タンジャーヴール・マラーター王国

タンジャーヴール・マラーター王国

タンジャーヴール・マラーター王国は、1675年から1855年まで南インドのタミル地方に存在したヒンドゥー王朝です。首都はタンジャーヴールに置かれ、マラーター王国の始祖であるシヴァージーの異母弟、ヴィヤンコージーによって建国されました。

歴史

建国

1673年、タンジャーヴール・ナーヤカ朝がマドゥライ・ナーヤカ朝によって滅ぼされると、その支配は一時的にマドゥライ・ナーヤカ朝の王弟に委ねられました。しかし、旧タンジャーヴール・ナーヤカ朝の一族による反抗が起こり、ビジャープル王国に支援が求められます。1675年、ビジャープル王国はヴィヤンコージーに援軍を要請。ヴィヤンコージーは、タンジャーヴールを占拠しますが、ビジャープル王国の命令に反し、自らタンジャーヴールの王（ラージャ）を宣言し、タンジャーヴール・マラーター王国を樹立しました。この背景には、ヴィヤンコージーが戦費を要求した際に、チェンガマラ・ダーサがそれを拒否したという経緯がありました。

王国の苦難

ヴィヤンコージーの死後、シャーフージーが王位を継承。シャーフージーの時代には、ビジャープル王国がムガル帝国に滅ぼされ、マラーター王国のサンバージーが殺害されるなど、激動の時代でした。ムガル帝国によってバンガロールを奪われましたが、ムガル軍がデカン地方に戻ると、シャーフージーは領土を奪還することに成功しました。その後、サラボージー、トゥッコージーと王位が引き継がれると、マドゥライ・ナーヤカ朝やラームナードゥとの間で領土争いが激化し、マラヴァ継承戦争が勃発、混乱が続きます。

王国の混乱と首都の占拠

1736年にトゥッコージーが死去すると、その息子ヴィヤンコージー2世が王位を継ぎましたが、実権は権臣サイイドに握られました。サイイドはヴィヤンコージー2世の妃を廃し、シャーフージー2世を王に据えましたが、マドゥライ・ナーヤカ朝が滅亡すると、タンジャーヴール・マラーター王国への攻撃は激しさを増しました。シャーフージー2世はオランダやイギリスに助けを求めましたが失敗。1739年には、カルナータカ太守の娘婿チャンダー・サーヒブによってタンジャーヴールは侵攻され、首都が陥落、シャーフージー2世は廃位されました。

諸勢力の動向とカーナティック戦争

首都陥落後、ヴィヤンコージー2世の弟であるプラタープ・シングが王位を継承し、サイイドを殺害。カルナータカ太守の軍勢を駆逐しました。しかし、ニザーム王国の侵攻によって王国は従属下に置かれ、貢納を強いられることになります。その後のカーナティック戦争では、プラタープ・シングはイギリス側につき、チャンダー・サーヒブを処刑。第三次カーナティック戦争では、フランス軍に対抗するためイギリスと協力しました。

カルナータカ太守による併合とマイソール戦争

プラタープ・シングの死後、トゥラジャージー2世が王位を継承しましたが、カルナータカ太守ムハンマド・アリー・ハーンはタンジャーヴール領を狙い、1773年に王国を併合。トゥラジャージー2世は投獄されました。しかし、イギリス東インド会社内の批判の高まりによって、1776年に王国は復活、トゥラジャージー2世は復位しますが、軍の解散とイギリス軍の駐留を余儀なくされます。第二次マイソール戦争では、マイソール王国のハイダル・アリーによって国土が荒廃し、経済は大打撃を受けました。

王国の藩王国化とイギリスによる併合

トゥラジャージー2世の死後、サラボージー2世が王位を継承し、アマル・シングが摂政となります。1792年、イギリスとの軍事保護条約によって王国は実質的な保護下に置かれ、タンジャーヴール藩王国となります。サラボージー2世の治世下で、王国は平和を取り戻し、文化が発展しました。しかし、1855年、サラボージー2世の息子シヴァージーが後継者なく亡くなると、タンジャーヴール藩王国はイギリスに併合され、その歴史を閉じました。

内政・統治

歴代の王は宗教に対し寛容であり、官職においても差別は行われませんでした。王は、大臣や顧問によって補佐され、マントリ、ダラヴァーイー、プラダーニー、ディーワーンなどの役職が存在しました。国家は州（スーバ）によって分けられ、その数は5つでした。

文化

初代ヴィヤンコージーをはじめ、歴代の王はタミル語、テルグ語、サンスクリット語などの文学を愛し、自らも楽曲を作成しました。18世紀には、王の保護のもとで多くの文学作品が作られ、南インドにおける文化の中心地となりました。特にサラボージー2世の時代には、サラスヴァティー・マハル図書館が大規模に拡張され、多くの文芸作品が残されました。また、サラボージー2世は、インドの諸語だけでなく、英語、フランス語、ラテン語などの外国文化にも造詣が深かったことで知られています。

歴代君主

ヴィヤンコージー（1675年 - 1684年）
シャーフージー（1684年 - 1712年）
サラボージー（1712年 - 1728年）
トゥッコージー（1728年 - 1736年）
ヴィヤンコージー2世（1736年 - 1737年）
スージャナ・バーイー（1737年 - 1738年）
シャーフージー2世（1738年 - 1739年）
プラタープ・シング（1739年 - 1763年）
トゥラジャージー2世（1763年 - 1787年）
サラボージー2世（1787年 - 1793年）
アマル・シング（1793年 - 1798年）
サラボージー2世（1798年 - 1832年、復位）
シヴァージー（1832年 - 1855年）

参考文献

辛島昇『世界歴史大系 南アジア史3―南インド―』山川出版社、2007年。
ビパン・チャンドラ 著、栗原利江 訳『近代インドの歴史』山川出版社、2001年。
K. R. Subramanian(1928). The Maratha Rajas of Tanjore

関連項目

マラーター王国
タンジャーヴール

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