デンマークの歴史

デンマークの歴史

デンマークの歴史は、先史時代から現代に至るまで、多様な変遷を経てきました。地理的な特性と国際情勢に翻弄されながらも、独自の文化と社会を築き上げてきたその道のりを概観します。

先史時代

紀元前12000年頃から人が居住し始め、紀元前3000年頃には新石器時代が到来し農業が始まりました。紀元前2000年頃には、インド・ヨーロッパ語族の人々が侵入し、新たな文化がもたらされました。

北欧青銅器時代

紀元前1500年頃に青銅器文化が到来し、ゲルマン人が居住する地となっていきました。

鉄器時代

紀元前500年頃、ケルト人によって鉄器がもたらされ、集落が形成されました。ローマ帝国との交易も行われ、毛皮や琥珀などが輸出されました。沼地から発掘される湿地遺体は、当時の宗教的儀式や刑罰の様子を物語っています。

5世紀頃からはゲルマン鉄器時代に入り、デーン人が到来し、先住民を同化させ、現在のデンマーク人の祖先となっていきました。彼らの文化や思想は、サーガや北欧神話に色濃く残っています。

中世

ヴァイキング時代

8世紀から11世紀にかけてはヴァイキング時代であり、デーン人もヴァイキングとして西ヨーロッパ各地を襲撃しました。8世紀前半にはオンゲンドウス王が登場し、ダーネビアケという土塁を築いて国土を防衛しました。

9世紀初頭にはフランク王国が勢力を拡大し、デーン人の支配地域に迫りました。フランク王国の文献にもデーン人の存在が記録されています。ゴーム老王がユトランド半島に興り、その子のハーラル1世（青歯王）はデンマークとスウェーデン南部を統一し、キリスト教を受け入れました。

デンマークの国名は「デーン人の国」を意味し、当時のデーン人はユラン半島のノルマン人を指しました。しかし、この時代の「デーン人」は民族的な共同体というより、政治的な共同体としての意味合いが強かったです。

キリスト教の受容

9世紀にはフランク王ルートヴィヒ1世の命により北欧布教が行われ、948年までにスレースヴィ、リーベ、オーフスに司教座が設置されました。960年頃にはハーラル1世がキリスト教に改宗し、神聖ローマ帝国の支援を受けるようになりました。

北海帝国、ヴァルデマー時代

11世紀、クヌーズ2世（クヌーズ大王）はイングランドに侵攻し、デンマーク、イングランド、ノルウェーにまたがる北海帝国を築き上げました。しかし、彼の死後、帝国は崩壊し、国内は混乱しました。ヴァルデマー1世（大王）の時代には、ロスキレ司教アブサロンの協力の下、王権が強化され、バルト海への進出が始まりました。アブサロンはエーアソン海峡に要塞を築き、これがコペンハーゲンの発祥となりました。

ヴァルデマー2世（勝利王）はエストニアを支配下に組み込みましたが、1223年に領土を喪失し、その後デンマークは再び混乱の時代を迎えました。14世紀半ばには、ヴァルデマー4世（復興王）が失地回復に尽力しましたが、ハンザ同盟との対立を招きました。

カルマル同盟時代

1375年、ヴァルデマー4世の死後、娘マルグレーテの息子オーロフがデンマーク国王オーロフ2世として即位し、デンマークとノルウェーの同君連合が形成されました。1397年にはカルマル同盟が成立し、北欧三国が連合しました。カルマル同盟はハンザ同盟に対抗するために結成されましたが、スウェーデンが離脱し、崩壊しました。

近世（デンマーク＝ノルウェー）

宗教改革と三十年戦争

クリストファ3世の死後、オルデンブルク伯がクリスチャン1世としてデンマーク王に即位し、オルデンブルク朝が始まりました。1460年には、スレースヴィ（シュレースヴィヒ）公国およびホルシュタイン公国を同君連合として組み入れる事に成功しました。クリスチャン2世はスウェーデンで反対派を粛清しましたが、これがきっかけとなり、デンマークはスウェーデンとフィンランドを失いました（カルマル同盟の崩壊）。

ドイツのマルティン・ルターの宗教改革がデンマークに及び、クリスチャン3世はルター派を国教とする宗教改革を実施しました。ノルウェーを完全にデンマークの支配下に置くことに成功しました（デンマーク＝ノルウェーの成立）。

