チプロフツィ

チプロフツィ：歴史と文化、そして自然が織りなすブルガリア北西部の町

チプロフツィ（Чипровци）は、ブルガリア北西部、モンタナ州に位置する町であり、同名の基礎自治体の中心地でもあります。バルカン山脈西部のオゴスタ川沿いに広がり、セルビアとの国境に近く、豊かな自然に囲まれた美しい場所です。

歴史：鉱山町から絨毯の町へ

チプロフツィの歴史は、中世後期に鉱業と鍛冶が盛んだったことに始まります。ドイツ人の鉱山労働者の移住によってカトリックが伝わり、チプロフツィは経済的・文化的な中心地として、そしてブルガリアにおけるカトリックの中心地として発展しました。しかし、1688年のオスマン帝国に対する大規模な蜂起が鎮圧された後、多くの住民が殺害されたり、奴隷にされたり、あるいはハプスブルク帝国領へと逃亡しました。

約30年間無人となった町には、1720年代から正教会のブルガリア人が定住し始めました。その後、チプロフツィは絨毯生産の中心地として新たな発展を遂げます。伝統的な産業として畜産、農業、皮革取引なども行われていましたが、現代では人口減少と高失業率という課題に直面しています。それでも、蛍石鉱脈の大規模な開発への投資や観光産業の振興によって、町の経済は維持されています。

地名と町割

チプロフツィという地名は、古くは「キプロヴェツ」と呼ばれており、その語源は古代ギリシャ語の「κήπος（kipos：庭園）」という説や、人名に由来するという説など、諸説あります。「銅」を意味するラテン語の「cuprum」との関連性を主張する説もありますが、これは否定されています。

町は伝統的にいくつかの街区（マハラ）に分けられており、多くの街区は住民の職業や社会的地位にちなんで名付けられています。例えば、銀細工師の街区、毛皮職人の街区、商人の街区などがありました。17世紀まで「サクソン人」と呼ばれる街区が存在したことも確認されています。

地理：バルカン山脈のふもと

チプロフツィは、標高2000メートル級の山々が連なるチプロフツィ山脈のふもと、小さな渓谷の中にあります。チプロフツィ山脈はブルガリアとセルビアの国境を形成し、オゴスタ川が町の近くを流れています。この地域は湿潤大陸性気候に属し、高山気候の影響も受けています。年間平均気温は9.7度、降水量は776～816ミリメートルです。

自治体の面積は286.9平方キロメートルで、その約半分は森林、約4割が農地です。多様な植物が生息しており、中には樹齢150～300年の巨木も存在します。

町村

チプロフツィ自治体には、チプロフツィの町以外にも9つの村があります。それらの村は、チプロフツィの町と同様に、バルカン山脈のふもとに位置し、豊かな自然に恵まれた地域です。

人口：高齢化と過疎化

チプロフツィ自治体の人口は、1956年以降、高齢化と過疎化が進んでおり、多くの住民がより大きな町へと移住しています。2005年の時点で、自治体全体の人口は約4810人、チプロフツィ町の住民は約2375人でした。民族構成は、ブルガリア人が99％以上を占めています。

古代と中世：トラキア人、ローマ人、そしてスラヴ人

チプロフツィ周辺には、古代トラキア人の居住跡や、ローマ時代の要塞跡が残されています。ローマ帝国時代には、金、銀、鉛、銅、鉄などの鉱山が開発され、経済的に重要な地域でした。6～7世紀にはスラヴ人とブルガリア人がこの地に移住し、その後、ブルガリア帝国、東ローマ帝国、そして再びブルガリア帝国の支配下に置かれました。

ドイツ人の鉱山労働者（地元ではサシと呼ばれた）は、14世紀中頃またはオスマン帝国時代初期に移住してきたと推測されています。彼らは高い採掘技術を持ち、地元住民とは異なる特権を与えられていたと考えられます。しかし、15世紀中頃には地元住民とほぼ同化していったようです。

オスマン帝国時代：特権と繁栄

オスマン帝国時代、チプロフツィの鉱山は軍事的・商業的に重要視され、鉱山開発は継続されました。この地域はオスマン家の私的な所有物とされ、キリスト教徒は法的な差別を受けずに宗教儀式を行うことができました。チプロフツィ住民は高度な自治権を有し、地元の有力者から選ばれた評議会によって統治されていました。

16世紀には、チプロフツィは重要な鉱山と金属加工の中心地となり、造幣所も設置されました。また、この頃からローマ・カトリック教会からの関心も高まり、カトリックの使節団が派遣されました。

文化的全盛期：国際交易と教育

17世紀はチプロフツィの文化的・宗教的・商業的な発展のピークでした。「ブルガリアの花」と呼ばれ、バルカン半島でダルマチア以外で唯一ルネサンスの影響を受けた地とも言われています。地元の有力者たちはイタリアの大学で教育を受け、国際的な交易商人とのつながりを持ち、ヨーロッパの文化や技術を取り入れました。

カトリックの修道院に付属する学校は、ブルガリアでも有数の教育機関となり、ラテン語やブルガリア語、そしてセルビア・クロアチア語が用いられていたとされています。チプロフツィ出身の作家や翻訳家によって「チプロフツィ文学学校」が設立され、ブルガリアの歴史や宗教に関する書籍が出版されました。

チプロフツィ蜂起：抵抗と悲劇

チプロフツィの繁栄は、大トルコ戦争の影響を避けられませんでした。1688年、オスマン帝国に対する蜂起が起こりましたが、鎮圧され、多くの犠牲者が出ました。生き残った住民の一部は、ハプスブルク帝国領へと逃亡し、バナト地方などに新たな居住地を築きました。チプロフツィは廃墟と化しました。

再入植と現代：絨毯と観光

チプロフツィは1720年代から正教会のブルガリア人によって再建され始めました。かつての鉱山や国際貿易は衰えましたが、新しい住民たちは畜産、農業、皮革取引、そして絨毯生産を産業として発展させました。19世紀には絨毯生産が盛んになり、20世紀には協同組合が設立されました。共産主義時代には銃器の部品生産も行われましたが、体制崩壊後は鉱山閉鎖や市場縮小によって経済は低迷しました。現在では、絨毯生産と観光産業が主要な産業となっています。

政治、経済、教育

チプロフツィ自治体は、市長、副市長、議員によって運営されています。自治体には小学校、高等学校があり、伝統的な絨毯生産が主要産業として継続されています。観光産業も発展しており、多くの観光客が訪れています。2008年には、ヨーロッパでも珍しい蛍石鉱脈の開発が始まりました。

文化と宗教

チプロフツィの住民は、主にブルガリア正教会に属しています。町には歴史博物館があり、古代から現代までの歴史や文化遺産を展示しています。正教会の聖堂や、かつてのローマ・カトリック教会跡なども残されています。独特の伝統として、家族の守護聖人「スヴェテツ」を崇敬する習慣があります。

チプロフツィは、歴史、文化、そして自然が融合した魅力的な町です。かつての栄光と苦難の歴史、そして伝統を守りながら現代社会に適応しようとする人々の姿は、訪れる人々に深い感動を与えます。

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