高仙芝

高仙芝（こう せんし）

高仙芝は、高句麗出身の唐の武将です。西域での活躍で知られ、その生涯は波乱に満ちていました。

生涯

若き日と西域での頭角

高仙芝の父は舎鶏（しゃけい）といい、彼自身は容姿端麗で騎射に長け、勇敢で決断力に富んでいたと伝えられています。一方で、父は彼の柔弱な面を心配していたとも言われます。父の功績により、高仙芝は安西軍に入り、20歳余りで游撃将軍に任命されました。

当初、安西節度使の田仁琬（でんじんえん）や蓋嘉運（がいかうん）の時代には目立った存在ではありませんでしたが、後任の夫蒙霊詧（ふもうれいさつ）に重用されるようになりました。

達奚部落の討伐

開元29年（741年）、達奚（たつけい）部落が唐に反乱を起こし、碎葉城（すいようじょう）へ向かって北上しました。都知兵馬使となっていた高仙芝は、夫蒙霊詧の命を受け、2千騎で討伐に向かい、疲弊していた達奚部落を皆殺しにしました。この功績により、高仙芝は安西副都護・四鎮都知兵馬使に任命されました。

小勃律国討伐

小勃律（しょうぼつりつ、ギルギット）国が唐に背いて吐蕃（チベット）につき、付近の20数カ国も吐蕃に与していました。過去に田仁琬の時代から3度討伐軍が出撃しましたが、いずれも失敗に終わっていました。天宝6載（747年）、高仙芝は配下の封常清（ほうじょうせい）、李嗣業（りしぎょう）、監軍の辺令誠（へんれいせい）ら1万の兵を率いて討伐に出陣しました。

高仙芝は、歩兵も全て馬に乗り、安西（クチャ）を出発、カシュガルを経てパミール高原に入り、五識匿国（ごしきとくこく、シュグニー地方）に到達しました。その後、軍を3つに分け、別働隊を率いた趙崇玼（ちょうすいし）と賈崇瓘（かちょうかん）は別のルートを進み、本隊は護密国（ごみつこく）を通って、後に合流することにしました。

パミール高原を越えた後、合流を果たし、急流のパンジ川の渡河にも成功します。吐蕃軍が守る連雲堡（れんうんほう、現在のアフガニスタンのサルハッド付近にあった）を攻略し、5千人を殺害、千人を捕虜としました。ここで、辺令誠と3千人の兵を守備に残し、さらに進軍を続けました。

険しいダルコット峠（4703メートル）を下り、将軍の席元慶（せきげんけい）に千人をつけ、「大勃律（だいぼつりつ、バルチスタン）へ行くために道を借りるだけだ」と伝えさせました。高仙芝は小勃律の本拠地である阿弩越城（あどえつじょう）に到着後、吐蕃派の大臣を斬り、小勃律王を捕らえ、パンジ川にかかる吐蕃への藤橋を切り落としました。その後、小勃律王とその后である吐蕃王の娘を連れて帰還しました。この戦果により、西域72カ国が唐に降伏し、その威は西アジアにまで及んだとされています。

タラス河畔の戦い

高仙芝は、判官の王庭芬（おうていふん）を使わして、長安に直接戦勝報告を行いました。これにより、夫蒙霊詧の怒りを買いましたが、辺令誠が玄宗に高仙芝を擁護する上奏を行ったため、夫蒙霊詧は都に呼び戻され、高仙芝が代わりに安西四鎮節度使に任命されました。その後も、高仙芝は夫蒙霊詧に礼儀正しい態度で接したため、夫蒙霊詧はかえって恥じ入ったと伝えられています。

天宝8載（749年）には、左金吾衛大将軍の官位が加えられ、天宝9載（750年）には、トハラ（吐火羅）国からの要請に応じ、吐蕃と結んだとされる朅師（けっし、チトラル）国を攻め、王を捕らえて、別の王を立てました。さらに、西トルキスタンのタシュケント（石国）を偽って和睦を結び、攻撃して王を捕らえ、その財宝を略奪しました。

天宝10載（751年）、長安に入朝した後、タシュケント王を献上してから殺害し、開府儀同三司を加えられました。

タシュケント王子が逃亡し、各地の王に唐の横暴を訴え始めました。当時、勃興したばかりのイスラム帝国・アッバース朝の勢力が西トルキスタンに拡大しており、諸国の訴えを聞いたホラーサーン総督のアブー・ムスリムが、10万のイスラム軍を派遣しました。これに対し、高仙芝は李嗣業、段秀実（だんしゅうじつ）ら3万の兵を率いて、タラス城に到着し、イスラム軍と対峙しました。しかし、カルルク部族が裏切り、挟撃されたため大敗しました。高仙芝は李嗣業の進言に従い、退却しました。高仙芝は長安に戻り、右羽林大将軍・密雲郡公に任じられました。

安史の乱と最期

天宝14載（755年）、安禄山（あんろくざん）が反乱を起こし、安史の乱が勃発しました。栄王李琬（えいおうりえん、玄宗の皇子）が討伐軍の元帥に、高仙芝が副元帥に任命されました。高仙芝は、飛騎、彍騎（かくき）などの軍に募兵を加え、総勢数十万といわれる天武軍を率いて、すでに討伐軍の将となっていた封常清の後を追いました。

陝郡（せんぐん）まで来たところで、洛陽を奪われて敗走してきた封常清と合流しました。封常清の進言に従い、函谷関（かんこくかん）の西にある潼関（どうかん）まで退くことを決意しました。太原倉（たいげんそう）を開き、全ての物資を兵士に与え、残りを焼却して退却しました。その際、安禄山軍の攻撃により多くの兵士が逃げ出し、踏みつけあって死亡し、大量の武器、鎧、兵糧が放棄されました。しかし、潼関への退却は成功し、安禄山軍は撤退しました。

しかし、監軍となっていた辺令誠が再び口出しするのを無視したため、高仙芝は封常清とともに、玄宗に対して讒言を受けました。玄宗は両名の処刑命令を辺令誠に下しました。まず、封常清が処刑され、高仙芝も戻ってきたところを捕らえられました。

高仙芝は「退却したのが罪ならば死も辞さない。しかし、資材や兵糧を盗んだというのであれば冤罪だ」と訴え、配下に「私に罪があるなら、打ち明けるが良い。そうでなければ『枉（おう、冤罪）』と叫べ」と呼びかけました。すると、軍中からは「枉！」という叫びが大地を揺るがしました。高仙芝は封常清の遺体に「君は私が抜擢し、私に代わって節度となった。今度は君と同じ場所で死ぬとは、天命なのだな！」と語り、処刑されました。

将軍の李承光（りしょうこう）が代わりに指揮を執りましたが、新たに副元帥に任命された哥舒翰（かしゅかん）は潼関の守備に失敗し、玄宗は長安を脱出する結果となりました。

伝記資料

『旧唐書』巻百四 列伝第五十四「高仙芝伝」
『新唐書』巻百三十五 列伝第六十「高仙芝伝」
『資治通鑑』

主人公とした作品

小説

陳舜臣「パミールを越えて」（短編）

漫画

園田光慶「高仙芝」（「中国英傑伝1」収録、講談社漫画文庫、1997年）

参考文献

酒井敏明『旅人たちのパミール』春風社、2000年。

外部リンク

旧唐書 高仙芝伝（漢文、簡体字）
『高仙芝』 - コトバンク

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