チャン族

チャン族（羌族）の文化と生活：古代からの歴史と独自の伝統

チャン族（羌族、Qiāng Zú）は、中華人民共和国に暮らす少数民族の一つです。2000年時点での人口は約30万6千人で、主に四川省アバ・チベット族チャン族自治州や綿陽市北川チャン族自治県などに居住しています。彼らはシナ・[[チベット語族]]チベット・ビルマ語派に属するチャン語を話し、独自の文化と伝統を現在まで受け継いでいます。

チャン族の歴史と名称

チャン族は、古代中国の史書にも登場する歴史ある民族です。殷代の甲骨文字にも羌人に関する記述があり、古代羌人は中国の西北、西南、中原の一部に広く分布していました。歴史上、漢族やチベット族と交流を重ね、その一部は現代のチベット・ビルマ語族諸民族や漢族と融合していきました。しかし、岷江上流域の渓谷に住む一部の羌人は、独自の文化を守り続け、現代のチャン族としてその系譜を受け継いでいます。

「羌」という名称は中国語による外名で、20世紀初頭から用いられています。一方、チャン族自身の自称は「ジュメー」(/ʐme/)です。古代羌人の最大勢力を誇ったタングート族は西夏を建国し、独自の文字である西夏文字を持っていました。西夏文字から復元されたタングート語は、現代のチャン語北部方言と比較的近縁であるとされています。

チャン族の生活と信仰

チャン族は主に農業を営み、牧畜も兼ねています。井戸掘りや石造建築技術に長けており、独自の建築様式を残しています。彼らの信仰の中核を成すのは、古代から続くアニミズムです。アニミズム的観念に基づき、あらゆる物や場所に精霊が宿ると信じ、多くの神々を崇拝しています。天神（太陽神）を主神とし、山の神、火の神、羊の神など、様々な神々が信仰の対象となっています。

アニミズム信仰はチャン族の生活の様々な面に影響を与えています。例えば、子供の誕生や家畜の出産時には、魔よけの儀式が行われます。見知らぬ人の入室を忌み、特別な印を家の入り口に置く風習もあります。また、特定の日に畑を耕したり、台所の五徳を踏むことを避けるなど、多くのタブーが存在します。シャーマン（許：シュイ）は、病気の治療や祈祷を行う重要な役割を担っており、チャン族社会において精神的な指導者としての地位を確立しています。

チャン族の宗教

チャン族の伝統的な宗教は、古代羌族から受け継がれたアニミズムです。しかし、歴史的に道教やチベット仏教、キリスト教などの外来宗教の影響も受けてきました。特に、チベット族との接触が深い地域では、チベット仏教が信仰されているケースも見られます。一方で、キリスト教の布教活動も展開されましたが、広範な山村部ではアニミズム信仰が依然として根強く残っています。

チャン族の婚姻

チャン族の婚姻形態は基本的に一夫一婦制です。しかし、歴史的には一夫多妻制も存在していました。婚姻には階級的な制限があり、家柄の釣り合いが重視されます。同民族内での通婚が一般的ですが、他の民族との結婚も許容されています。「いとこ婚」も盛んに行われ、特定の氏族間で通婚関係が維持されているケースも見られます。婚姻は通常、父母の取り決めによって決定され、早婚の傾向があります。「売買婚」の要素もあり、結婚には高額な費用がかかるため、経済的な負担が大きいことも課題となっています。「レヴィレート婚（転房）」と呼ばれる、夫の死後、妻が夫の兄弟と再婚する風習も存在します。

チャン族の葬祭

チャン族の葬祭にもアニミズム信仰が反映されています。霊魂不死の観念に基づき、死者の霊魂を冥土へ無事に送るための様々な儀式が行われます。使者に衣服や供物を与え、「通行券」を添えて送る風習や、死者の魂を呼び出し、身代わりとして羊を崖から落とす儀式など、独特の葬送儀礼が存在します。横死した者は火葬され、火葬の日時は、家族の誕生日と重ならないように注意深く選ばれます。

2008年四川大地震と文化保護

2008年の四川大地震はチャン族にも甚大な被害をもたらしました。地震の後、チャン族の文化と伝統を守るための保護・復興事業が積極的に行われています。

参考文献

王汝嫻、伊藤[[清司]]『中国少数民族の信仰と習俗 上巻』（第一書房、1993年）
厳汝嫻、江守五夫『中国少数民族の結婚と家族 下巻』（第一書房、1996年）
LaPolla, Randy J.; Huang, Chenglong (2003). A Grammar of Qiang. Mouton de Gruyter.

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