チリの歴史

先コロンブス期

ヨーロッパ人が到来する以前のチリには、マプチェ族やピクンチェ族といった先住民が主に居住していました。また、太平洋に浮かぶイースター島（パスクア島）には、ポリネシア系のラパ・ヌイ人が独自の文化を築き、モアイ像を建設しました。15世紀に入ると、インカ帝国が北部に侵攻し支配下に置きますが、マウレ川付近でマプチェ族の抵抗に遭い、南進は阻まれました。この時、マプチェ族はインカ帝国軍に勝利し、その支配を免れました。

スペイン人による征服とアラウコ戦争

1492年のコロンブスのアメリカ大陸到達以降、南米にもヨーロッパ人の侵入が始まりました。最初にチリに到達したのは、ポルトガル人の探検家フェルナン・デ・マガリャンイスで、1520年にマゼラン海峡に到達しています。1532年、インカ帝国がスペイン人によって事実上崩壊すると、1535年にディエゴ・デ・アルマグロがチリ遠征を試みましたが失敗。その後、1539年にペドロ・デ・バルディビアが侵攻を開始し、1541年にサンティアゴを建設しました。しかし、南部ではマプチェ族のラウタロらの激しい抵抗を受け、バルディビア自身も戦死しました。その後も、マプチェ族とのアラウコ戦争は300年にも及びました。植民地時代のチリは、先住民との戦いや海賊の襲撃が絶えなかったものの、小麦の生産などを通じて独自の経済圏を築き、入植者たちの堅実な気質を育みました。

独立と保守支配

16世紀以来、チリはスペインの植民地でした。1810年、ナポレオン戦争によるスペイン本国の混乱に乗じ、チリでも独立運動が起こりました。クリオーリョたちは自治を求め、1811年には奴隷輸入の禁止などの改革を行いました。しかし、スペイン王党軍との戦いに敗れ、再びスペインの支配下に戻ります（レコンキスタ）。その後、ベルナルド・オイギンスらがアルゼンチンと協力してスペイン軍を破り、1818年にチリの独立を宣言しました。独立後、オイギンスは自由主義的な改革を進めますが、保守派との対立が激化しました。1830年には保守派が政権を掌握し、1833年には中央集権的な憲法を制定しました。この保守支配下でチリは安定し、国力を蓄えましたが、イギリスの経済進出も始まりました。

太平洋戦争と民主化の進展

1879年、チリはボリビアとペルーに宣戦布告し、太平洋戦争が勃発しました。チリはイギリスの支援を受け勝利し、硝石資源をめぐって領土を拡大しました。1886年に大統領に就任したホセ・マヌエル・バルマセーダは、イギリスの経済支配からの脱却を目指しましたが、1891年の内戦で失脚し、自殺しました。内戦後は議会主導の政治が確立されましたが、硝石産業は衰退しました。

議会共和制から百日社会主義共和国まで

第一次世界大戦後の硝石価格の下落により、保守支配に抵抗したアルトゥーロ・アレサンドリが1920年の大統領選挙で勝利しました。アレサンドリは改革を試みますが、保守派の抵抗にあい、軍によるクーデターで失脚しました。その後復権し、大統領権力を強化する憲法を制定しました。1929年の世界恐慌によりイバーニェス政権が崩壊し、1932年には短期間ながら「社会主義共和国」が成立しましたが、保守派政権により混乱は終結しました。

人民戦線と人民連合

1938年には人民戦線からペドロ・アギーレ・セルダが大統領に就任しましたが、1941年に辞任。その後、共産党が連立から離脱し、人民戦線は終焉を迎えました。1952年にはポプリスモ政策を掲げたイバーニェス政権が成立しましたが、1958年には「民主主義防衛法」が廃止されました。1964年にはキリスト教民主党のフレイが大統領に就任し、穏健な改革を進めました。

アジェンデ政権

1970年には人民連合のアジェンデが大統領に就任しました。これは世界初の民主的な選挙で成立した社会主義政権でした。アジェンデは、国有化や農地改革など急進的な政策を進めましたが、経済は混乱し、アメリカの介入も加わり、社会不安が高まりました。

チリ・クーデターとピノチェト時代

1973年 9月11日、アウグスト・ピノチェト将軍らによる軍事クーデターにより、アジェンデ政権は崩壊しました。ピノチェトは軍事独裁体制を敷き、徹底的な弾圧を行いました。また、新自由主義的な経済政策を導入しました。しかし、この政策は貧富の差を拡大させました。ピノチェト政権は国際的な批判を浴び、1988年の国民投票で敗北、1990年に文民政権へと移行しました。

民政移管以降

民政移管後、チリは民主主義の回復を目指し、新自由主義経済の修正に取り組んできました。特に、軍政時代の被害者への補償や、貧困対策に力が注がれました。しかし、複雑な歴史を背景に、政治的な対立や社会的な不満も残っています。2006年には、ミシェル・バチェレが初の女性大統領に就任しました。2010年にはピノチェトの流れを汲む右派のセバスティアン・ピニェラが大統領に就任。その後、バチェレが再び大統領となり、2018年にはピニェラが再び大統領に返り咲き、2021年には左派のガブリエル・ボリッチが大統領に当選しました。現在も社会構造の歪みの是正や、新憲法の制定など、多くの課題を抱えています。

もう一度検索