チベットの歴史

チベットの歴史

チベットの歴史は、7世紀に成立した吐蕃王朝によるチベット高原の統一から始まります。本稿では、その古代から現代に至るまでの歴史を通観します。

古代

漢代の中国では、チベット系と思われる民族が羌や氐として記録されています。これらの遊牧民は、紀元前後にチベット高原南部に進入し、6世紀まで断続的に定住を続け、チベット中央部に多くの君主制国家が形成されました。

吐蕃王朝（7世紀 - 9世紀）

7世紀、ソンツェン・ガンポ王の時代に吐蕃王朝が成立し、チベット高原を統一。「チベット国」「チベット人」という観念が共有されるようになりました。吐蕃は、婚姻外交や征服戦争を通じて勢力を拡大し、南はネパール、北はシルクロードのオアシス都市を巡り、ウイグルやテュルクなど多くの民族と覇権を争いました。唐とは、交戦と和平を繰り返しました。640年には文成公主が降嫁し、822年には長慶会盟を締結し、国境を確定しました。

ソンツェン・ガンポの時代にチベット文字が作られ、仏教経典の翻訳が行われるようになり、仏教が広まりました。しかし、仏教の隆盛は、ボン教を支持する勢力との対立を生み、842年のラン・ダルマ王の暗殺により吐蕃王朝は崩壊しました。

中世

吐蕃王朝崩壊後、各地に氏族教団が成立しました。13世紀にはモンゴル帝国が侵攻し、サキャ派がモンゴルの後ろ盾を得て勢力を拡大しました。フビライ・ハンはパクパを帝師に任命し、チベットの支配を委ねました。この時期、モンゴルはチベットを13の地域に分け、万戸長を任命して支配しました。

14世紀には、パクモドゥ派が台頭し、中央チベットを掌握しました。その後、リンプン派が勢力を伸ばしましたが、16世紀にはツァンパ政権が成立しました。

近世

17世紀、グシ・ハンがチベットを平定し、ダライ・ラマ政権（ガンデンポタン）が成立しました。ダライ・ラマ5世は、清朝との関係を築き、1652年には北京を訪問しました。18世紀には、ジュンガルの侵攻を受け、清朝が介入し、チベットを分割統治しました。ポラネー政権が成立しましたが、清朝の影響下に入りました。

清朝は、アムド・カム地方を支配下に置き、19世紀にはチベット人の信頼を失いました。20世紀初頭には、イギリスが侵攻し、趙爾豊による建省運動が展開されましたが、辛亥革命により清朝が崩壊し、チベットは独立を宣言しました。

近代

1912年から1951年まで、チベットは事実上の独立状態を保ちました。ダライ・ラマ13世は近代化政策を推進しましたが、中国との関係は悪化しました。シムラ会議では、マクマホンラインが引かれましたが、中国はこれを認めませんでした。

現代

1949年、中国共産党が中国を掌握し、1950年にチベットに侵攻しました。1951年には、十七か条協定が締結され、チベットは中国の主権下に入りました。1959年には、チベット動乱が勃発し、ダライ・ラマ14世はインドに亡命しました。文化大革命中、チベットの文化や宗教は破壊されました。

1980年代以降、中国政府はチベット政策を一部緩和しましたが、チベット人の抵抗は続いています。2008年には、チベット全土で反中国デモが起こり、中国政府によって鎮圧されました。近年、チベット人の焼身自殺が相次ぎ、国際社会から懸念の声が上がっています。

チベットの歴史は、高原の厳しい自然環境と、周辺大国との複雑な関係の中で、独自の文化と宗教を守り抜いてきたチベット人の不屈の精神を示すものです。

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