノダイドウとの直接対決が注目されました。

園田事件とその影響

1974年 1月30日、園田競馬場での両馬の初対決は、競馬史に残る異常事態、「園田事件」へと繋がります。この日の第8競走、スタート直後に1枠から4枠までのゲートが開かない不具合が発生し、一旦競走不成立（カンパイ）が宣言されました。しかし、再スタートでも不可解なことにタイムラインとスマノダイドウのゲートだけが遅れて開き、両馬は他の馬たちから大きく離されてしまうという前代未聞の事態となりました。結果、スマノダイドウが3着、タイムラインが4着に敗れ、人気を集めた両馬が馬券圏内（連対）から外れたことで大波乱となるはずでした。ところが、主催者側がゲート故障を理由にこの競走を再び不成立と発表したことが、一部の観客の怒りを買い、暴動が発生したのです。

この園田事件は、タイムラインの競走生活にも暗い影を落としました。事件後、両馬はさらに2度対決しましたが、いずれもかつての圧倒的な強さを見せることはなく、低迷期に入っていきます。タイムラインは事件後も7戦を消化しましたが、スマノダイドウに一度先着して勝利したレースを除き、連対することも叶わなくなってしまいました。園田事件以降、タイムラインに対する世間の評価は大きく変化し、成績不振に対して不信感を抱くファンも少なくなかったと言われています。

引退、そして種牡馬としての栄光

現役時代の晩年は不本意な結果に終わったタイムラインでしたが、1974年 11月の園田金盃を最後にターフを去り、種牡馬入りすると、彼は第二の馬生で輝きを放ちます。自身の勝った全日本アラブ大賞典の勝ち馬を複数輩出し、その父としての能力を証明しました。中でも特筆すべきは、1991年と1992年に全日本アラブ大賞典を連覇し、さらにサラブレッド相手の報知グランプリカップも連覇したコスモノーブルです。コスモノーブルは2年連続でNARグランプリアラブ年度代表馬に選出され、アングロアラブとして史上初めて獲得賞金2億円を突破するという金字塔を打ち立てました。タイムラインの血統はコスモノーブルの活躍を通じて日本の地方競馬界に大きな影響を与え、2010年代に入っても、曾祖母の父にタイムラインを持つクーヨシンが福山の重賞を制するなど、その血は確かに受け継がれています。

波乱の競走生活を送りながらも「アラブ日本一」の栄誉に輝き、そして種牡馬として偉大な後継馬を送り出したタイムラインは、日本のアングロアラブ競馬史において重要な一頭として記憶されています。

もう一度検索