ダルダニア人

ダルダニア人：古代バルカン半島の謎に包まれた民族

ダルダニア人（ダルダナイ）は、古代に現在のコソボ付近、ダルダニア地方に居住していた民族です。彼らはイリュリア人とトラキア人の境界に位置し、その民族的区分は未だに議論の対象となっています。

語源

「ダルダニア」という言葉の語源については、様々な説があります。有力な説の一つに、アルバニア語で「ナシ」を意味する単語に由来するというものがあります。この地域には、果物や動物にちなんだ地名がいくつか存在することも、この説を裏付ける根拠となっています。

神話と伝承

ギリシア神話において、ダルダノスはイリュリオスの息子であり、ダルダニア人の祖とされています。古代ローマの地理学者の中には、バルカン半島のダルダニア人と、トロイア戦争に登場する「ダルダニア人」を結びつける者もいました。彼らは、トロイアからバルカン半島に移住したダルダニア人が、時を経て退化したと考えたのです。

歴史

古代

ダルダニア人に関する最初の記録は、紀元前4世紀に遡ります。当時の王バルデュリスは、周辺の部族をまとめ上げ、マケドニアやモロッソスに対して軍事的な成功を収めました。紀元前359年には、マケドニア王ペルディッカス3世を破り、その領土の一部を支配下に置きました。

しかし、その後のマケドニア王ピリッポス2世との戦いに敗れ、一時的に勢力を弱めます。紀元前334年には、バルデュリスの息子クレイトスが他のイリュリア人と共にマケドニアに侵攻しましたが、アレクサンドロス大王に敗北しました。

紀元前3世紀から紀元前1世紀

紀元前279年頃、ダルダニアにケルト人が侵入しました。ダルダニア人は、マケドニアとの間で長きにわたる紛争を繰り広げました。紀元前230年には、ロンガルス王の率いるダルダニア軍がマケドニアに侵攻し、勝利を収めました。その後も、マケドニアとの間で一進一退の攻防が続きました。

紀元前201年、ダルダニア王バトは、ローマや他のバルカン諸国の勢力と同盟を結び、マケドニア王ピリッポス5世と戦いました。紀元前179年には、バステルナエ人に征服され、大きな打撃を受けました。紀元前2世紀半ばには、ケルト系のスコルディスキ族がダルダニア人を支配しました。

ローマ支配下

紀元前168年、マケドニアとイリュリアはローマの支配下に入りました。紀元前97年、ダルダニア人はローマ軍に敗北し、紀元前88年には、スコルディスキ族やトラキア系のマエディ族と共にローマのマケドニア属州に侵攻しました。

紀元前後にダルダニアはローマに征服され、ダルダニア人は他の部族と同様にラテン語を受け入れ、急速にローマ化していきました。

その後

ローマ帝国において、ダルダニアは当初モエシア属州の一部でしたが、後に独立した属州となりました。イリュリア人の言語は、人名の記録が残るのみとなり、次第に消滅していきました。古代イリュリア人は、ケルト、ヘレニズム、ローマ、そしてスラヴといった様々な外部からの影響を受け、その文化を変容させていきました。

政治

ダルダニアは、複数の部族からなる連合体であったと考えられています。最初の王として知られるバルデュリスは、紀元前4世紀前半に活躍しました。ダルダニア人の支配領域は「ダルダニケ」と呼ばれ、他の部族の土地とは区別されていました。

文化

古代ギリシアやローマの記録では、ダルダニア人は「極めて野蛮」な部族と見なされていました。しかし、彼らが音楽に興味を持ち、笛や弦楽器を演奏していたという記録も残っています。ダルダニア人の言語は、「中央イリュリア言語圏」に分類されています。

ダルダニア人は、その起源、文化、歴史において、未だ多くの謎に包まれています。今後の研究によって、彼らの実像がより明らかになることが期待されます。

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