クリスチャン4世は三十年戦争に介入し国力を傾け、スウェーデンとのトルステンソン戦争でも敗北し、バルト海の勢力図はスウェーデン優勢となりました。フレゼリク3世はスウェーデンとのカール・グスタフ戦争で敗れ、スカンディナヴィア半島南部のスコーネ地方などを奪われました。

絶対王政の時代

カール・グスタフ戦争終結後、デンマークでは絶対王政が成立しました。フレゼリク3世は官僚制度を整備し、貴族の特権を制限しました。クリスチャン5世は父王の政策を推進し、重商主義政策を推進しました。1683年には「デンマーク法」が制定され、法典が統一されました。

大北方戦争

フレゼリク4世は大北方戦争に参戦しましたが、得るものはなく、ロシアにバルト海の覇権を握られました。農業の停滞により財政難に陥り、敬虔主義に傾倒しました。

農業改革

クリスチャン6世の時代には農業危機が発生し、「土地緊縛制度」が出され、農民の移動が制限されました。フレゼリク5世の時代には農業危機の克服と政府主導の文化政策が行われ、輪作農業への転換が進められました。

クーデターと改革

クリスチャン7世の時代には、ストルーエンセが実権を掌握しましたが、宮廷クーデターにより失脚しました。フレゼリク王太子は啓蒙主義の影響を受け、農民改革を推進し、「土地緊縛制度」を廃止しました。また、1792年には奴隷貿易の廃止が決定されました。

デンマーク植民地帝国

デンマークは、トランケバル（インド）、セント・トーマス島、セント・ジョン島（カリブ海）などの植民地を保有し、奴隷貿易にも関与していました。

近代

ナポレオン戦争

ナポレオン戦争において、イギリス海軍によるコペンハーゲン砲撃を受け、フランスと同盟しました。1814年のキール条約により、ノルウェーをスウェーデンに譲渡しました。ナポレオン戦争の結果、国家財政は破綻しました。

デンマーク黄金時代

敗戦と経済的混乱の一方で、文化的にはデンマーク黄金時代が開花しました。文学、絵画、彫刻、哲学といったあらゆる分野で隆盛を極めました。

南ユラン問題（シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン問題）

1830年代には、国民自由主義（ナショナルリベラル）の動きが力を増し、1849年には立憲君主国となりました。1864年の第二次シュレースヴィヒ戦争で敗北し、シュレースヴィヒ、ホルシュタイン公国を割譲しました。

スカンディナヴィア通貨同盟

1873年、スウェーデンとデンマークは通貨同盟を締結し、ノルウェーも後に参加しました。第一次世界大戦の勃発とともに、スカンディナヴィア通貨同盟は終了を迎えました。

20世紀前半

1901年の総選挙で左翼・デンマーク自由党（ヴェンスタ）が選挙に勝利し、女性参政権が認められ、西インド植民地の売却が行われました。また、この時代に現在に至る福祉国家の基盤が造られました。

第一次世界大戦ではデンマークは中立を維持したものの、経済に大きな影響を与えました。1920年の住民投票の結果、北部スレースヴィ地方がデンマークに復帰しました。1924年の総選挙でトーヴァル・スタウニング率いるデンマーク社会民主党が勝利し、世界恐慌を克服し、現在に至る福祉国家の基盤を確立しました。

第二次世界大戦

第二次世界大戦では、1940年にドイツに国土を占領されました。ドイツとは同じゲルマン民族であり、ほとんど戦闘を行なわずに占領を受けたことで、ヒトラーはデンマーク政府の存続を認めました。1943年にドイツ占領軍は戒厳令を布告して直接統治下に置きました。1945年5月、デンマーク駐留のドイツ軍が降伏したことによって占領は終結しました。

現代

戦後は欧州共同体（EC）のなかの農業国家として比較的豊かな経済を維持し、福祉国家としても知られました。冷戦終結後は、ヨーロッパ連合（EU）の一員として、比較的安定した先進国の一つとなっています。フェロー諸島は1948年に自治政府を樹立し、EUには加盟せず、独自の通貨を用いるなど独自性を強めています。同じくグリーンランドも1979年に自治政府を樹立し、ECからも離脱しました。

もう一度検索