チャブイ

チャブイ（Čabui）は、モンゴル帝国のカアン、世祖クビライの皇后です。漢字では察必と表記され、『集史』ではچابوى خاتون Chābū'ī Khātūn または چابون خاتون Chābūn khātūn と記されています。諡号は昭睿順聖皇后です。

彼女はコンギラト部族の出身で、父はアルチ・ノヤン。アルチ・ノヤンはチンギス・カンの第一夫人ボルテの弟にあたります。つまり、チャブイはボルテの姪孫にあたるクビライと結婚しました。彼女はドルジ、チンキム、マンガラ、ノムガンという4人の息子を産みましたが、ドルジは夭折しました。残りの3人は後にクビライ政権で重要な役割を果たします。

チャブイの実家であるコンギラト部族は、チンギス・カン家の姻族として、モンゴル帝国の中でも特に有力な部族でした。五投下と呼ばれる部族集団を率い、兄の皇帝モンケによって中国経略を委ねられたクビライを支えました。特に、同母姉が嫁いだジャライル部のムカリの子であるバアトルは、クビライの腹心として活躍し、1259年のモンケの死後、クビライがカアン位を奪取する際に大きな功績を挙げました。

チャブイ自身も、宮廷にアフマドら有能な商人を個人的な用人として集め、利殖を行いました。莫大な財産を蓄え、大きな勢力を持つようになったのです。

1271年にクビライが元朝を樹立すると、チャブイの息子たちは重要な地位を与えられました。次男のチンキムは燕王、三男のマンガラは安西王、四男のノムガンは北平王に封ぜられ、それぞれ中国北部、中国西部、モンゴル高原を分担して統治しました。中央政府においては、チンキムが行政機関である中書省と軍政機関である枢密院を統括し、さらにバアトルの子でチャブイの甥にあたるアントンが中書省の長官となりました。加えて、クビライによって新設された財務部局の長官には、チャブイの用人であるアフマドが抜擢されました。このように、元の政権中枢部はチャブイの縁者によって占められるようになったのです。この状況を評して、「大元王朝とはチャブイを扇の要とするコンギラト政権であった」と評価する歴史家もいます。

チンキムの権勢が高まり、1273年に皇太子の称号を与えられますが、同時にチャブイには皇后の印璽が与えられました。帝国の財務部門を握り、中書省の勢力をアントンと二分するアフマドの権勢も増大しました。アフマドの党派は、チンキム・アントンのもとに集まったモンゴル貴族や漢人官僚と対立を深めますが、チャブイが両者の接点として存在したため、対立は決定的なものには至りませんでした。

1281年2月にチャブイは崩御しました。彼女の死後、チンキム派とアフマド派の対立は激化し、翌年にはアフマドが暗殺されるという事件が起こります。

1294年にクビライが崩御すると、聖徳神功文武皇帝と諡され、廟号を世祖としました。同時に、チャブイも昭睿順聖皇后と追諡されました。彼女が築いた莫大な財産は、同じコンギラト部族出身のチンキムの夫人ココジンが相続しました。

チャブイは、皇后として、またコンギラト部族の代表として、元朝の政治に大きな影響力を持った女性でした。

コンギラト部デイ・セチェン家
デイ・セチェン
アルチ・キュレゲン（Alči Küregen）
チグゥ・キュレゲン（Čiγu Küregen）
オキ・フジン・カトン（Öki füǰin qatun）
昭睿順聖皇后チャブイ・カトン（Čabui qatun）
万戸オチン・キュレゲン（Očin Küregen）
ナチン・キュレゲン（Način Küregen）
万戸オロチン・キュレゲン（Oločin Küregen）
貞慈静懿皇后シリンダリ・カトン（Širindari qatun）
叛臣ジルワダイ（J̌ilwadai）
万戸テムル・キュレゲン（Temür Küregen）
万戸ディウバラ・キュレゲン（Diwubala Küregen）
アリギヤシリ・キュレゲン（Ariγiyaširi Küregen）
ブダシリ・カトン（Budaširi qatun）
万戸センゲ＝ブラ・キュレゲン（Sengge bura Küregen）
万戸マンジタイ・キュレゲン（Manǰitai Küregen）
* ナムブイ・カトン（Nambui qatun）

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